偶然とはいいながら2012年11月28日 07時50分17秒

面白い小説を探しているのですが(ときおりお薦めもいただきます)、自分の趣味のゆえか、なかなか新しいものに出会いません。たとえば会話で何ページもつなぐようなものは、私ダメです。必然的に、内容の密度が薄くなるからです。でもそうしたものが多いですね。肩が凝らず読める、という面があるのかもしれません。

というわけで、篠田節子ワールドに帰還。『カノン』を読みました。これって、バッハの音楽が主役になっているのですね。驚いたことに、場が松本で、松本深志高校が出てくる。しかも登場人物何人かの名前が、私の思い出と重なるのです。もちろん偶然に違いないですが、他人事とは思えない設定でした。

小説には、《フーガの技法》、《音楽の捧げもの》といった作品が出てきます。しかし「無伴奏ヴァイオリンでカノンを弾く音が聞こえる」という、通奏低音のごとく繰り返される出来事がどうしても不自然に感じられ、そのひっかかりが最後まで抜けなかった、というのが正直なところです。

その後『家鳴り』という短編集を読みましたが、そこに収録されている『やどかり』という短編に感動し、珍しくも、2回続けて読んでしまいました。荒れた一家の家事を一手にあずかる女子中学生と若い教育指導員が出会う話で、即、感情移入させられました。

篠田さんの小説を読んでいると、家事に精通していることが記述の細部を輝かせ、イメージを豊かにしていることに気がつきます。まことに、女性ならではです。