BWV11282008年07月05日 21時34分24秒

たのもーさん、ご教示ありがとうございました(←とつぜん尊敬)。衣装だの、楽譜だの忘れる方々。なにやってるんだか(←とつぜん余裕)。

今日は「新・バッハ/魂のエヴァンゲリスト」の第2回。バッハ通の方が大勢来てくださる講座なので、それなりに準備して臨みました。旧著を縮小コピーし、6つの箇所に、新らしい学説をまとめた注釈を付けました。アルンシュタット時代の話ですから、カプリッチョの「最愛の兄」が実兄とは別人(たとえばエールトマン)ではないかとか、有名なニ短調の《トッカータとフーガ》が偽作ではないかとか、その類のことです。

この3月に発見されたばかりのオルガン・コラール《主が私たちの側に立ってくださらなければWo Gott der Herr nicht bei uns hält》の楽譜を昨日入手しましたので、皆さんにお見せしました。ハレ大学図書館の入手したヴィルヘルム・ルスト(旧全集編集主幹)の遺品の中に含まれていた筆写譜が、さっそく出版されたのです(まあ、速いこと)。この作品には1128というBWV番号が振られました。シュミーダーの目録が出て半世紀ちょっとの間に、48曲増えたことになります(目録初版の最後は《フーガの技法》BWV1080)。発見されたのは1705年から10年の間に書かれた85小節のファンタジーで、なかなか立派に作曲されています。

皆さんとても興味深そうにご覧になりましたので、CDをお聴かせしたいところだが、まだありません、と申しました。そうしたら、受講生の中に、先週ライプツィヒで実演を聴いてきた、とおっしゃる方がいらっしゃるではありませんか。向こうではCDも出ていて(ウルリヒ・ベーメ演奏)、買って帰られたとのこと。さっそく次回に聴かせていただくことにしました。こういうやりとりが生じるから、カルチャーは面白いですね。私も気が抜けません。

3時間語り会った昭和40年代2008年06月15日 22時19分01秒

研究発表と講演、シンポジウムが4回という、厳しい週を完走しました。最後がもっとも神経を使うものでしたので、絶大な安堵感です。

藝術学関連学会連合のシンポジウムは、場所が学習院女子大でしたから、「副都心線」を初日に利用できました(西早稲田駅下車)。私はコーディネーターですから進行を司れば済むとも言えますが、なにしろ不案内な領域を含んでいる上に、各学会の代表者がフロアにいるという、できればご遠慮したいシチュエーションでの役割です。まあ、日本語でできるのが救いではありましたが。

初めのうちは、最近よく聞く「頭が真っ白」というのはこういうことかな、というほど、うわずっていました。しかし佐野光司(音楽)、千葉成夫(美術)、國吉和子(舞踊)、神山彰(演劇)というパネリスト諸氏、およびコメンテーター(尼ヶ崎彬氏)が強力で、どなたも全力投球してくださり、基調報告、相互討議と、間然とするところなく進行。なかなかこううまくはいかない、というほど充実したひとときになりました。まあ私は司会ですから中味は少ないわけですが、足を引っ張ってはいけないので、神経を使ったわけです。

つくづく思うのは、自分の領域だけやっているのではだめだなあ、ということ。第一線の芸術家はみな先駆的なコラボレーションを手がけているのに、研究者は細分化された領域だけを見ていることが多いのではないかと思います。そういうことを骨身に染みて感じたことが、今回の一番の収穫でした。私の勉強のためにやっていただいた、という感じさえしています。

心づくしの懇親会のあと、新宿で、カラオケ。4つのイベントのうち3つは上々に行っていましたから、自分の理論に照らして最後にしわ寄せが来るのではないかと心配していたのですが、どうやら、それはなし。そうなると、積み重なったまま先送りされているツケがどう解消されるのか、問題です。とりあえず、今週は気をつけなくてはなりません。

シンポジウム「昭和40年代の日本における藝術の転換」の内容は、やがてWEB化されますので、またお知らせします。

転んだ後の起き方2008年06月07日 22時11分00秒

今日は、朝日カルチャー新宿校の連続講座「新・魂のエヴァンゲリスト」第1回でした。教室一杯の受講生にお集まりいただきましたが、何十年バッハを聴き込んできている、という年期の入った方が大半で、気が引き締まりました。ウン十年ぶりに先生の授業を、という方もちらほら。嬉しいですね。

『魂のエヴァンゲリスト』の初めの方を縮小コピーして配布し、一緒に読むというのが基本コンセプト。途中音楽を聴き、不十分なところを修正したり、新しい情報を折り込んだりしてゆきます。23年前の本で長いこと読んでいませんから、今の自分がどう思うか不安だったのですが、そうひどくはないですね(笑)。当時なりに、よく調べてあります。

今なら書かない、肩に力の入った文章も目に付きます。でもそれは自分の若さと一体になっているので、部分的に書き直すことはできない。作曲家が若い頃の曲を、未熟ではあってもそのままにしておく理由がよくわかりました。しかしバージョンアップが必要なことは確かですから、この講座を重ねて、改訂版の準備をしたいと思います。

