復活楽章の出典(2)2008年05月05日 22時23分45秒

選帝侯誕生日祝賀カンタータの冒頭歌詞は、"ENtfernet euch, ihr heitern Sterne! "(遠ざかれ、明るい星たちよ!)と始まります。ヘーフナーは、復活の主題にターン音型(バロックの修辞学的音楽論に言う旋回Circulatioフィグーラ)が使われていることに注目し、それが原歌詞の「星」という語のイメージに由来すると考えました。「星」を旋回音型で表現する例として、彼はシュッツの《クリスマス物語》を挙げています(第4インテルメディウム)。

しかし、復活の主題に上記のドイツ語歌詞を振ってみると、旋回音型にはeuchの語が当たってしまいます。修辞学的音楽論では語と音型が直接に対応するのが原則ですから、祝賀カンタータの冒頭楽曲から《ロ短調ミサ曲》の復活楽章が作られたとする説の根拠としてこのフィグーラの存在を挙げるのは、適切とは思えません。

より重要なのは、それによって長大唐突なバス・ソロへの説明がつくかどうか、です。ドイツ語歌詞(後半)を振ってみると、語反復の工夫によって、それなりに形はできます。しかしバスは楽章の中間部ですでに何度か歌われた歌詞を歌い直す形になり、なぜ突然バス・ソロか、という問題が残ってしまいます。

復活楽章のテキストは、主部が復活の報告、中間部が昇天の報告となっており、中間部の終わり、バス・ソロの部分で、再臨・審判の預言に移ります。そして、統治の永遠を語る最後の行が、再現部を構成する。すなわち、バス・ソロ(キリストの声?)を驚きの効果を踏まえて投入することに、十分な根拠があるわけです。

ですから、バッハが何らかの楽章をもとにして復活楽章を作ったと仮定するにしても、バス・ソロの部分は、〈クレド〉の当該歌詞を効果的にさばくために新たに挿入した、と見る方が、理にかなっているのではないでしょうか。そうした補正はパロディの場合よく行われますので、現在見る形に原歌詞をそのまま当てはめられるとは限りません。

以上2つの理由から、ヘーフナーの説は成り立たない、というのが私の結論です。・・こう書いても、説明不足で何のことかわかりませんよね。ちゃんとした記述は、次の著作をお待ち下さい。『カンタータの森』シリーズの第3巻として、ザクセン選帝侯関連の世俗カンタータを集めた1冊を準備しています。いろいろ新しい情報を盛り込みますが、昨今の多忙で、執筆が遅れています。