偉大なり!藤村実穂子2012年11月12日 09時24分11秒

いずみホールの「ウィーン音楽祭 in Osaka」、10日のマーラー《大地の歌》(+ピアノ四重奏曲)で、全7公演のうちの5つが終わりました。芸術監督である私が良かった良かったというのも立場上どうか、とつねに思いながら、間近で接する体験のご報告という形で書かせていただいています。それにしても、この《大地の歌》は良かった。レジテントの室内オケ(いずみシンフォニエッタ)を起用した国産企画だけに、感銘もひとしお。偉大なる藤村実穂子さんの絶唱に酔いました。

〈告別〉の章を歌い終え、しばしの静寂のあとに湧き上がった盛大な拍手に応える藤村さんの挙措に、私は格別な「熱さ」を直感しました。ご本人にとっても、この日は会心の演奏だったのではないか。そう思った私は、さっそく楽屋へ伺いました。

「永遠に、永遠にewig, ewig」ですでに涙の出ていた私は、藤村さんが「客席を見ると涙が出そうだったのでずっと楽譜を見ていた」とおっしゃるのを聞き、もはや、涙止まらず。シェーンベルク=リーム編の精緻なスコアをみごとにまとめられた指揮者、金聖響さんも、涙を抑えるのに困った、と言っておられます(自分を誇らずに藤村さんへの感動を一貫して表明された金さん、芸術家ですね)。客席を包んだ尋常ならざる高まりを、演奏者が完全に共有していたことがわかりました。

藤村さんの演奏については皆様もよくご存じでしょうが、強大なブレスに基づく揺るぎない技術的基盤に立ち、ありあまるマテリアルを作品を深奥に向けて注ぎ込む歌い手です。マーラーの寂寥感が、余情や感傷でなく、音へと純粋に結晶した表現として歌い出されるのです。藤村さんから、このホールが大好きであること、シェーンベルク版を演奏できてよかったこと、大阪のお客様が温かいことを伺い、そのお言葉を心に刻みました。いつかまた、再演したいです。