ソプラノってすばらしい!2013年03月01日 23時54分51秒

ご案内が続いてすみません。3月16日(土)の午後2時から、立川市錦地域学習館で行われるコンサートについてです。

「楽しいクラシックの会」(たのくら)が26年も続いているのは、錦地域学習館の視聴覚室をお借りできるおかげ。そもそも学習館(旧公民館)の「テレビ・セミナー」として、会は始まったのです。

そのお礼を兼ねて、毎年3月の「錦まつり」に、コンサートを出品しています。しばらく、「~って面白い!」という楽器シリーズを続けてきましたが、トロンボーンでひとめぐりしたと判断し、今年から声楽に戻ることにしました。

学習館の講堂を使っての入場無料のコンサートに、日本を代表するプリマドンナの澤畑恵美さんがご出演くださるというのですから、感激です。これでは、タイトルを「~ってすばらしい!」と変えざるを得ません(きっぱり)。しかもピアノで、久元祐子さんがお付き合いくださいます。私が言うのもなんですが、ぜいたくなコンサートです。

しかも、曲目がまた。アーンとドビュッシーのフランス歌曲に始まり(+ピアノ・ソロで《月の光》)、モーツァルトの幻想曲と、歌曲2曲。後半は池内友次郎さんの《プレリュード》に導入されて、お馴染みの日本歌曲5つ(《早春賦》、《さくら横丁》〔中田喜直〕、《花の街》、《小さな空》、《うたうだけ》。しかもしかも、締めが《ムゼッタのワルツ》!打っていて手が震えてきました(笑)。皆様、ご来場をお待ちしています。

今回のオルガン・シリーズ2013年03月03日 07時25分33秒

もう1件だけ、ご案内させてください。いずみホールにおけるバッハのオルガン作品全曲演奏会、第2回が3月20日(水、休日)の16:00から開かれます。

今回はプレリュードとフーガBWV549に始まり《パッサカリア》を目指して進むという、ハ短調を基本にしたプログラム。ハ長調のコンチェルトBWV595や変ホ長調のトリオ・ソナタ第1番があり、それらの間に《装いせよ、わが魂》BWV654などのコラール、コラール・パルティータがはさまれてゆきます。題して、「鼓舞される心」。

出演者は小糸恵さん。ヴォルフ先生のリストに登場した、初の日本人です。長くローザンヌ(スイス)にお住まいで、キャリアからもCDからも実力は疑いなしですが、お客様にどのぐらい来ていただけるか、実のところ不安に思っていました。しかしすでに残券はわずかであるとのこと。どうぞお急ぎください。

3月のコンサートの翌日、よく公開レッスンを開いています。今年はそれに代えて、シンポジウムを開くことにしました(21日=バッハの誕生日、19時)。

これだけご評価をいただいているいずみホールのオルガンについて詳しいご紹介をする機会をもてずにいましたが、今回、製作者のイヴ・ケーニヒ氏(アルザス)をお招きし、一般向けの講演をしていただきます。そのあと、小糸さん、科学者でオルガン演奏もなさる佐治晴夫さんと私の3人で、質疑応答。小糸さんの演奏も4曲あります。入場無料。20日のコンサートに来られる方はフリーパスですが、それ以外の方は申し込みが必要で、すでにキャンセル待ちになっていると聞きました。

ハーゲン四重奏団のコンサートも熱気のうちに終わり、ホールに盛り上がりの感じられる早春です。

もののあはれ2013年03月04日 11時37分40秒

 週刊誌に有名人の方々がエッセイを連載しておられますが、私が常々感嘆して読んでいるのは、週刊朝日連載、内館牧子さんの「暖簾にひじ鉄」です。内容といい見識といい毎回本当にすばらしく、心温められながら拝見しています。

