今月のCD2014年06月28日 07時09分13秒

6月の特選は、椎名雄一郎さんのオルガンで「バッハへの道」(ALM)。世界的名器である、ノルデンのシュニットガー・オルガンが使われています。4月に、できれば足を伸ばしたいと思っていてあきらめたところです。

ブクステフーデ6曲、ベーム3曲、初期バッハ2曲という、みごとな選曲。演奏も堂々としていて、レパートリーを知悉した人にのみ可能な信頼性があります。勉強しておられますね。

準推薦は、デオドール・クルレンツィス指揮、ムジカエテルナによるモーツァルト《フィガロの結婚》。古楽の主張を、随所に感じさせるモーツァルトです。いわゆる大歌手揃いというのではないですが、歌い手がみな楽器に耳を傾け、楽器の響きに融合するように歌っているのが驚き。フルヴォイスで歌おうとする傾向が強いオペラの世界で、勇気ある提言と受け止めました。完成された演奏ではありませんが、声楽の方々に聴いていただきたいと思います。フォルテピアノが八面六臂の活躍をします。

先月のCD2014年05月05日 23時49分06秒

先月のCD選は、オランダに行く前に、それまで集まった新譜で行いました。特選に選んだのは、モーツァルトのクラリネット五重奏曲と弦楽四重奏曲第15番ニ短調のカップリング。演奏は、アルカント・カルテットです(独ハルモニアムンディ)。

このカルテットはいいですね。ヴァイトハース、ゼペック、タベア・ツィンマーマン、ケラスという40代後半のソリストによって編成されていて、感覚が新しい。弦楽四重奏が、精妙をきわめたポリフォニーになっているのです。すなわち、4つの線がつねに生命力を保ち、柔軟に動いています。音楽的な主従関係が生じることはあっても、パート間の主従関係は生じない。それでいて名手にありがちな自己主張は抑制され、弱音を生かした透明な造りの中に、細やかな利かしが明滅してゆくのです。

イェルク・ヴィトマンのクラリネットはそう特別とは思いませんでしたが、クラリネットがこれほど弦に溶け込んだ五重奏は初めて聴きました。クラリネットのソロに弦が伴奏を付けるという演奏では(よくあります)、曲が生かされないと、あらためて思った次第。ニ短調四重奏曲もすばらしい演奏で、曲尾の意味深い弾き終わりに驚かされました。

今月のCD2014年03月27日 13時05分04秒

すごく評判になっているアンドレア・バッティストーニ指揮、東フィルによるレスピーギ/ローマ三部作の2013年ライヴ録音(サントリーホール)が、新譜として出てきました(デノン)。

確かにすばらしいですね。地中海の空と海を思わせるカラッとして明るい響きが沸き立っていて、日本の会場で日本のオーケストラが演奏しているとは思えない。こういう若手が出てきたのなら、これからのオーケストラ・コンサートは楽しみになりますね。

レスピーギのローマ三部作というとどうしても影が薄いのは《ローマの祭》ですが、今回はその躍動感が、とくにいいと思いました。叙景に歴史を加えた構想が、なかなか。歴史という点でいえば、《祭》における巡礼の歌や、何より《松》におけるグレゴリオ聖歌の引用に、歴史をしのばせるオーラが欲しかったと思います。それが、単なる旋律に聞こえますので。

モーツァルトのピアノ協奏曲第25番と第20番の、アルゲリッチとアバドによるルツェルン・ライヴ(グラモフォン)もさすがにいいですね。ジャケットの表紙に若い頃の写真が使われていたのにはびっくりしました。

今月のCD/DVD2014年02月24日 08時52分47秒

今月はタイミングもあり、モーツァルト《レクイエム》、クラウディオ・アバド指揮 ルツェルン祝祭管弦楽団(キングインターナショナル、DVD)に絞りました。新聞からそのまま引用させていただきます。

2012年8月のライヴ。天地ともに和す趣の、崇高な演奏だ。バイエルンとスウェーデンの放送合唱団、プロハスカ、ミンガルド、シュミット、パーペのソリスト、そしてオーケストラが一体となってまろやかな響きを奏で、それが曲ごとに、いや増す感動の潤いで満たされる。モーツァルトとアバドに共通するのは、最後の刻を音楽に捧げ尽くす姿だ。それだけに、部分的に採用されたレヴィン版に自我が見えるのは惜しい。終了後、拍手が起こるまでの深い静寂が、じつに45秒。それを共有した聴衆も立派だと思う。

