松本ブランデンブルク紀行(5)--コンサート2010年02月04日 23時40分22秒

演奏を言葉にすると、「繊細にして潤いに満ち、しかも理にかなった演奏」ということになるでしょうか。コンサートマスター、桐山建志さんのもとに集まった奏者たちは中堅から若手の方が多かったと思いますが、彼らの演奏は響きがよく揃って美しく、細かなところまで、気が通っていました。それは、彼らが小林道夫先生を尊敬し、高い理念の下にまとまって演奏していたからです。小林先生は温雅そのものの方ですが、演奏に対する批評眼は鋭く、演奏者への要求も、たいへん厳しいのだそうです。

理にかなっている、と感じられるということは、音楽の意味がしっかりとらえられていたということです。たとえば、開始後2時間近くにようやくやってきた第5番の、第2楽章。小林、桐山、北川森央(トラヴェルソ)の3人によるロ短調のトリオは珠玉のように味わいが深く、ひとつの音も聴き落とせないと思うほど、磨き抜かれていました。その日の出来事で沈みがちだった私の心に、その響きは、じーんと染み通ってきました。

大いに感動して楽屋に向かうと、桐山さんがもう、泣いているではありませんか。こうなったら、一緒に泣くしかありませんよね(笑)。涙の結ぶ力は大きく、私は、この人となら一生一緒に音楽をやっていけるな、と確信しました。ロビーでようやく発見した小林先生との抱擁シーンを掲載します。私の感動ぶりに接して、クールにいなす言葉を吐かれるのがいかにも先生です!
偉大なる小林先生を中央に据え、名手を集めて他のどこにもない《ブランデンブルク》の演奏を発信するこうした企画が、松本の小さな公共ホールで実現されたことに、驚きと敬意を覚えます。もって範としたいものです。