歴史への夢2010年05月24日 10時28分53秒

ベルリオーズの超大作と聞くだけで、腰が引けてしまう、ということはありませんか?私が、そうでした。今月の1位にした歌劇《トロイアの人々》(2003年、パリ・シャトレ座のライヴ)の場合、全5幕で、合計4時間。なんとなく、誇大妄想のイメージを感じてしまいます。

でも、そうではないのですね。ガーディナーの名演奏の貢献によるところが大きいと思いますが、明快で、焦点が決まっている。エキゾチックなバレエなど、サービス精神満点の見せ場が、いくつもある。娯楽としても楽しめる、華やかな作品なのです。いつもながら、合唱には感心させられます。

全5幕が2つに分かれていて、第1幕、第2幕は、トロイア落城の物語。第3幕から第5幕はカルタゴ女王ディドンの物語で、一見、継ぎ合わせのよう。しかし鑑賞すると、一貫した太い柱があることに気がつきます。作曲者であり台本作者でもあったベルリオーズは、トロイアを落ち延びた勇将エネ(アエネーイス)がディドンとの愛を乗り越え、ローマの建国を見据えてイタリアへ向かう流れを強調しているのです。

敗れたトロイアがじつはローマとして生まれ変わり、ギリシャに対抗する形で世界の覇権を得てゆくこと。西欧の文化の源流が、じつはトロイアに発していること。それをベルリオーズは一晩のうちに表現したくて、5幕もの大作を書いたのでしょう。背後に、歴史への壮大な夢があります。

このことを理解することによって、パーセルの《ディドとエネアス》を見る目が変わってきました。今度、私の好きなピノックの演奏で、「バロックの森」に取り上げます。