卒業式2012年03月22日 23時40分34秒

19日(月)は、卒業式。私も卒業ですから、ひじょうに感動するのではないかと思っていましたが、そうでもなかったですね。それが儀式というものでしょうか。むしろ淡々とこなした、というのが実感です。

講堂大ホールで行われるのが、うちの卒業式です。大編成のブラスがステージを埋め、その前右側に、理事長、学長などの幹部の先生方。左側に、卒業生の名前を呼ぶ「読み上げ」人員が布陣します。今年、久々に読み上げを打診されました。今さら、と思っていったん断りましたが、やったほうがいいように思えてきて、受諾。なぜなら、着飾った卒業生はステージから眺めた方が、一般席から(すなわち後方から)眺めるよりもはるかに印象深いと思われたからです。

しかし読み上げに出るタイミングを間違え、司会の北爪道夫先生に申し訳ないことをしました。最後まで、トラブルがついて回ります。後期博士課程の修了となった阿部雅子さん、落ち着いた紫色の着物を召され、皆様ご存知の可憐な美貌に、風格と貫禄を加えているように感じられました。

終了後、理事長から感謝状をいただいたのが、嬉しい驚き。余韻にひたる間がなかったのは、その夜、サントリー芸術財団の重要な会議が予定されていたからです。大急ぎで移動し、会議。終了後、携帯に入った連絡を頼りに、謝恩会の二次会に合流しました。またまた深夜のラーメンで散会。たくさんの方とのお別れがあり、別れても別れても、限りがありません。

大きな区切り2012年03月24日 10時19分55秒

区切りの波は、いくつもに分けてやってきます。23日(金)が画期的だったのは、ついに部屋の片付けが終わり、自室、演習室の双方がカラになったこと。乱雑に積み上がっていた書類が、6箱のダンボールに変貌しました。

こうなるまでには、相当時間がかかりました。定年は職場における「死」のようなものだと思いますが、それだけに、かなりの労力が必要とされます。ともあれ、柄にもない長距離走や力仕事のおかげで、深夜帰りが多い割には、体調良好です。

22、23の両日、日曜日のモーツァルト公演のリハーサル。大学との公式な仕事の最後ですので、出演の方々の温かな協力のもと、陣頭指揮に近い形でやらせていただいています。クラリネット協奏曲は武田忠善さんのソロなので鉄壁ですが、《魔笛》第1幕の抜粋も面白くなりそうですよ。キャストの先生たちがさすがの熟練ぶりで、聴き惚れることもしばしばです。

解説はナレーション方式にし、フィナーレ前の解説は、モノスタートスのパントマイムで行うことにしました。合唱の学生たちも、未熟なりとはいえ、真剣そのもの。立川アミューで15:00から、料金千円です。ぜひお出かけください。

今日はこれから、横浜の朝日カルチャーに出かけます。カンタータ第147番を鑑賞し、そのワイマール稿とライプツィヒ稿の違いについて、詳しく話そうかと思っています。

オペラの解説2012年03月27日 09時49分02秒

25日(日)は、立川アミューでモーツァルトのレクチャー・コンサート。国立音大のメンバーとの、最後のオフィシャル・コンサートでした。その様子については、前話へのコメントでルビーさんが書いてくださっていますので、それをもって代えさせていただきます。

《魔笛》の解説は、寸劇入りのナレーションとしました。第1幕のフィナーレは長く、しかも入り組んでいますので、起こる事件、登場する人物、交わされる会話をなるべくよく理解していただかなくてはなりません。そこで、推敲を重ねた原稿を手に持って進めました。

しかしふと思ったのですが、これが小説であれば、また演劇であっても、事前に結果を明らかにしておくことはしませんよね。「どうなるのか」という関心が先へと引っ張っる原動力ですから、種明かしをしてしまっては、興ざめです。しかしオペラだと、むしろストーリーがわかっていることで、音楽を楽しめるのではないでしょうか。外国語だから、という理由だけではないように思うのです。

終演後、理事長、学長も臨席の上で、私を中心とする打ち上げを開いていただきました。ご出演いただいた先生方と懇談し、みなさんがさまざまな夢をお持ちであることを実感。話に加わりながら、これまでご一緒できたことの喜びと、最後になることの(一抹の)寂しさを感じました。ずいぶんたくさんやったのですよね。演奏の先生方が私を「音楽家」だと言ってくださったことが、嬉しい餞別でした。二次会で日本酒を飲み、それでも午後のうちに帰宅。肩書は31日までありますが、もう大学に行くことはなさそうです。

疲れる3月2012年03月28日 23時28分23秒

久しぶりに、NHK「古楽の楽しみ」の録音をしました。3月が再放送期間なのですが、私は2週分がそれに該当したものですから、しばらくスタジオに入らずにいたのです。

いつもサポート・スタッフの手元に、前日にはCDが届くよう、発送します。CDが着く頃を見計らって原稿を仕上げ、メールで送る。するとスタッフがさまざまなチェックをしてくださり、当日の録音と相成るのです。ただ仕事が立て込んでいると、前の日までに準備を済ませることがむずかしくなります。

