志賀高原 ― 2008年08月18日 23時19分30秒
8月は、須坂での講演のあと、近郊の山田温泉に泊まるのが習いになりました。気持ちのよい宿でくつろいだあと、今日は志賀高原へ。好天に恵まれ、空気も澄んでいたので、横手山山頂からの大展望を満喫しました。妙高、北アルプス、浅間・・・志賀高原の最高点は2300メートルほどですが、豪雪地帯なので森林限界が低く、高山の雰囲気を味わえます。久しぶりに、山好きの血が騒ぎました。
山に行かなくなって、久しくなります。昔はここに行こう、あそこに行きたい、と計画を練るのが楽しみでした。でも最近はどうも面倒になり、家にいればこれだけ仕事がはかどるな、などと思うようになってしまいました。これが年齢というものかもしれません。でも仕事のついでに機会を得て、夏の楽しみを満喫しました。貴重な1日でした。
考えすぎ? ― 2008年08月20日 22時42分44秒
バッハのカンタータも、少しずつDVDが出るようになってきました。コープマンのものは6曲収録されていて、古楽様式の洗練された演奏を愉しむことができます。その第106番を鑑賞していて、驚きました。
中間部の合唱曲のフーガに続いて、ソプラノのソロが出てきますね。感動的なところです。その部分の字幕の訳が、「イエスよ 導きたまえ。イエスよ 我を迎えたまえ」となっている。ドイツ語の原文は "Ja, komm, Herr Jesu!"で、直訳すると「そうです、来てください、主イエスよ」となるところです。この単純な文章を、字幕の訳者(名前が出ていません)は大いに工夫し、2つの文章に分けて「意訳」したわけです。
訳者は多分、前の合唱歌詞とのつながりを考えたのでしょう。前の歌詞は、「古い契約にこうある。人よ、汝は死ぬ定めなり、と」というものです。それに対して「そうです、主イエスよ、来てください」ではつながらないと考え、上記の訳を工夫されたのだと思います。しかしkommという動詞をこう訳すことは、私にはとうてい思いつきません。
ここは、「そうです、来てください」でなくてはいけないのです。なぜならこれは、『ヨハネ黙示録』の最後の部分からの引用であり、イエスの再臨への呼びかけにほかならないからです。この部分の感動は、聖書とのこうした響き合いにあると、私は確信しています。
学生の頃、聖書の引用を踏まえたテキストを訳す場合、流布している訳文を用いなければいけないかどうか、議論したことがありました。そのときは結論が出なかったと思いますが、やはり基本は、踏まえなくてはならないと思います。この場合のように、直接の引用である場合にはなおさらです。
とはいえ、一般の訳をそのまま当てておけばいい、というわけではありません。たとえば、ヴルガータ訳ラテン語の文章はふつうの聖書とは大幅に異なっていますから、なるべくラテン語を直訳した方がいい、というのが私の考えです。それはある程度、ルター訳ドイツ後にもあてはまります。
さて、「そうです、来てください、イエスよ」ではなんとなくつながりが悪い、と思うこと自体が間違っているわけではありません。106番の歌詞の中心部はオレアーリウスの祈りの本から取られているのですが、そこでは「死ぬ定めなり」と「そうです、来てください」の間に、「私はこの世を去り、キリストのもとにいたいと願っている」という、フィリピの信徒への手紙の一節が挿入されていたのです。バッハは、それを省略した。ですから、タネ本では「キリストのもとにいたい」を受けていた「そうです」が、死の定めを肯定するものに代わりました。
バッハがなぜその一文を省略したかについては別途考察が必要ですが、結果として、死の定めが肯定され、イエスの再臨が待望される、という流れになっていることは確かです。そしてそのことはとても大切であると、私は思います。
いらっしゃいませ~ ― 2008年08月22日 22時51分50秒
今日は『モーツァルト=翼を得た時間』の校正と追加原稿を渡した後、立川のビックカメラを訪れました。なにしろパソコンフリークですから、ひところはほぼ連日、この店を訪れていました。
立川のビックは、1Fがパソコンのハード、2Fがソフトとなっていました。したがっていつも、エスカレーターで上るのがならいでした。ところが先日来ソフト売り場がB1になり、面積も狭くなった。今日行ってみると、エスカレーターに乗る人はほとんど上に行ってしまい、下に降りる人はほとんどいません。売り場が閑散としているのは、いまこの世界が直面している問題そのものでしょうか。昔なら、買いたいソフトが目白押しだったのに、今はそうではありませんから。
ところで、この店に来るたびに、気になっていることがあります。店員の方が「いらっしゃいませ」と言うときに、ませ~(⤴)と最後がきゅっと上がるのです。ソード(四度)ぐらいの人もいるが、ソーレ(五度)ぐらいまで上がる人もいる。これって、なぜなんだろう。誰か名調子の人がいて、みんながまねをしたんでしょうか。それとも、上げると売り上げも上がるという判断があって、店の方針としているのでしょうか。