 先週はお節句にちなんで、童謡《うれしいひなまつり》に関するお話でした。歌詞の2番に、「お嫁にいらした姉様に よく似た官女の白い顔」というくだりがありますね。この「いらした」を、「お嫁に行かれた」ととるか「お嫁に来られた」ととるか2つの説がある、というのが、まず、目からウロコのご指摘。たしかにどちらも可能で、印象はまったく異なったものになります。後者だとすると、お姉さまの存在感が前面に出て、官女はむしろかすむようです。

 まあでも、嫁入りして離れていったお姉さまの面影を思い出してなつかしむ、という前者のとり方が、自然でしょう。エッセイでは続けて、このお姉さまが作詞者サトウハチロー自身の姉と重なり合うのではないか、という説が紹介されます。ハチローより4歳上の姉は、結核にかかり、嫁入り話が破談となったあげく、19歳で亡くなった。「お嫁にいらした姉様」というくだりは、このお姉さまが天国に嫁がれたという意味に解釈できるのではないか、というのです。そう思って聴くと、河村光陽の悲しげな旋律もいっそうぴったりとしてきこえる、という趣旨の言葉で、内館さんはエッセイを結ばれています。

 心を打たれた私は、ネットで、情報を少し検索してみました。すると、「うれしいひなまつり」はなぜ短調で作曲されているのか、という疑問が提起されており、それに対して、それぞれ一理あるいくつかの意見が投稿されていました。またWikiには、「この曲が短調なのはハチローの姉へのレクイエムだからであるとの解釈もある」という記述が見つかりました。

 私の意見。おひな様に姉との類似を発見するという作者の心の働きに、亡くなった実姉の面影が投影されているというのは、間違いないと思います。ただ「神に招かれて、天国に嫁ぐ」という意味を作者が詩に意識的に封印したかどうかは、微妙。本来は素朴に発想された詩からのちの解釈がファンタジーとともに発見しているのだ、と見る方が、おそらく自然でしょう。こうしたファンタジーを触発しうるところに、名作の証明はあります。

 「今日はたのしいひなまつり」という歌詞に対して短調のもの悲しい調べが付されるという背景にあるのは、日本人が伝統的に培ってきた「ものあはれ」の感情ではないでしょうか。「もののあはれ」は、たえず過ぎていく時間への思いと結びついています。お節句は、楽しい中に、こうした時間感情を呼び起こす。主人公が女性になると、とくにそうであるように思われます。いたいけな、たおやかな女の子のお節句に、どこか、「もののあはれ」感が投影される。今では華やかなイメージしかない「結婚」も、「嫁入り」と表現されると、「あはれ」感がにじむと思われませんか。

「古楽の楽しみ」秘蔵写真2013年03月06日 23時31分45秒

5日(火)は「古楽の楽しみ」4月分の収録をしましたが、終了後スタッフ、出演者の皆様と打ち合わせ。かなり入念な打ち合わせになりました。しかしおいしいお店があるという話が出ては、みんなで押しかけないわけにはいきません。そこで、文化村前の「春秋」という和食のお店に出かけました(価格もリーズナブルな、いいお店です)。これ以上ないと思うほど楽しくなごやかな会食になりましたが、その雰囲気を感じていただくには、写真を見てくださるのが一番。こうした「人の和」から、番組は生まれているわけです。


これは解説陣ですね。右から、演奏者の立場から参加していただいている大塚直哉さん、イタリア/イギリス担当の今谷和徳さん、フランス担当の関根敏子さん、ドイツ担当の私。来年度も全員がんばりますので、ぜひご期待ください。


温かさに包まれる2013年03月10日 22時09分47秒

3月8日、いずみホールにおける「日本のうた」。午後2時からというシニア向けのコンサートでしたが、ご高齢の方にもたくさん足を運んでいただき、心の芯から温まるようなコンサートになりました。夜になっても、温かな幸福感がずっと残ったのはなぜでしょう。それは何より、お客様からいただいたものだというのが、出演者たちの一致した見解です。終了後、ステージで撮った写真。左から花岡千春さん(ピアノ)、中井亮一さん(テノール)、菅英三子さん(ソプラノ)、私、三原剛さん(バリトン)です。


