2月のイベント2013年02月01日 22時26分15秒

もう2月、またまた泥縄のご案内です。おお、何と今、ダブルブッキングを発見しました。下記の予定を完遂できるよう、調整します(汗)。

2日(土) 10:00 朝日カルチャー新宿校の世俗カンタータ講座。前回途中で終わっているBWV206と、BWV207a。どちらもいい曲ですよ!

同 16:00 いずみホールでいずみシンフォニエッタの定期演奏会。音楽監督、西村朗さんの還暦を祝っての西村作品特集です。全力で移動し(これはダブルブッキングではない)、会場でお目にかかります。

6日(水) 13:00 朝日新宿校、《マタイ受難曲》徹底講座。イエスの捕縛の場面に入り、二重唱と合唱を中心に取り上げます。ビラー~聖トーマス教会のDVDを新たに購入しました。

7日(木) 16:00 朝日新聞社の読者ホールで、ミュンヘン・フィル来日記念の講演会をします。しっかり原稿を準備するつもり。すでに満員と伺っています。

10日(日) 15:00 立川市のセレモア武蔵野ホールにお集まりください!12月の須坂で感動的な盛り上がりとなったコンサートを、「たのくら」ベースに再現します。

ピアノの部(ベートーヴェンの第31番のソナタ、シューベルトの変ホ長調即興曲)、バロックの部(モンテヴェルディのソロ・モテット、バッハの〈ベネティクトゥス〉とカンタータ第78番のテノール・レチタティーヴォとアリア)、オペラの部(《フィガロ》第1幕の二重唱、《魔笛》第1幕の夜の女王のアリア、《カルメン》第1幕の二重唱、同じく〈ハバネラ〉、《ホフマン物語》のオランピアのアリア、《サムソンとデリラ》第2幕のデリラのアリアに、小林秀雄と武満徹の歌曲というプログラム。出演は須坂と同じ(久元祐子、岩森美里、谷口洋介、大武彩子)ですが、トラヴェルソのみ、立川和男さんに交代します。ご連絡は渡辺公子さんまで(℡042-527-4801)。

16日(土) 10:00 楽しいクラシックの会(たのくら)例会、立川市錦町地域学習館。ワーグナーの《ローエングリン》を取り上げます。お問い合わせはやはり渡辺さんまで。

同 14:00 豊島区勤労福祉会館 TBSこと東京バロック・スコラーズの主催で、バッハのモテットについて講演します。

17日(日) 14:00 須坂駅前シルキーホール 「すざかバッハの会」の新シリーズ、「バッハが手塩にかけた《ヨハネ受難曲》--その独創性と変貌の秘密を探る」が始まります。その第1回は、「《ヨハネ受難曲》は受難曲の歴史を変えた――画期的大作が登場した経緯」と題してお話しします。しばらく《ヨハネ受難曲》をテーマにするつもりなので、その皮切りです。

20日(水) 13:00 朝日新宿の《マタイ》徹底講座その2です。第1部最後の大合唱曲を取り上げることになるでしょう。

23日(土) 13:00 朝日カルチャーセンター横浜校のエヴァンゲリスト講座、今月のテーマは《クラヴィーア練習曲集第2部》です。イタリア協奏曲とフランス風序曲を対比してお話しします。いい映像をご覧に入れます。

放送は、評判の良かったチェンバロ協奏曲リレー演奏の再放送です。

視察もいくつか入っているので、案外気の抜けない今月です。

自然との共生2013年02月04日 23時35分11秒

「自然との共生」。最近よく言われることで、価値のあることだと思いますが、たいへんな難題であることに気づかされました。自然と触れあいつつ、豊かに生きたいと思っておられる方は、たくさんおられることでしょう。しかし自然は時に牙をむき、災害をもたらす。このことは必然的に、防災の観念を生み出します。

ナイル川が毎年氾濫することは、災いと同時に、青ナイルからの沃土という恵みを住民に与えました。しかし20世紀の人々は、アスワン・ダム、アスワン・ハイダムの建設によって、治水を優先した。その功罪については、専門家の間でも意見が分かれているようです。たしかに、両面あるに違いないと思います。

星空を見る体験は、人間の精神的成長に、かなりの影響を与えるはずです。しかしそのためには、闇がなくてはならない。闇は危険ですから、人間は街灯を整備します。しかしそのもとで育った人は、銀河や彗星を見る機会がありません。

先日、富士市の海岸で防波堤に登り、富士と駿河湾の大景に接した、と書きました。逆に言えば、登らなくては海が見えなかった、ということです。このあたりの海岸にはかなり高い防波堤が巡らされ、災害に備えています。いいことだと思いますが、欠点もある。海岸で暮らす人たちがある意味で海を奪われ、防波堤というコンクリートの中で日々を送ることになるからです。

