渡邊順生、グレン・グールドを破る2010年07月25日 09時35分49秒

「たのくら」で開始し、放送でその縮小版を出した、「ゴルトベルク変奏曲」 聴き比べ。面白くなり、朝日カルチャー横浜校でもやってみました。今度の候補は十種類です。

用意した演奏は、ランドフスカ、ロス、渡邊順生(以上チェンバロ)、グールド旧盤、ペライア、シフ(以上ピアノ)、ラクリン/今井/マイスキー(弦楽版)、グールド新盤、バケッティ、コロリオフ(以上DVD)の、10種類。これらを変奏3つずつリレーして、全曲を完遂しようというのです。

一通り説明し、さあかけようと思ったら、ランドフスカのCDが、ケースに入っていません。またか。今日も平謝りで、講座開始です。どこかで使ったまま、戻しておかなかったのでしょう。

がっかりしてふと見ると、CDはもうプレイヤーに入っている。なあんだ。謝罪の撤回を高らかに宣言し、CDを鳴らし始めると、響いてきたのは《平均律》のハ長調。間違えてもってきたのです。平謝りを再開し、結局スコット・ロスをトップとして、鑑賞をスタートしました。放送とは、順番を入れ替えました。

弦楽版が、後半の最初(第16-18変奏)になりました。第16変奏が管弦楽組曲のスタイルを模倣していることが、よくわかりますね。ランドフスカがなくなった結果、最後の3曲が残りました。ここでひらめいたのですね。受講生の方々のリクエストで、最後を締めよう!というアイデアが。

元気になった私は、「人生で一番大事なことは、転んでもタダでは起きないことである」と力強く宣言。どの演奏で最後を聴きたいか、挙手を求めました。DVDが、やはり強いに違いない。映像を、いま見たばかりですから。おそらく、グールド新盤とバケッティの争いかな、と予想しました。

さて結果は。渡邊順生さんが7票で、トップ。グールド(新)とバケッティが5票ずつで続き、シフが4票。あとは、コロリオフが1票、他はすべて2票ずつでした。そこで渡邊さんで最後を聴きましたが、やはりすばらしいですね。解釈が理にかなっていて、すみずみまで行き届き、繊細さも抜群です。

グールドへの賛辞をたくさん書いてきた私ですが、もうグールドの時代ではないのかな、という思いが、ちらりとかすめました。グールドの評価が下がったということではありません。しかしいつまでも古いものを聴き続けるより、新しいものに注目して楽しんだ方がいいと思います。


コメント

_ ドン・アルフォンソ ― 2010年07月27日 21時55分50秒

僕はロザリン・トゥーレックの演奏(ピアノ)がベストだと思って聴き続けているのですが、ほとんど聴かれないピアニストなのでしょうか。パルティータや平均律も素晴らしいと思っているのですが・・・。

_ I教授 ― 2010年07月31日 10時54分11秒

アルフォンソさんこんにちは。アルフォンソさんがトゥーレックを推奨されているのは存じています。9月14日(火)に音楽研究所で「《ゴルトベルク変奏曲》をどう弾くか」というテーマのシンポジウムを開催しますので(私と渡邊順生、加藤一郎両先生で)、その折に素材のひとつとすることにしました。私もあらためて聴き直してみますので、お待ちください。

_ Goldbergマニア ― 2010年08月01日 16時20分09秒

Goldbergだけでも、何十という録音を聴き比べたか知れない私ですが、不覚にもTureckは存じませんでした。そこで、とりあえず手の届く範囲で色々聞いてみました。

平均律1、2巻(1952/1953)
パルティータ全曲(1956〜1958)
Goldberg(ピアノ)+小品(1957/1959)
平均律1巻(1977)
平均律2巻(1975〜1976)
Goldberg(チェンバロ)+小品(1978/1979/1981)
小品集(イギリス組曲3番含)(1990?)
Goldberg(ピアノ)(1998)

全体を通してなかなか良いと思いました。声部の弾き分け能力、曲の構成力、演奏への集中力、どれをとってもなかなかのものだと思いました。

聴いていると、どうしてもGouldを思い出してしまうのですが、影響はGould→Tureckではなく、年代を考えても分かりますが、その逆のようですね。Gould自ら影響を受けたピアニストは、唯一Tureckだけだとインタビューで言っているそうですね。さもありなん、という感じです。Gould流という流派があるとして、それを大成させたのは当然Gouldですが、創始者はTureckと言っても良いのではないかと思いました。

Gouldの場合、自分のスタイルを際立たせるために、どうしてもちょっとやり過ぎ、という感がなきにしもあらずですが、Tureckの方がマイルドな感じです。Gouldの奇抜さを薄めて、品位を加えた感じでしょうか。演奏中は唸りません。

上に挙げた録音の中で、いちばん面白いと感じたのは、実はチェンバロのGoldbergだったりします。GouldがHandelをチェンバロで弾いた録音がありますが、なんとなく似ています。GouldがチェンバロでGoldbergを弾けば、きっとこんな感じだろうと思われる部分が随所にあります。

1998年のGoldbergは、デジタル録音なので、音質、音場ともに聴きやすいですが、Tureckの個性は薄まって、「普通」に近くなっているような感じです。1914年生まれなので、なんと84歳の録音です。その割には演奏は正確で瑞々しいですね。Goldberg全曲録音・発売の高齢記録がどれくらいか知りませんが、トップクラスでしょうね。この録音の5年後にはお亡くなりになったようです。

1956〜1959年録音のパルティータとGoldbergは、ロンドンのアビーロードスタジオ録音ですね。モノラルですが、なんとなくアビーロードの音がするような気がします。演奏としては、このあたりが最盛期でしょうか。

1975〜1977年録音の平均律は「BBC LEGENDS」シリーズというもので、BBCのコンサートホールスタジオで録音されたもののようです。アナログ録音ですが、音質もまあまあで、60歳超の演奏ですが、覇気があって、愛聴に値すると思いました。

ドン・アルフォンソさんご推薦のGoldbergはどの録音でしょうか?

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