本質に迫るファウスト2014年06月24日 22時13分42秒

今、イザベル・ファウスト&アレクサンデル・メルニコフのブラームス・ソナタ全曲演奏が終わり、いずみホールからホテルに戻ってきたところです。絶対の自信をもって採ったコンサートですが、満席には至らず。しかし演奏はヴァイオリンの概念を覆すほとんど究極的なもので、満場を驚嘆させたと言って過言ではありません。

ブログで取り上げたかどうか記憶がはっきりしませんが、先般、日本の若いヴァイオリニストたちが大挙して出演するコンサートに接しました。出てくる人、出てくる人ことごとく立派で、すっかり感心。ただその方向は、ソリストとしての堂々とした押し出しを、音でも技巧でも、ステージマナーでも作っていくことに向けられているように見えました。

ファウストは、その正反対なのです。贅肉をすべてそぎ落として、本質そのものに肉薄していく。禁欲的とさえ思える厳しさが解釈を支配していて、効果を狙うところがなく、毅然とした高貴さで、音楽が運ばれてゆきます。徹底した、内方集中。音程がとてもよく、重音が透明に響きます。弱音が徹底して使われるため、聴き手は、ピアノと織りなす繊細な音の綾へと、どこまでも引き込まれる。メルニコフのまろやかなタッチは、ヴァイオリンの心地よい受け皿です。

こういう地道な演奏がお客様の熱烈な支持を獲得するのですから、本物を求める方がいかに多いかということですね。人当たりもよい方で、長いサインの行列にも笑顔を振りまいて対応しておられました。すばらしい芸術家。またぜひ、お呼びしたいと思います。

サッカー素人談義2014年06月27日 01時06分48秒

皆さん、しばらくサッカーに熱中しておられたことと思います。私はサッカーには基本的に興味がないのですが、報道の過熱にあおられ、コロンビアとの最終戦を観戦しました。ファウストの翌日、大阪、ニューオータニの一室で、早起きしました。

素人ですから、批判的なコメントはできません。ただ、一般論として、素朴な疑問を感じるのですね。それは、攻めるのこそが日本のサッカー、ということで、ほとんど攻撃中心の戦術が採られていたことです。もちろん点を取らなければ勝てないわけですが、強い相手に対して正面から攻めていくというのは、古来の兵法に照らしても、どうなのでしょう。

私は、将棋が少しわかります。将棋の世界では、ヘボは攻めるだけ。守りが強くなって初めて、ランクが上がってゆきます。なぜなら、攻めは自分の都合を中心に考えて進められますが、守りは、相手がどう来るか、どう来られたら自分が困るかを、入念に考えなくてはならない。すなわち、相手中心に考えるという高等戦術が、守りには必要なのです。名人になるのはたいてい、守りの強い人です。

というわけで、外野が守らず攻めろ!の大合唱になっていたのは、どうなのかと思っていました。それにしても、中南米は、小国もみんな、強いですね。だからこそ面白い、ワールドカップです。

【付記】野球も同じです。交流戦の間に、守備の破綻から大量失点というゲームをいくつも見ました。ソフトバンクの二遊間(本多、今宮)はすばらしいですね。

今月のCD2014年06月28日 07時09分13秒

6月の特選は、椎名雄一郎さんのオルガンで「バッハへの道」(ALM)。世界的名器である、ノルデンのシュニットガー・オルガンが使われています。4月に、できれば足を伸ばしたいと思っていてあきらめたところです。

ブクステフーデ6曲、ベーム3曲、初期バッハ2曲という、みごとな選曲。演奏も堂々としていて、レパートリーを知悉した人にのみ可能な信頼性があります。勉強しておられますね。

準推薦は、デオドール・クルレンツィス指揮、ムジカエテルナによるモーツァルト《フィガロの結婚》。古楽の主張を、随所に感じさせるモーツァルトです。いわゆる大歌手揃いというのではないですが、歌い手がみな楽器に耳を傾け、楽器の響きに融合するように歌っているのが驚き。フルヴォイスで歌おうとする傾向が強いオペラの世界で、勇気ある提言と受け止めました。完成された演奏ではありませんが、声楽の方々に聴いていただきたいと思います。フォルテピアノが八面六臂の活躍をします。

7月のイベント2014年06月29日 10時29分13秒

恒例、7月のご案内です。「古楽の楽しみ」はNHKの都合で、《ブランデンブルク協奏曲》の再放送になりました。次の番組は「キャノンズのヘンデル」というテーマで準備しています。またご案内します。

コンサートのステージに乗るのは、4日(金)19:00、いずみホールのバッハ・オルガン作品全曲演奏会です。今回は知名度の高いダニエル・ロート氏(仏)の登場で、《大フーガ》BWV542をトリに、ト短調の作品を多く含む、魅力のプログラムです。

朝日カルチャーの講座がたくさんあります。水曜日隔週の新宿講座は、今月は2日、16日、30日の3回です。10:00からのワーグナーは、いよいよ《神々の黄昏》。とりあえず序幕から入り、ゆっくり進めます。13:00からの《ヨハネ受難曲》は、イエス死後の《マタイ》引用の部分から始めて、重要なソプラノのアリアに至る予定です。

横浜では5日(土)に、10月から開始するモーツァルト講座のプレイベントを行います。「1日で学ぶモーツァルト」というテーマで、13:00から16:30まで(1回休憩)。今回の著作で得た新しい認識を、とりまとめてお話しします。必然的に晩年がテーマとなります。定例のエヴァンゲリスト講座・演奏篇は27日(土)13:00から。今月は「古楽器はどう違うか--弦楽器、合奏」篇です。

8日(火)は大阪音大での節目の講演。今回は、大学で取り組んでおられるという《コジ・ファン・トゥッテ》についてお話しします。15:15から。

19日(土)の立川「楽しいクラシックの会」は(錦地域学習館、10:00~12:00)、ワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》に入ります。とりあえず第1幕です。すぐに移動して、東大和市のハミングホールで行われるイベント「アンサンブル・フェア」へ。地域のくつろいだ音楽コンクールで、私は審査員です。明後日、打ち合わせをします。

24日(木)19:00からは、市川混声合唱団のお招きで、《マタイ受難曲》のお話をします。場所は男女共同参画センターです。お近くの方々、どうぞよろしく。