準備は嘘をつかない2012年12月16日 08時17分10秒

岩森美里さんの思い出をひとつ。

国立音大の新入生企画、「基礎ゼミ」のチーフをずっとしていましたが、「お話」と題された演奏付きの小講演を、岩森さんにお願いしたことがあります。岩森さんが前の年のクラス授業で抱腹絶倒、しかも内容のあるお話をされ、これは新入生全員に聞かせたいな、と思ったからです。

果たして、さまざまな体験を笑いながら伺ううちに心が人情味に満たされてゆくという、みごとなお話。河原忠之さんのピアノで最後に歌われた《小さな空》が満場を感動で包んだのは、聴き手がお話に引き入れられていたためでもあります。

その思い出話を別の方としていたとき、あのとき岩森さんはたいへんな準備をされたのだと知らされ、びっくりしました。ごく自然に、湧き出るように話が進行していたからです。ご本人に確認したところ、「お話」を振られた重圧は大きく、原稿を書き写真を準備した上で、90分に合わせて何度も練習した、とのこと。なるほどそれでこそあの結果か、と、すっかり感心してしまいました。

そんな刺激もあり、私もできるかぎりの準備をしてイベントに向かうよう、心がけています。日頃よく「ツキ」のお話をしますが、ツキ以上に嘘をつかないのは、準備であるからです。13日の大阪音大の講義も、バッハの音楽と修辞学の関係を根本的に見直す、ありがたい機会になりました。今日のモーツァルト・フェラインの講義も、あと数時間準備して、万全を期したいと思います。