こういうことって、一度気になり始めると、とても気になります(笑)。そこで提案。みんなが後ろを上げると耳につきますから、後ろを下げる店員を、半分作ったらどうでしょう。そうしたら店には「いらっしゃいませ~」(⤴)と「いらっしゃいませ~」(⤵)が混ざり合い、変化に富んできます。音階をつける人も出てくるかもしれませんし、声楽科の学生が続々アルバイトに雇われる、という事態も生じるかもしれません。朝の開店時には、店を挙げての大合唱。ま、商売にプラスするかどうかはわかりませんが・・。
二分割の勧め ― 2008年08月23日 23時29分10秒
ONさんありがとうございます。ううむ、やっぱり「いらっしゃいませ~(⤴)」はお店の商策ですか。不自然なイントネーションですから、自然発生的に広まるとは思えませんでした。
でも、それでほんとにお客様の気持ちが盛り上がり、結果、財布がゆるむんでしょうかね。私なら、「ら」にアクセントがきて「せ」で下がる正しい日本語で、はきはきと言ってくれた方がよっぽど好感がもてますが。皆さんいかがでしょう。
お店がそう考えるとことには、多分理由があると思います。リーダーの思いつきかもしれませんが、それなりのリサーチを経ている可能性もある。アンケートなんか、しているんでしょうか。いずれにせよ、語尾上げが本当に売り上げに貢献しているのか否か。興味があります。
挨拶といえば、よくある「いらっしゃいませこんにちは!」というのも、変ではないですか。自然な応対ではまず出てこない日本語です。趣旨としては丁寧度アップ、お客様の好感度アップということではないかと思いますが、私は、挨拶はシンプルな方が気持ちがいいです。もし両方欲しいというのであれば、語尾上げ隊と語尾下げ隊を分けるように、「いらっしゃいませ」担当の人と「こんにちは」担当の人を分けたらどうでしょう。誕生日の偶数奇数か何かで。
市役所の窓口や大学の教務科あたりで「いらっしゃいませこんにちは!」というのを導入したら面白いかもしれませんね。空想したら楽しくなりました。
合唱コンクールで宇都宮へ ― 2008年08月24日 23時50分27秒
今日は、合唱コンクールの審査で宇都宮へ。全日本合唱連盟栃木支部の方々の心のこもったおもてなしのもと、審査委員長を務めました。
審査の心的プロセスは、いつも同じ。最初は選考に苦しみながら、こんな専門外のことを引き受けなければよかった、と激しく後悔し、審査結果の集計が出てきたころ自信を取り戻して意欲が湧き、最後はいい勉強をさせてもらったなあ、と思いつつ帰ってくる。このパターンです。
今回思ったのは、いずれ劣らずの、ないし徹底して一長一短の諸演奏に順位をつけるという作業は、自分自身の音楽に対する価値観を丹念に再検討する機会になる、ということです。したがって、聴いた演奏について考えているのと同じぐらい、それに対して反応をする自分自身について考えています。勉強になる、というゆえんです。
これまでも何度か聴く機会のあった合唱団、ルックス・エテルナ。すばらしい様式感で歌われたバードが心に残りました。バードをこれほど美しく再現するのはたいへんなことで、連盟理事長賞という、出演全団体のトップ賞に輝いたのもむべなるかなでした。
オリンピックの感想--感動篇 ― 2008年08月26日 22時35分30秒
オリンピックが終わりました。目一杯やっていたテレビ中継が急になくなったので、何となく空虚感があります。家にいる日が多かったので、結構見ることができました。その範囲で、感動篇、声援篇、拒絶篇、という3つの感想を書きたいと思います。
直接見た競技の内でもっとも感動したのは、男子の400メートルリレーです。銅メダルではありますが、金の価値がありますよね。金メダルもさまざまで、競技人口やライバルが少なくて結構取りやすいものと、本当に困難なものの差は大きいとか。世界中から足の速い人が集まってくる陸上短距離なんていうのは、もっとも至難なもののうちの一つでしょう。4人が1秒も無駄にせず最善を尽くした銅メダルは、本当にすばらいい快挙でした。
そして、後のコメントがまた良かった。諸先輩の業績や伝統に敬意を表し、自分たちはその上で走らせてもらっただけだ、という発言がありましたが、けっしてリップサービスではなく、心からそう思っている様子が伝わってきて、爽やか。これこそスポーツマンですね。こういう精神に出会えるのが、オリンピックの醍醐味です。
メダルは一人では取れない、というのは真実です。それを照明したのが、マイケル・フェルプス。2つ目の金メダルは400メートルリレーでしたが、第1泳者で泳いだフェルプスは、世界新を出した豪のサリヴァンに負けていました。アンカーにつなぐ時点でもアメリカはフランスに相当差を付けられ、しかも仏のアンカーは、100メートル金メダリストのベルナールでした。