その利害得失には、いろいろな考え方がありうるでしょう。住んでおられる方がどう思っておられるのか、私にはわかりません。しかし人為的な環境のもつ弊害も、考えてみたいと思います。

この数日2013年02月08日 10時44分43秒

ちょっと間が空いてしまいました。この数日間を振り返っておきます。

2日(土)。バッハの世俗カンタータのクォリティを新宿の講座で確認したあと、走るように大阪へ移動。いずみシンフォニエッタの定期を聴きました。まもなく還暦を迎えられる音楽監督、西村朗さんをお祝いしての、オール西村プログラムです。宇宙的な思索を追求しつつも誰にもわかりやすく訴えてくる西村さんの作品はひとつの驚異だと思っていますが、西村作品を知悉したシンフォニエッタの高いクォリティにカール・ライスターの名人芸まで加わって、すばらしいコンサートになりました。雄弁なスコアを書いてきた西村さんの最新作(室内交響曲第4番)が、響きの間合いを重んじたものになってきたのは注目に値します。題して、《沈黙の声》。

1週間に3回も新幹線の往復をしたものですから、3日の日曜日は疲れてしまい、まったくやる気が出ませんでした。やっぱり過労はダメですね。4日(月)に仕事を再開。6日(水)の《マタイ》講座の準備をまず済ませ、資料を朝日カルチャーに送ったところ、担当者から、「こんなに早くいただいては、雪が降っちゃうじゃありませんか」との返信。関東に、大雪の危機が迫っていたのです。

5日(火)にマッサージ(新橋)と床屋(日本橋)を済ませて帰宅すると、朝日カルチャーから、大雪で休講になる場合は早朝に決定し、連絡する、という知らせが入りました。反射的に、しめた!という心の叫び。雪を楽しみにするのでは人様に迷惑ですが、子供の頃からよく陥った心理です。でも世の中、そう甘くはないですね。講座には皆さんしっかりおいでになり、盛り上がりました。

7日(木)は、「都市ミュンヘンとミュンヘン・フィル~その魅力を探る」という講演を、朝日新聞社で。場所が場所なので緊張しましたが、準備は十分にしましたので、責任は果たせたと思います。

ミュンヘン・フィルは1928年に市の楽団となってこの名称を得ましたが、それまでは「カイム管弦楽団」という個人所有のオーケストラで、1893年から活動していました。歴代の指揮者には、ワインガルトナーや作曲家プフィッツナーの名前があります。調べてみると、マーラーの第4、第8交響曲をマーラー自身の指揮で、《大地の歌》をワルターの指揮で初演したことになっています。

はて、カイム管弦楽団という名前を文献で見た記憶がないが、と思って手元の複数の資料を見たところ、どちらにも、「マーラー自身の指揮でミュンヘンで初演」「ワルターの指揮でミュンヘンで初演」という表現になっており、カイムという名前がありません。よく調べたわけではないですが、伝承の不備かもしれませんね。

終了後早々に抜け出し、オペラシティへ。サロネン指揮、フィルハーモニアのコンサートで、新聞批評の当番です。ルトスワフスキの第4交響曲はたいへんすばらしかったですが、ベートーヴェンには私として異論があり、どう書くべきか悩んでいるところ。批評の心理的負担から、なかなか抜け出すことができません。

大淀川2013年02月12日 09時02分30秒

三連休の始め、9日(土)は、劇場視察の特命を帯びて、宮崎に向かいました。九州では宮崎だけが超混んでいて、飛行機もホテルも、確保に苦労。プロ野球チームが集結しているためでしょうか。

時間がありましたので、ワンポイントで観光しようと思い、大淀川の河口を選びました。川に興味があるのは、千曲川のほとりで育ったからかもしれません。宮崎駅から大淀川を目指して歩くと(スマホが本当に役に立ちます)、市街地の、まことに閑静な一角に到達。聞こえるのは、自分の足音だけです。

余談ですが、私は足を上げないで歩くのを特徴としています。これが、女子学生には大不評。「足をちゃんと上げるように私が特訓する」と宣言する学生まであらわれるほどでした。しかし、摺り足にも利点はあるのです。たとえば、「知らない間に背後に立っている」といったことが可能になります。

その私が「聞こえるのは自分の足音だけ」と言うのですから、どれだけ静かか、おわかりでしょう。到達した大淀川は水量豊かですがゆったりと穏やかで、きっと、これが宮崎。海との境目も判然としませんでした。ポイントのない写真で恐縮です。