今回もむずかしいスケジュールになっていたのですが、なんとか前々日にCDを発送し、前日(すなわち昨日)の夕方に、原稿を送ることができました。珍しい曲が多く、仕上げに、かなり手間取りました。

すると夜、スタッフから返信あり。同じ表現を使うのも何ですが、髪の毛が逆立ちましたね。いただいたCDと原稿は5月放送のものである、明日収録するのは4月放送分だ、というのです。4月放送分は完全に失念していましたので、収録曲の時間計算から始めなくてはならない。準備が間に合うかどうか、問題です。

夜疲れるまでやり、早朝に起きて、仕上げに励みました。時間がどんどん迫ってくるので、焦りが焦りを呼びます。こんな経験が、放送をめぐって、過去にどのぐらいあったことでしょう。間に合いましたが疲労困憊。最後まで楽のできない、この3月です。

小佐野さんに感動2012年03月29日 23時03分05秒

NHKで録音した後、小佐野圭さんのリサイタルへ。

小佐野さんは、8年がかりのベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲演奏会を、私が一度さし上げた文章をいつも冒頭に掲載して、継続してくださっていました。今年が最終回。「祈り」というタイトルがついています(最後に弾かれた《ハンマークラヴィーア》の第3楽章を念頭に置かれたようです)。なかなか行かれないでいましたが、同時卒業でもありますし、ちょうど時間が取れましたので、久しぶりに訪れてみました。

まず湧く心配は、お客様は入っているのかな、ということ。しかし王子ホールはほぼ満杯で、席を探すのに一苦労です。しかも客席に、熱気がある。小佐野さんがステージに長身をあらわすと、その熱気が、さらに高まります。人間味のあふれる温かいお人柄で、たくさんのファンを作っていると知りました。

演奏もさまざまな響きが楽想の展開に応じて使い分けられ、幻想的な部分のなごやかさが格別。音楽のすばらしさを一つ一つの場でしっかり伝えてゆく活動を感銘をもって受け止め、ホールを後にしました。

今月のCD2012年03月30日 23時26分11秒

いつもだいたい、14日ぐらいに新聞の締め切りが来ます。その時点までに集まっている新譜の中から3枚選ぶのですが、今月は候補がたいへん少なく(締め切り以降にかなり来ました)、選択に困りました。そこで、随時手に入れた輸入盤の中から3点を紹介する形にさせていただきました。

ベルギー在住のオルガニスト国分桃代さんが、「バッハとホ短調」「バッハとハ短調」というCD出しています(メロフォン)。トリオ・ソナタ6曲を各曲に適した異なったオルガンで演奏するというだけで企画に惹きつけられますが、選ばれたトリオ・ソナタの「調性」を看板にして近親調の作品をプログラミングするという着想に、舌を巻いてしまいます。1位にしたのは「ハ短調」の方で、曲目はトリオ・ソナタの第2番、パッサカリア、ト短調のファンタジーとフーガ、変ホ長調の《装いせよ、わが魂》など。ストラスブールのトマ・オルガンを用いた、味わい深い演奏です。

第2位に入れたのは、「ウィーン流儀で~ハプルブルク宮廷の音楽」と題する1枚(CORO)。演奏はル・ジャルダン・スクレです。17世紀を中心に18世紀始めまでの当地の音楽を集めているのですが(作曲家はレオポルト1世、カヴァッリ、ドラーギ、シェンク、フローベルガー、ケルル、シュメルツァー、サルトリオ、フックスなど)、ことごとく短調で、詠嘆に満ちた作品ばかり。栄華を誇る宮廷でこういう音楽が好まれていたとは驚きで、「時代」を実感します。5月の放送に出すつもりです。

震災復興を支援するチャリティ・コンサートが、世界で行われました。「仙台のための音楽~ベルリン皇帝教会における慈善演奏会」というCDを手にいれたので、3位としてご紹介します(primTON)。 沼尻竜典さんの指揮で、樫本大進さんらベルリン在住の音楽家が大集合している、温かい支援の記録です。

ご挨拶2012年03月31日 23時59分06秒

不詳私、この3月末で、第一の人生を終えることになりました。お世話になった方々にはお礼を、ご迷惑をおかけした方々にはお詫びを申し上げます。もう教授ではなくなりますので、「I教授の談話室」はこれで打ち切りとさせていただきます。ご愛顧、ありがとうございました。

しかし第二の人生が、シームレスに続いているようです。ご縁のある方々は、あらためて、よろしくお願いします。次の更新は、タイトルを改めて行うつもりです。さて、どんな人生になりますでしょうか。

【付記】感情が顔に出る人って、いいですね。原辰徳監督。