明治も大正も昭和も、民謡に由来する歌はみな良かったけれど、痛感したのは、山田耕筰のすばらしさです。あまり歌われない民謡編曲もじつに非凡だし、耕筰オリジナルの《松島音頭》は、ずっと心に住みついて、離れません。歌い手3人の合作する名調子はアンコールの最後にも繰り返されて、大いに盛り上がりました。ステージ上で司会する私にとって、「日本のうた」は鬼門です。どうしても、涙が出てしまうからです。司会に涙は禁物、と心に命じてやっているのですが、なつかしの名歌が共感をこめて歌われたりすると、ダメですね。

演奏は皆さん、とても清潔だったなあ。キャリアを積むと演奏家にはどうしても慣れが出て、それによって成功する場合もそうでない場合もあると思うのですが、今回は皆さんキャリアをもちながらも、ベストを尽くして勉強してくださる姿勢があり、歴史を遡る企画として、ありがたかったと思います。応援をいただきましたので、この企画、続けて参ります。

至福の時2013年03月11日 23時59分19秒

10日(日)は、横浜みなとみらいへ、ハイティンク指揮のロンドン響を聴きに行きました。まずピリスがベートーヴェンの第2協奏曲を弾き、メインがブルックナーの第9、というプログラムでした。

たとえ客席にいても、涙を流すのはみっともないと思っている私ですが、このコンサートのすばらしさは筆舌に尽くしがたく、身体がわななくほど感動してしまって、涙が止まりませんでした。

感想は新聞批評にまとめましたので、そちらに委ねたいと思います。読み直してみると、祝福、神、大自然、幸福、祈りといった言葉が使われています。こういう言葉をつい使ってしまう演奏家が、まだいるのですね。新陳代謝がよくなって、寿命が延びました。

高峰秀子さん2013年03月12日 23時35分38秒

お若い方たちは、もう高峰秀子さんと言っても、ご存じないかもしれませんね。昭和の大女優で、『二十四の瞳』で長く記憶される美女。私の印象にある映画は、『喜びも悲しみも幾年月』です。といっても、とくにファンだったわけではありません。

地方都市の小さな本屋さんに、文庫を1冊買おうと思って入りました。目の前に高峰さんの新潮文庫が3種あり、『にんげん蚤の市』というのを買ってみました。ほんの出来心です。

いや驚きましたね。こんなに優秀なエッセイストであったとは。流れるような文章、横溢するユーモア、きりりとした気っぷの良さ、辛口の突っ込み。ぐいぐいと読んでしまいました。亡くなった方とこのように出会えるのも、本の楽しみです。

加美町バッハホール、貴重資料を入手!2013年03月13日 23時23分49秒

宮城県加美町のバッハホール(旧・中新田町)がバッハ関連の貴重な資料を入手したというお知らせをいただき、取るものも取りあえず、見に行ってきました。これは、お宝です!

加美町は、東北新幹線の古川から西に位置し、清流で育てられるわさび(←大好き)が名産です。バッハホールは、立派なオルガンをもつ、行き届いた建物。猪俣洋文町長がこのホールを生かした文化創りを志され、昨年アイゼナハを訪れて、現地のバッハハウスと友好協定を調印しました。その記念にバッハハウスから、貴重な資料の貸与を受けたのだそうです。


その資料というのが、詩人ピカンダーが1729年に出版した詩集『まじめな詩・諧謔的な詩・風刺的な詩』第2巻の、初版(!)なのです。世界に2冊しかないオリジナルの1冊とか。この詩集は《マタイ受難曲》の台本が収められていることで有名なのですが、私にとって同じぐらい関心を掻き立てられるのは、日本で再発見されその情報が世界を駆け巡った結婚カンタータ《満たされたプライセの町よ》BWV216の台本が収められていることでした(写真がその本で、右が猪俣町長さんです)。