午後は立川校に移動し、管弦楽組曲の鑑賞講座。どうも話すネタに困るのがこの作品なので、仲間グループの録画映像を中心にするつもりでいました。ところが、それに対応するハードが、立川校にないことを忘れていたのです。他にはピノックのCDをもっていただけだったので、ショックで目の前が暗くなり、「ツキの総量は一定」というあの法則が、頭をかすめました。

考え込むこと、約3分。そのことで受講生の方が不満を感じてはなりませんから、映像なしをプラスに転化するべく、気合い3倍で、序曲や舞曲の説明、相互比較などを丹念にやりました。通じるもので、終わったら拍手をいただきました。やはり、具合が悪いことがあったときにそれをどうプラスにしていくかが真価の問われるところだと、認識した次第です。充実した1日になりました。

CD選2008年02月25日 22時57分00秒

毎日新聞の夕刊に、「今月のベスト3」というCD選をやっています。その月に送られてきたCD(市販されるもの全部、というわけではありません)の中から新譜優先で3つ選び、軽くコメントする。評者は3人なので適宜分散されますから、私としては、日本人の演奏家のいいものに比重を置きながら選んでいます。

今月は、原稿を送る直前に、「たのくら」(楽しいクラシックの会)の例会がめぐってきました(16日)。候補が4つあり、3つに絞りかねていたところでしたので、会に持参して、少しずつ聴いていただいた。ひとり2票の挙手付きです。選考をゆだねたわけではありませんよ!ファンの方々がどう聴くか、興味があったのです。ちなみに「たのくら」には、筋金入りのクラシック・ファンの男性が、何人もおられます。

皆さん面白かったようで、目の色が変わりました。投票結果は私の個人的セレクションの順序とぴったり一致しましたが、これは気の合う仲間が集まっているということなのか、それとも私の洗脳が効いているのか(笑)。ちなみに1位はマゼール~ニューヨーク・フィルのラヴェル《ダフニス》第2組曲、ストラヴィンスキー《火の鳥》組曲他。2位はゼフィロのモーツァルト《ディヴェルティメント》。3位はエマールのバッハ《フーガの技法》です。マゼールって、78歳なんですね。とても信じられません。

講演をすると一所懸命説明モードになってしまう、ということを以前書きました。でも「たのくら」だけは別で、リラックスし冗談を交えながら、楽しくお話しできます。これはやっぱり、歴史の厚みのたまものでしょう。終了後はいつものデニーズで、宇宙の歴史や人類の進化をめぐる、理系の話に花を咲かせました(もちろん私は聞き役です)。

夜は、今年指導した大学院のクラスで、打ち上げ。オペラ科の論文指導が私の担当で、今年はソプラノが5人でした。みんな慣れない論文をよくがんばり、かなり、成果があった。「ドルチェ」の二次会で座が大きく盛り上がってきて、中腰になる人があらわれた。カラオケに行こう、というのです。

そこで、まだ看板だけはある「夢工場」(←かつてのオフ会で必ず流れていたスナック)に偵察にいってもらったところ、もうバーは店じまいして、歌唱指導教室になっているとのこと。ここもか。私のせいですね。そこで普通の店に流れ、久しぶりに歌いました。プッチーニを得意とされる方の歌唱力は、さすがにすごかったです。

わかっていても2008年02月11日 21時27分42秒

10日(日)から、「すざかバッハの会」の新しいシリーズが始まりました。この会の運営の秩序正しさは特筆もので、スタッフが入念な打ち合わせのもとに早い時間から集合し、手分けをして立ち働いています。その様子を見るにつけ、ここに植えた苗を大切に育てたい、と思う私です。

「バッハ最先端!」などと題し、専門性を高める方向に舵を切りましたので、どのぐらいの方が集まってくださるか、確信がもてませんでした。その点では安心のできる結果で良かったのですが、私の講演に関しては多々反省の残る結果となり、未だ木鶏たり得ず、という言葉を思い出しました。

私も人前で話すことは多いですから、それなりに努力と工夫は重ねてきました。でも、課題はいぜん多い。いちばんむずかしいのは、時間配分です。どうしても、素材を準備しすぎて、時間が足りなくなる。本当は、素材を少なめにしておいて、丁寧に、余裕をもって説明するのが上手なやり方です。素材が多すぎると、なんとか消化しようと駆け足になり、テーマをじっくり掘り下げることができなくなってしまうのです。わかっていても、そうなってしまいます。

今回は、新バッハ全集について、変ホ長調のプレリュードとフーガ(大曲です)についてお話しした前半が長くかかったため、後半の《マタイ受難曲》に、時間がなくなってしまいました。礒山が《マタイ》の話をするから覗いてみよう、という方が相当いらっしゃったようなので、申し訳ないことをしました。

話ながら自分で感じていたのですが、私はことバッハになると、一所懸命説明しよう、というスタンス一点張りになってしまう。本当は、リラックスして話を楽しんでいただきながら、大事なことを少しずつ織り込んでいく、という方がいいはずです。このあたりは、今後の課題として勉強したいと思います。

ともあれ、竜頭蛇尾は、確実に避けることができました。次は、4月13日。またがんばります。