そこから北上して、港を過ぎ、一つ葉という地区へ。気持ちの良い自然道(下)を抜けて、ビーチにたどり着きました。日向灘が広がっています。


2時間歩いてさすがに疲れ、タクシーを呼んで(スマホが便利)駅へ。(続く)

絶品の「たたき」2013年02月13日 11時00分03秒

宮崎にはメディキットという、県立の総合文化施設があります。音楽、演劇、イベントの3ホールが複合しているのです。

駅前のホテルからそこまで歩き、途中軽く食事しよう、という計画を立てて出発しました。ところが繁華街とは反対の方向に歩くことになり、お店がありません。45分ぐらい歩いて劇場に着いてしまったため、食事は公演後の楽しみとしました。

3時間の公演(演劇)が終わり、再び徒歩で市心へ。盛り場に少し入ってみましたが、むしろホテルまで戻り、駅の近くで食べることにしました。ところがお店が少ない上にもう閉まっており、選べるのはラテン系の居酒屋か、日本料理のどちらか。そこでワインをあきらめ、「炎の舞」という、日本料理店に入りました。

内部は大賑わいで、カウンターの端に座るのがやっと。しかしこれが、すばらしいお店だったのです。焼酎「霧島」のお湯割りとともにいただいたオリジナル料理、「藁焼き カツオのたたき」と「宮崎鶏の炭火炙りたたき」が絶品。お客様の注文が飛び交っているのに、ひとりで隅にいる私にも気を配り、すぐに注文に応じてくれます。その心遣いが、お店の格というものでしょう。駅の一角にありますので、便利にお食事できます。

集中できる音楽空間2013年02月14日 22時58分45秒

うかつな人はおられるもので、「宮崎旅行中すみません。カツオのたたき、うらやましくて死にそうです」などというメールを頂戴しました。あの、宮崎に泊まったのは先週の土曜日ですよ。

遠距離の視察は、仕事にかかる時間に比べ、アプローチにかかる時間が長くなります。そこで頭をもたげるのが、「どうせ行くのだから」という考え。私もそうで、日曜日は鹿児島経由、新幹線を乗り継ぎ、途中下車してはおいしいものを食べて帰って来よう、と計画していました。

ところが気づいたのですね、10日の日曜日は午後、立川で私の仕切るコンサートがあることに。これでは飛行機でとんぼ返りし、リハーサルに駆けつけるのが精一杯です。あわただしいこと、この上なし。

立川で開いたのは、12月に須坂で行ったコンサートの東京版でした。出演者たちの熱望が、いろいろな方のご協力で実現したのです。メインタイトルが「春を呼ぶ音楽会」、サブタイトルが「立川26年、須坂10年…合計36歳の音楽会」。両都市で続けてきた講座が、私の中で、分かちがたく融合するに至っている昨今です。

コンサートについては須坂のおりに書きましたので繰り返しません。しかし今回書いておきたいのは、会場となった「セレモア・コンサートホール武蔵野」についてです。すずらん通りという立川駅からやや離れたところにあり、斎場内という立地でもありますから、訪れにくいとおっしゃる方もおられることでしょう。しかしこのホールが仲間内でのコンサートの場としてすばらしい効果を発揮することを、今回再認識したのです。

なにしろ音響設計が、永田穂先生。広くはないがゆったりくつろげる空間に、ベーゼンドルファー、プレイエル、エラールのピアノが並び、クラヴィコードもあります。そこに今回は、チェンバロを持ち込みました。照明を工夫してみると解説の話がたいへんしやすく、全員が自然にまとまって、音楽に集中できます。聴衆は「たのくら」の会員が中心でしたが、皆さん、同様の感想をもたれたようです。加えて献身的なサポートを、出演者に対してというよりはイベントに対して、してくださるのです。

現在のところ貸しホールはしていないようですが、ここでまたコンサートを開きたいと思います。その際は、ぜひお出かけください。

オチが淡泊と思ったら・・2013年02月16日 08時11分39秒

平素、読み物はほとんど文庫本を買っている私ですが、宮崎旅行にあたっては読む時間が多くなると考え、分厚い単行本を買いました。久しぶりに宮部みゆきで、『ソロモンの偽証』です。タイトルに惹かれた面が多分にありますが、自分が女性作家ばかり読んでいることに、自分で驚きます。

ディテールが愛嬌豊かにふくらんでいくのが宮部さんの特徴。それは出来事のめぐりを遅くする場合があり、今回も最初、その感なしとしませんでした。しかしひととおり布石を打ち終わって、それらが、すなわち一連の登場人物かみ合って回転し始めると、怒濤のような迫力。舞台が学校で感情移入しやすいということもあり、文字通り、読みふけってしまいました。

