コンサート回顧(4):カンタータ第140番(その1)2009年12月12日 22時44分32秒

カンタータ第140番《目覚めよ》は、バッハの教会カンタータの最高峰に位置する作品と評価しています。その音調は、終末を扱いながらも希望にみなぎり、大らかな開放感と官能性を兼ね備えている。厭世的で厳粛な前半2曲と対置することによって、こうした性格は、ますます引き立つに違いありません。

この曲には、男声のエースを2枚投入しました。若いテノール、藤井雄介さんと、ベテランのバリトン、小川哲生さんです。この日のプログラムにはテノールの独唱がなく、140番のレチタティーヴォが唯一のもの。しかしこれは相当な名曲で、「鹿のように丘を躍り超えて」やってくる花婿イエスの姿を、わくわくモードで伝えます。短いながら、テノールの聴かせどころと言っていいでしょう。バスにはもちろん、イエスの重責が委ねられ、レチタティーヴォが2曲、二重唱が2曲ある。味わい深い歌を歌われる小川さんが、ここで出番となりました。

日本にほとんどないというヴィオリーノ・ピッコロ(3度高い小型ヴァイオリン)が調達できたのは、大きな幸いでした。そのちょっと鼻にかかったようなかわいらしい響きに、バッハがこだわったと思われるからです。最初の二重唱ではこれが大活躍しますが、最後のコラール(天上の都を歌うもの)でもソプラノのオクターヴ上を演奏して、かすかな輝きを添える役割を果たします。超高音域のホルンもソプラノの重ねとしてぜひ必要ですが、ここに名手の阿部麿さんを配することができたのも、この日の自慢でした。

カンタータ中一番有名なのは、オルガン曲にもなっている中央のコラールですよね。この曲は、テノールのソロで歌われる場合と、パート・ソロで歌われる場合があります。私は、パート・ソロの方を選択しました。それは、ここでのコラールが、他の曲と同様はっきりした共同体的性格をもつと考えたからです。弦の有名な旋律は、2部のヴァイオリンとヴィオラのユニゾンで演奏されます。ですからテノールも、リピエーノを重ねてユニゾンとする方がいいと思いました。(まだ続く)

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