篠田さんの傑作2012年08月29日 22時56分31秒

篠田節子さんの小説を、魅入られたように読み続けています。前回ご報告した後も、数冊読みました。際立っていたのは、『女たちのジハード』。広く読まれているものだと思いますが、軽妙かつユーモラスな筆致でいまどきの女性たちの生き様が語られ、引きこまれました。

自分が小説を書いたらどうなるか、シミュレーションぐらいはしたことがあります。でも小説というのは、勇気がないと書けませんよね。最近女性作家ばかり読んでいる理由をわれながら分析すると、多くのページを彩る「生活」の描写が、格段にリアルだということがある。そこに文才と勇気が加われば、こわいものはありません。同性について遠慮なく書ける、というのも大きいでしょうか。

で、大阪からの帰路に読み始めたのが、新潮文庫の新刊『沈黙の画布』。これは私の見るところ大傑作で、平素出先でのみ読む文庫本を、自室で深夜まで読みふけってしまいました。宗教や人生を視点にしたときのすばらしさについてはこれまでも述べてきましたが、『沈黙の画布』では美術に対して、また芸術家の内面や女性関係について、卓越した考察が示されています。今まで読んだ小説には、「そんなことあるはずないでしょ」と思ってしまうようなホラー的、空想的なところが出てきて、さすがの私も引いてしまう部分がありましたが、今度の著作ではそれがなく、密度高い構想で一貫されているのです。一番好きな『聖域』の上に位置づけるかどうか、考えています。