「めくる」ことの効用 ― 2009年12月29日 22時37分50秒
本や楽譜を買うのは、私にとって、仕事の一部です。洋書、洋楽譜はいつも、本郷に店舗をもつ専門店、アカデミア・ミュージックから買っています。アカデミアさんには学会がお世話になっており、私の弟子も複数雇っていただいていますので、他の購入ルートには目もくれず、アカデミアさんを応援しています。
新刊は毎週届きますので、年間の総額が、30万から50万くらいになります。そのほとんどは、いつか必要になるに違いない、と思って確保した本。でも考えてみると、そう思って買い続けるほどには、私の人生に残りがありません。このままでは、死後残されるゴミを増やし続けるだけです。やはり買う以上は活用しないと意味がない、と、はっきり思うようになってきました。
とはいえ、買ったものを全部読むのはとうてい無理です。そこで思い出したのが、昔、恩師の1人である海老澤敏先生が洩らされた言葉。先生は、本を読む以上に、新しい本をめくるのが楽しい、とおっしゃっておられました。これこれ。ここには、読まないまでもめくっておけば、ただ本棚に入れてしまうよりずっといいし、知識の広がりにも役立つ場合がある、という知恵が語られています。
そこでめくってみたのが、ジョン・ライス著『ステージのモーツァルトMozart on the stage』(Cambridge、2009年)という本。モーツァルトのオペラを当時の劇場の実情とからめて論じたもので、委嘱、ギャラ、台本作者、歌手、リハーサル、改訂、宣伝、劇場、舞台装置、聴衆、上演、受容といったキーワードが見て取れます。
めくっただけですから内容紹介はできませんが、目を惹かれた部分があります。それは、モーツァルトのオペラはほとんどカーニバル・シーズンの所産であり、そのことが一般に忘れられている、というくだりです。著者によると、《ドン・ジョヴァンニ》第1幕の舞踏会場面で発せられる「自由万歳 Viva la libertà! 」という言葉は、18世紀のヨーロッパが宗教や道徳の拘束からの自由を満喫したこのシーズンの、モットーであったとか。仮面を付けた人々が階級を超えて社交を楽しむさまに、モーツァルトはイタリア旅行中に遭遇しました。こうした場面は、舞台にも好んで用いられたそうです。
なるほどそう考えると、この場面におけるこの言葉が自然に受け取れますね。もちろん、モーツァルトがこのメッセージに政治性を込めたという広く見られる解釈が、必ずしも否定されるわけではありませんが・・・。
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