今月のCD2014年01月23日 12時16分44秒

過日、デイヴィッド・ジンマン指揮、チューリヒ・トーンハレ管弦楽団によるシューベルト《未完成》を推薦しました。同じシリーズ(RCA)の完結編として今月出た《ザ・グレート》が、劣らぬすばらしさです!続けて特選というのもどうかとは思いましたが、それに値する名演奏だと思います。

とにかくフレッシュ。77歳でこの新しさはすごいですね。贅肉をそぎ落としたシンプルな響きと生き生きしたリズムでてきぱきと運ばれ、「精霊たちが喜び勇んで舞い奏でるかのような」軽やかな《グレート》が実現しています。アンサンブルが交流にあふれているのもよく、高揚感も無類。この交響曲を熱愛するものとしては、なんとも嬉しいディスクです。

もうひとつ、西山まりえさんのバッハ《イギリス組曲》全6曲(OMF)を挙げておきましょう。新聞には「こだわりの美意識を貫くチェンバロから、麗しい優雅が立ち昇る」と書きました。イギリス組曲とフランス組曲は平素ずいぶん違うように思っているのですが、このように演奏されると、通いあうものを感じます。

今月のお勧めCD2013年12月25日 10時32分55秒

今月もいいものがたくさんありましたが、特選盤には、ゲルハーヘルのマーラー歌曲集(《さすらう若人の歌》《亡き子をしのぶ歌》《リュッケルト歌曲集》)を選びました。新聞を引用します。

「凛として清冽なバリトンの声が、豊饒なオーケストラからすっくと立ち上がる。まさに、オーケストラ伴奏歌曲の醍醐味だ。ゲルハーヘルの発音の美しさは、ドイツ語の詩に自らを語らせようと思えばこそ。ケント・ナガノ指揮のモントリオール響も、マーラー特有の色彩的なポリフォニーを克明に描く。」

ムーティ指揮、シカゴ響によるヴェルディ《レクイエム》(キング)は、歌い手も揃っており、横綱相撲。ただ、意外性は感じません。福間洸太朗さんのショパン(DENON)は、清潔な詩情があって好感度大。最晩年のフルネが都響を振ったサン=サーンスの交響曲第3番、フランクの交響曲、エネスコの《ルーマニア狂詩曲第1番》などのアルバムも、なつかしのいい味を満喫できます。若い人は、どう聴くのでしょうね。

自分がライナーを書いたので推薦はしませんでしたが、小倉貴久子さんの「輪舞~モーツァルトの輝き」(ALM)、奔放な演奏で、じつにすばらしいです。

今月のCD2013年11月24日 12時23分16秒

「古楽の楽しみ」のために輸入盤を収集していると、これは紹介したいなあ、というCDにぶつかります。種々の国内盤との比較をもちろんするわけですが、今月は最終的に、それを選びました。ハンス=クリストフ・ラーデマン指揮、ドレスデン室内合唱団によって進行中の、シュッツの作品全集(Carus)からです。

私の世代だと、エーマン、マウエルスベルガーの印象が強いのが、シュッツの演奏。しかし小編成の合唱とピリオド楽器によるラーデマンの演奏はまさに新鮮にして爽やか、古楽時代のシュッツになっており、そこに、本場の信頼性がプラスされているように感じられます。

目下7種類出ているCDのどれを選ぶかで、迷いました。「ルカ受難曲/十字架上の七つの言葉」を選んだのは、《十字架上の七つの言葉》がシュッツ入門には最適だという考え(同時に経験)からです。しかし聴き込んでおられる方であれば、《ガイストリッヒェ・コーアムジーク》をお薦めします。何の虚飾もない、高みを振り仰ぐ精神の音楽です。12月2日からの「古楽の楽しみ」で種々流しますので、お好きなものを見つけてください。

国内盤では、マリス・ヤンソンス指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のライヴ・シリーズがとても楽しめました。最高レベルのオーケストラ演奏が、作品本位に、夢と愛をもって展開されています。

今月のCD2013年10月29日 23時45分49秒

今月は、ドビュッシーの交響詩《海》と、最近楽譜が発見されたという管弦楽組曲第1番のカップリングを選んでみました。フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮、レ・シエクルの演奏です(ACTES SUD 3,000円)。