741ページもある大著。謎が次々に解き明かされるのを期待して最後を読みましたが、案外淡泊です。あのことはどうなったんだ、この人のことは書いていないな、などと、思いが残ってしまう。でも全部説明しないでそれを読者の心の中に残しておくのもスマートなのかな、と思ってふと気がつくと、「第一部 事件」となっているではありませんか!空恐ろしいほどの大きな構想があるようです。次が待ち遠しい。

《ローエングリン》讃2013年02月19日 10時26分36秒

「楽しいクラシックの会」の今年のテーマがワーグナーですので、作品をひとつひとつ調べ直しています。

《さまよえるオランダ人》と《タンホイザー》の間にワーグナーの大きな成長があり、《タンホイザー》自体にも幕を追うごとに充実があって、第3幕のすばらしさは格別、という認識を得たのですが、さて、《ローエングリン》はどうか。何となくこの作品は苦手、というのが偽らざるところでした。

しかし第1幕を勉強し直してみて、脱帽の心境です。《タンホイザー》の第1幕と比べても、ワーグナーの世界は格段に深められ、発展しています。ポイントは3つで、玄妙な和声の美、三管編成と弦の分割による多彩をきわめた音色、卓越した劇的構成。その認識は以前からありましたが、今回調べ直し、ここまで進んでいるのかとあらためて驚いた、ということです。

私の尊敬する米沢の友人は、音楽をたいへん広く、深く聴いている人。昨夏訪れたとき、彼があらゆる音楽で一番好きなのは《ローエングリン》の前奏曲だ、と言ったのでびっくりしました。もちろん、聖杯の接近を暗示する第1幕の方です。

そこで、フルトヴェングラーがベルリン・フィルを指揮した1930年の録音を引っ張り出して、聴いてみました。これが、すごい。聖杯の国が少なくとも芸術の中に存在することを確信していなければ、このように生命力のある演奏はできないでしょう。聴く方も、その確信を共有したい。ネズミの走り回るさまを見ながら聴く音楽では、絶対にありません。

こういう勉強ができ、作品に新たに感動できるのは、お仕事の場をいただいているから。「たのくら」に感謝です。

今月のCD2013年02月21日 00時44分16秒

今月、すばらしいベートーヴェン/交響曲全集に出会いました。ベルナルト・ハイティンク指揮、ロンドン交響楽団の2005、6年のライヴ。三重協奏曲なども入り、6枚組で6,000円です(キング・インターナショナル)。

大都会で新幹線に乗るようなベートーヴェンもよく聴きますが、これは、その正反対。都会の喧噪を離れ、深い森の空気を吸うような、なんとも安らぎにあふれたベートーヴェンなのです。音がやわらかく、みごとなバランスで綿密に演奏されていながら、すべてが有機性を帯びて自然。自己顕示がまったくなくて、作品が、生まれ故郷に帰ったように生きている。当然ながら、《田園》が格別でした。

最近台頭しているアンドリス・ネルソンスという指揮者、いいですね。チャイコフスキーの第4交響曲の、新鮮で心のこもった演奏に感心しました(オケはバーミンガム市響)。チャイコフスキーといえば、トリフォノフがゲルギエフと共演したピアノ協奏曲第1番も聴き応えがありました。

現役宣言2013年02月23日 01時43分29秒

現役最後の頃、定年になられた先輩とお話しするとき、「現役時代よりも忙しい」とおっしゃった方が、複数おられました。そんなはずはないだろうとしか思えませんでしたが、最近、そのように感じるようになったことを否定できません。もちろん、時間のかなりを占めていた本務校の仕事がないわけですから、気のせいだとは思います。しかし、以前よりかえって仕事に広がりが出て、かなり無理をしている感じもするわけです。

《ローエングリン》のあと、バッハのモテット、《ヨハネ受難曲》、《マタイ受難曲》について講演しました。準備をしている間に多々発見があり、いろいろな方と出会う喜びがあります。去年4月の段階では、一線を離れて徐々に収束していく、というイメージもあったのですが、それはない、とはっきり思うに至りました。勉強を続け、発信を続けたいと思います。若い人たちにいつも言ってきた、ベストを尽くし、先につなげろ、という言葉を、自分にも言い聞かせている昨今です。

少なくとも、『マタイ受難曲』と一対になるような、『ヨハネ受難曲』の本を書きたいと思います。その『マタイ受難曲』も、出版して19年。その後気がついたことがいろいろありますから、改訂新版を、考えるべきかもしれません。無欲になかなかなりきれない自分に気がつきます。