クリエイティヴとは2010年05月11日 23時49分41秒

pomさんにいい質問をいただきましたので、「クリエイティヴ」な研究とはどういうものを言うのかについて、自説を述べさせていただきます。

クリエイティヴな研究とは、対象について新しい見方、考え方を提示するとともに、それ自身、発展する可能性を秘めているものです。対象がそれ自体新しいか古いか、過去に研究されているかいないかとは、まったく関係がありません。

「論じ尽くされた」対象を扱ったのでは、クリエイティヴな研究にならない、と思われるかもしれません。しかしすぐれた古典に、「論じ尽くされる」ということはあり得ないのです。プラトンでも聖書でもバッハでもゲーテでもいいですが、偉大な古典は無尽蔵な教えを含んでおり、つねになにか、新しいことを教えてくれるものです。だからこそ歴史を超えて残ってきたし、研究もまた、更新され続けているわけです。逆に言えば、研究が更新されることが、古典をしかるべく受け継いでいく条件になる。その意味では、若い世代のバッハ研究家があまりいないことを、残念に思っています。バッハにおいて研究すべきことは山のようにあり、その多くは、まだ研究されずに、研究者を待っているのです。

「オーセンティシティを求める研究」(pomさん)は、オーセンティシティという切り口から新しい視点を求めていくものなので、きわめてクリエイティヴであり得ます。そういう研究が、古楽の隆盛を支えているわけです。「伝統を守ろうとする態度による研究」はどうでしょう。伝統を守ろうとすることが言論の前提であり目的になっているということですと、学問でなくイデオロギーと呼ぶべきだと思います。自分自身の立場に対する十分な客観性と批判が存在すれば、伝統護持の主張も、クリエイティヴな提言たり得るのです。