力強さは音量に依存せず ― 2008年05月18日 23時26分10秒
皆様は、ベートーヴェンの交響曲を、ピアノ・トリオ版で聴きたいと思いますか。たいていの方は、ノーとおっしゃるでしょう。ダイナミックな迫力が肝心ですからね。そのトリオが、ピリオド楽器だったら?ますます敬遠しますよね。音が、さらに小さくなりますから。
ところが。
今月のCD選のために「浜松市楽器博物館コレクションシリーズ14」(LMCD1858)と題する1枚を聴いて、度肝を抜かれてしまいました。冒頭に交響曲第2番が入っているのですが、その力強く迫力に満ちていること、また盛り上がりの白熱していること、オーケストラと比べてまったく遜色がない。いや、たいていの演奏を凌駕しています。音楽の本質的な力は、人数や音量によらない、ということがよくわかりました。カップリングのピアノ協奏曲第4番も鮮やかです。
小倉喜久子(ワルターのフォルテピアノ使用)、桐山建志、花崎薫のお三方に、心から敬意を表します。皆さんもぜひお聴きください。
気高さの一語 ― 2008年04月16日 23時12分01秒
今日は久々に家にいられる日で、CD選に費やしました。いま、アーノンクールがバイエルン放響を指揮したシューマンのオラトリオ《楽園とペリ》を聴き終えて、たいへん感動しています。気高さの一語。すばらしい作品ですね。これこそ、先日観たばかりのウェーバー《魔弾の射手》に、まさに欠けていたものです。でもアーノンクールはいつから、こういうやさしい愛に満ちた演奏をするようになったのでしょうか。松本學君、情報ありがとう。
2位にはツィマーマンの弾くルトスワフスキのコンチェルトを入れようかと思ったのですが、これって、再発なんですね。再発は対象外、と申し合わせています。まあ、新聞に出る前に書くわけにはいかないので、2位、3位は後日、ということにします。
今夜は、中日とオリックスの投手が、プロ入り初勝利。「見ての通り」というコメント、聞けるといいなあ。おや、愛の感動から、私はもう地に戻ってしまったようです。
〔付記〕オリックスの小松投手、2勝目でしたね。失礼しました。
声楽のCD3枚 ― 2008年03月25日 22時22分23秒
今月、新聞で選んだCDです。
まず、サントリーの《フィガロ》のスザンナ役として来日したダニエル・ドゥ・ニースの、ヘンデル・アリア集(デッカ)。燃えるように魅力的な舞台を《ジュリアス・シーザー》のDVD(クレオパトラ役)を見て驚き、すごい新人があらわれたと思っていましたので、サントリーがよく取ったものだと、感心していました。このアリア集も、コロラトゥーラの切れ味としい、爆発的な高揚感といい、たいしたもの。ものに臆するということが、そもそもない人に見えます。なんと、インタビューとギャラリーの入ったDVDがついている。頭もずいぶん良さそうですから、向こう20年は君臨するでしょう。オーケストラは、クリスティ指揮のレザール・フロリサン。
室内合唱の好きな私にうれしかったのが、ザ・シックスティーンの歌う2枚のCD(UCJ)。ロシア正教の音楽を集めた「イコン」も相当ですが、新聞には、「聖母マリアのための音楽」を採り上げました。ジョスカン、ブルックナー、フォーレらのアヴェ・マリアやサルヴェ・レジーナが高い透明度と心地よいリズム感で歌われ、至上の快感に包まれます。
同じ室内合唱の路線で、ヘンゲルブロック指揮、バルタザール・ノイマン合唱団、アンサンブルのパーセルのアンセム、葬送音楽、バッハの初期カンタータ、J.L.バッハのモテットを集めた1枚(DHM)も、楽しめました。温かさの中から、言葉がふっくりと浮かんでくるのです。第131番《深き淵より》の、久々の名演奏だと思いました。
他にも、マーラーの交響曲やリベラ・クラシカのシリーズなどいいものがあったのですが、私の持ち場である古楽の声楽にこだわった形です。
CD選 ― 2008年02月25日 22時57分00秒
毎日新聞の夕刊に、「今月のベスト3」というCD選をやっています。その月に送られてきたCD(市販されるもの全部、というわけではありません)の中から新譜優先で3つ選び、軽くコメントする。評者は3人なので適宜分散されますから、私としては、日本人の演奏家のいいものに比重を置きながら選んでいます。
今月は、原稿を送る直前に、「たのくら」(楽しいクラシックの会)の例会がめぐってきました(16日)。候補が4つあり、3つに絞りかねていたところでしたので、会に持参して、少しずつ聴いていただいた。ひとり2票の挙手付きです。選考をゆだねたわけではありませんよ!ファンの方々がどう聴くか、興味があったのです。ちなみに「たのくら」には、筋金入りのクラシック・ファンの男性が、何人もおられます。
皆さん面白かったようで、目の色が変わりました。投票結果は私の個人的セレクションの順序とぴったり一致しましたが、これは気の合う仲間が集まっているということなのか、それとも私の洗脳が効いているのか(笑)。ちなみに1位はマゼール~ニューヨーク・フィルのラヴェル《ダフニス》第2組曲、ストラヴィンスキー《火の鳥》組曲他。2位はゼフィロのモーツァルト《ディヴェルティメント》。3位はエマールのバッハ《フーガの技法》です。マゼールって、78歳なんですね。とても信じられません。
講演をすると一所懸命説明モードになってしまう、ということを以前書きました。でも「たのくら」だけは別で、リラックスし冗談を交えながら、楽しくお話しできます。これはやっぱり、歴史の厚みのたまものでしょう。終了後はいつものデニーズで、宇宙の歴史や人類の進化をめぐる、理系の話に花を咲かせました(もちろん私は聞き役です)。
夜は、今年指導した大学院のクラスで、打ち上げ。オペラ科の論文指導が私の担当で、今年はソプラノが5人でした。みんな慣れない論文をよくがんばり、かなり、成果があった。「ドルチェ」の二次会で座が大きく盛り上がってきて、中腰になる人があらわれた。カラオケに行こう、というのです。
そこで、まだ看板だけはある「夢工場」(←かつてのオフ会で必ず流れていたスナック)に偵察にいってもらったところ、もうバーは店じまいして、歌唱指導教室になっているとのこと。ここもか。私のせいですね。そこで普通の店に流れ、久しぶりに歌いました。プッチーニを得意とされる方の歌唱力は、さすがにすごかったです。
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