これ、ドビュッシーの《海》を1905年初演時の響きで蘇らせたものだそうです。なんともチャレンジング。当時の楽器を使用し、パリ音楽院の伝える奏法を遵守した響きは一見渋いですが、「個性あるパーツが繊細な綾をなして作り上げる有機的な音像からは、えもいわれぬ色彩が発見されて」(新聞)面白いです。管弦楽組曲もいいですね。温かく美しい音楽です。

選び仲間の西原稔さんは、アシュケナージを中心としたラフマニノフの《悲しみの三重奏曲》を挙げておられました。たしかに演奏はとてもいいので、憂愁の調べであれば時間を忘れて聴いていたい、という方にはお薦めです。メリハリを求める方には、ちょっと違うかも。

トリフォノフ、ラシュコフスキー、ブレハッチという人たちの新譜を聴き、いま若い男性ピアニストが台頭しつつあるという印象をもちました。とくにブレハッチの弾くショパン《ポロネーズ集》(グラモフォン)は、知情意のバランスの取れた、好ましい演奏だと思います。

今月のCD2013年09月23日 11時41分40秒

今月は、いいものがたくさんありました。とくにヴァイオリン。その中で私が選んだのは、イザベル・ファウストです。バッハの無伴奏第2集(ソナタの1と2、パルティータの1)とドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲、ピアノ・トリオ第3番(仏ハルモニアムンディ)の2枚。どちらにするか迷った末、ドヴォルザークを選びました。

ファウストの音楽は、とにかくシンプルで、汚れがない。音楽の本質にまっすぐ入りこんで、気迫があり、端正です。チェロのケラスに通じるものがあるなあと思ったら、ドヴォルザークのトリオではケラスが共演していて(ピアノはメルニコフ)、これがやはり、合うのですね。すっきりとした、気高い音楽になっています。

もうひとつここで付け加えておきたいのは、ブルーノ・ワルターのフランス国立放送管弦楽団ライヴ・シリーズ。1955、56年ですから、80歳になろうとする頃ですね。その年齢とはとても信じられないほどほとばしるものがあり、オーケストラが感動して演奏していることがよくわかります。モーツァルト、マーラーもいいですが、ワーグナーの《ジークフリート牧歌》とブラームスの第2交響曲を、心が燃え立つ思いで聴きました。拍手が唐突なので、できればカットして欲しかったです。

「おすすめ商品」2013年09月20日 11時07分46秒

このたび、アマゾンから初めて書籍を購入しました。どうしたものか、本とCDは現物で選びたいという気持ちが抜けず、一度も利用したことがなかったのです。購入したのは、白水社から出ている海老澤敏・高橋英郎訳編の『モーツァルト書簡全集』全6巻のうち、唯一もっていなかった第5巻です。

さっそく読んでいますが、本当にすばらしい訳業ですね。海老澤先生は長いこと私の上司で、どのぐらいご多忙だったかをよく存じていますので、こうした手間のかかる困難なお仕事をその間にされたのは超人的です。学者の条件は勤勉だと、つくづく思います。ともあれ、私が初めてアマゾンを利用したこと、買ったのがモーツァルトの本であったことをご記憶ください。

しばらくして、アマゾンから、「おすすめ商品」というメールが届きました。読んで私は、寒気がするぐらい驚いた。なぜならそこには、バッハの無伴奏チェロ組曲のCDが、ずらりと並んでいたからです。

こうしたメールが来るからには、アマゾンは、私が無伴奏チェロ組曲のCDを必要としていることを知っていたわけですよね。どこから知ったのでしょうか。ここにもまだ書いていないはずですし・・・考えられるとすると、NHKに提出する事前予告がどこかに出るらしいので、それを見て担当者がアレンジした、ということでしょうか。そこまでリサーチして商売しているのであればすごいことだなあ、と思います。

ただ「時すでに遅し」で、私はCDをタワーレコードで買い集め、編成して、すでに録音に入っていました。放送は10月の7~10日ですので、またご案内します。

ピーター・ウィスペルウェイというオランダの奏者がヴェルサイユ・ピッチ(バロック・ピッチよりさらに半音低い)で録音した無伴奏は面白いですね。おまけにDVDがついていて、とても勉強になります。