久々のワーグナー講演(3)--ブリュンヒルデの動機2010年01月27日 23時38分45秒

3つのポイントとして言及したのは、冒頭の場面、〈夜明け〉の場面、ハーゲンの〈見張りの歌〉の3箇所です。ここでは〈夜明け〉についてお話ししましょう。

いまは夫婦となったジークフリートとブリュンヒルデがやってくるところで、管弦楽は、「英雄ジークフリート」と呼ばれる動機(初出はホルンの合奏)と、「ブリュンヒルデの動機」(初出はクラリネット)を並列して出し、徐々に高揚します。「英雄ジークフリートの動機」が楽劇《ジークフリート》における角笛のモチーフの絶妙な変形であることにも驚かされますが、「ブリュンヒルデの動機」はじつに美しく、その美しさが《神々の黄昏》の支えになっている、と思えるほどです。

この旋律、なんでこんなに美しいんだろう、と思って気がついたのは、ターンの音型を除いて、全部が跳躍になっていることです。優美な旋律は順次進行が普通なので、これは不思議。和声はどうでしょう。移動ドで読むと(ハ長調に移すと)、階名は「ファーミファソファ・レーラドーレーファラー」となり、一見、サブドミナント。「英雄ジークフリート」はトニカですから、あえて流れを外しているのか、と思いました。

そこで楽譜を見たら、バスにソの音がしっかり入っている。ソ・シ・レ・ファ・ラ・ドの属十一の和音の分散なのです。なるほど、ドミナントか。それなら、この動機がトニカに向かう動きをはらみつつ「英雄ジークフリートの動機」に寄り添っていること、優美さにはかなさを加えた独特の味わいで訴えかけてくることの根拠が、よくわかります。この和音が、じつに味わい深く、美しいのです。ちなみにワーグナーは拡大されたドミナント使いの名手で、《リング》では属九の和音が頻出しますし、属十三の和音も、すでに《タンホイザー》で印象深く使われています。

そんなお話もし、たいへん気持ちよく講演を終えることができました。超重かった本も全部売れ、打ち上げ・二次会は、ワーグナー好き同士の心が通い合う、楽しい飲み会になりました。皆さん、ありがとうございました。






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