流行作家ピカンダーが依頼に任せて書き綴ったたくさんの結婚祝賀詩の中に、それはしっかりと収められていました。《満たされたプライセの町よ》は、オリジナル・パート譜が国立音大の図書館、初版台本が加美町のバッハホールに所蔵されていることになったわけで、日本の曲と言ってもいいですね。いつか、ホールで響かせてみたいものです。

500ページになんなんとする詩集は、膨大な情報源。ぜひ研究してみたいと思います。

〔付記〕遠からずお披露目されるということで、準備が進められています。詳細は町とホールのホームページでご確認ください。

阿弥陀の効用2013年03月15日 23時58分31秒

飲み会のときって、どこに座るかで、悩まれませんか?複雑な心理が働いて、思うようにいかないことも多いですよね。それが、人間の心理というもの。神様にまかせれば、すべてが解決します。阿弥陀にすればよろしいのです。

というわけで、私の飲み会は、まず、阿弥陀くじを引くところから始まります。必ず、阿弥陀。以前も10人、20人というときはよくやりましたが、最近は、3人でもやる。私の目の前にAさん、その左にBさんがいるとして、そのままか、入れ替わるかにくじを引きます。人数が増えるにつれ、御利益は大きくなります。

もちろん結果は、希望(?)とは異なります。でも、とても気持ちがいい。いろいろな人とお話しする機会も増えて、神に感謝です。つい仲間同士で座りがちなコンパにも、ぜひ採用されるといいと思います。

入場記録更新2013年03月17日 20時09分58秒

16日(土)、午前中は、「楽しいクラシックの会」でワーグナーの《ローエングリン》講義。先日第1幕の完成度の高さを絶賛しましたが、第2幕、第3幕はちょっと複雑で、聖なる騎士が地上に降臨して人間と交わるという素材のむずかしさを、ワーグナーが完全には扱いきれなかったようにも思われます。そこで第2幕、第3幕を一回で終わらせ、来月は《ラインの黄金》に進むことにしました。

アバド指揮、ウィーン国立歌劇場のとても良いLDを鑑賞して、ドミンゴの歌唱がまさに謎解きの〈グラ-ルの物語〉にさしかかろうとしたその瞬間。ぷつんと、映像が切れてしまいました。仕方がないので、クライマックスは音のみで鑑賞。できすぎたタイミングで残念でしたが、ここで私は、ツキの法則により、午後のコンサートの成功を確信しました。

午後は、3月恒例の錦まつりコンサート、題して「ソプラノってすばらしい!」。澤畑恵美(ソプラノ)、久元祐子(ピアノ)両先生出演の豪華版とあって、錦町の地域学習館に続々とお客様が。講堂にある椅子を全部並べる盛況で、入場記録が更新されたそうです。盛りだくさんのプログラムで熱演してくださった両先生に、心から感謝です。

いい歳の私ですが、どういうものか澤畑さんの前に出ると赤面し、萎縮してしまう傾向があります。当日もそれが司会に反映されてわれながら情けなかったのですが、ご本人は私のそうした反応を楽しんでおられるご様子(汗)。ま、演奏者が萎縮して司会ばかりゆとりがあるよりは、いいですよね。

ついでに。ライプツィヒ・バッハ祭のプログラムが入ったので確認したところ、ガーディナーの《ヨハネ》をはじめ目玉がきれいになくなっており、これでは旅行どころではないと、青くなりました。あわてて連絡したところ、それは2014年の予告であるとのこと。良かった(ホッ)。

《ヨハネ》のエヴァンゲリストは期待通りマーク・パドモアでした。イエスはマシュー・ブルックで、アリアはモリソン、ブレイグル、マルロイ、ハーヴィーとなっています。楽しみです。