圧巻の《カルメン》2010年05月03日 23時06分45秒

「すざかバッハの会」のサブ企画として、オペラの鑑賞会があります。私が選んだ10曲を鑑賞しておられるのですが、今回はビゼーの《カルメン》。いつも通り、いい映像の推薦と「5つの聴きどころ」情報が依頼されてきました。

まず視聴したのが、オブラスツォワやドミンゴなど大型歌手の出ている、クライバー指揮、ウィーン国立歌劇場のもの。演出はゼッフィレッリです。顔ぶれからして、これが随一だろうと予測しました。

しかし、どうもしっくり来ない。常時「躁」状態、とでもいうような派手な演奏なのですが、あまりにもグランド・オペラ風になっていて、原作の味わいから遠ざかっているのではないか、と思われました。

そこで、ハイティンク指揮、グラインドボーン音楽祭1985年のものを買ってきました。そうしたらこれが、信じられないほどすばらしいのです。オビに「映画を見ているような演出」と書いてありますが、演出家のピーター・ホールがすべての要素を統制して、細部に至るまで作り込んでおり、作品の世界をほうふつとさせる、完成度の高い舞台となっている。兵士も、女工も、酒場女も盗賊も、すべてぴたりと決まっていて、いったいどのぐらいのリハーサルを繰り返したのだろうか、と思うほどです。

歌手も適切に人選されていますが、なんといっても主役のマリア・ユーイングのすばらしさは筆舌に尽くしがたい。女性の色気の、まさに究極の表現です。皆様、ぜひご覧ください。彼女を中心とした緊密なドラマに接するうちに、当初ずいぶん地味に思われたハイティンクの指揮も作品に貢献していることがわかってきました。やはりオペラの価値は、スターの数では決まりません。