特選盤11月2012年11月30日 23時15分28秒

京都滞在中だったのでしょうか、新聞掲載を見逃してしまいました。

原稿の締め切りは、名古屋から大阪に行く月半ばに設定されていました。その段階で一応選んだのは、アンドレアス・シュタイアーの弾くベートーヴェン《ディアベッリ変奏曲》(HM)です。この曲、どうやら流行になりそうですね。何人もの鍵盤奏者が興味を持ち、取り組んでいます。晩年にあらわれた変奏曲に関心が集中するという点で、バッハの《ゴルトベルク変奏曲》と通じるところがあります。

しかし聴き手の立場では、この曲についていくのはなかなか大変ではないでしょうか。融通無碍、晩年特有の自由さが「心赴くまま」の域に達していて、結果的に、難解な作品になっているからです。《ミサ・ソレムニス》よりその点さらに上、という感じです。

しかしシュタイアーはそれを、じつに面白く聴かせてくれます。同時代楽器(グラーフ・モデル)の軽い反応が、曲想の変化に自然に対応していることが大きいと思います。また、別の作曲家による種々の変奏がまず弾かれ、シュタイアー自身の「イントロダクション」を経てベートーヴェンに入っていく、という構想が親しみを増していることも、たしかだと思います。

大阪から帰ってみますと、届いていた新譜の中に、藤村実穂子さんの「ドイツ歌曲集Ⅱ」(フォンテック)がありました。藤村さんの「私心のない芸術」が、シューマンの《リーダークライス》やマーラー、ブラームスで、おおらかかつ繊細に(←それが共存している)、深い寂寥感を伴って展開されています。ですので《大地の歌》の感動を思い起こしつつ、選ばせていただきました。残念なのは、静かなエンディングのあとに唐突な拍手が、大きな音量でわき起こることです。カットすることはできなかったのでしょうか。