ところが、米のアンカー、レザクがものすごいスパートでかなりあった差を抜き返し、1位でゴールしたのです。レザクは100メートル3位ですから、ほとんど奇跡的な力泳。これがあってフェルプスの8冠が成立したのですから、陰の功労者はレザクだと思います。これもまた、印象的なシーンでした。
オリンピックの感想--声援篇 ― 2008年08月28日 22時46分45秒
皆さんにも、特別に気持ちを入れて声援を送ったアスリートがいらっしゃったことでしょう。私にもいました。それは、卓球の平野早矢香さんです。
私はまったくの運動オンチですが、卓球のみ、少しできます。そこで興味があるわけですが、報道に、ずっと不満をもっていました。平野さんは全日本で優勝を重ね、実績はピカイチ。オリンピックでも、ダブルスに、シングルスに大車輪の活躍をしました。それなのに、テレビに出てくるのは愛ちゃんばかりで、ほとんど報道されません。もちろん、愛ちゃんがかわいくてスター性があるのは完全に理解していますが、これはいくらなんでも気の毒だと、平野さんを応援していました。きりっとしたマナー、裂帛の気合い。すばらしい選手です。
私の予定は、平野さんに個人戦のシングルスで上位入賞してもらい、ようやくマスコミの注目を集める、というものでした。しかし初戦で世界のナンバー2と当たり、負けてしまいました。うまくいきませんね。長い目で応援したいと思います。
オリンピックの感想--拒絶篇 ― 2008年08月29日 23時46分18秒
「最低」という言葉しか出てこない競技もありました。もちろん野球です。憤慨のあまりネットをあちこち見回ってみました。たくさんの批判、非難が書き込まれていました。普通なら、一方的な批判には不快感をもつものですが、今回は言われる側の傲慢度が大きいので、どんなものを読んでも、そのぐらい言って当然だ、と思ってしまいます。というわけで、私にも言わせてください。
大言壮語は、しない方がいいですね。私が最初に違和感を感じたのは、「このメンバーが日本の最強メンバーです」と見得を切ったあたりから。どう見ても最強とは思えなかったし、それだけに、選に漏れた選手はどう思うだろう、と余分な心配をしてしまいました。横浜の内川、楽天の岩隈みたいに、絶好調の選手がいましたからね。
負けられないとなれば、緊張を高め、万全の対策を練るのが兵法。それをしないで勝つのが当たり前というのでは、真剣に向かってくる相手に失礼ですし、野球の神様を怒らせます。
全体に、アマチュアを見くびる姿勢がありありで、初戦の審判への抗議の態度に、それがあらわれていました(←いちばん言いたいのはこの部分です)。アマチュアリズムというのは、審判を尊重し、その判定に従うことを前提にしています。かつて誤審に泣いた柔道の篠原選手も、「自分が弱かったから」で通し、審判批判はまったくしませんでした。これがスポーツマンシップじゃないでしょうか。プロが出るんだから審判もプロにしろ、とは・・・。
オリンピックはアマチュアが出るべきだというのは、裏に、プロはアマチュア精神を失っているから、という意味を含んでいますね、残念ですが、そう言われても仕方がないと思います。もちろん、日本の野球が色あせて見えるようになったことの問題も大きい。これだけ世間が失望しては、野球人気、視聴率の回復は望めません。
でも、助ける道も用意しておかなくては。星野さんのバックには読売の渡邉さんがついておられるようなので、一部に報道されているように来期巨人軍の監督になり、セ・リーグで、リベンジに挑戦していただけないでしょうか。
8月終わる ― 2008年08月31日 23時20分28秒
山梨県の合唱コンクールから戻ってきました。昨夜の宿は、穴山の能見荘といい、『日本百名山』で有名な深田久弥さんが最後に泊まられたところです。深田さんは宿泊の翌日この宿を発ち、すぐ近くの茅ヶ岳に登る途中、亡くなられたのでした。ついこの前のように思ったら、37年も前のことなのですね。私も百名山は印を付けながら登っていましたが、47で止まったままです。
閑静な宿に、すばらしい温泉がありました。温泉のために旅行するという機会はほとんどありませんが、このようなおりに、主催者の心づくしで立ち寄れるのはありがたいかぎりです。感謝。宿の周囲をめぐる山々は、茅ヶ岳のほか鳳凰三山、甲斐駒、八ヶ岳、瑞牆山などですが、すべて登ったことがあります。
折りからの雨で、列車が大幅に延着したのが、8月の最後になりました。8月が終わると、1年は3分の2が終わったことになります。秋風とともに、今年も残り少な。でも仕事も進んだし、まずまず、いい月でした。
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