家族をどう書くか2010年04月01日 11時56分44秒

藤原正彦さんのエッセイを楽しみにしていますが、最近、奥様をネタにしておもしろおかしく書いた一編がありました。この手のエッセイを、ときどき、見ることがあります。土屋賢二さんのもそうですよね。

一方、ちょっとした因縁があって読んだ小説は、全然違います。これはお医者さんが主人公で、病院のことを私小説風におもしろおかしく書いてあるのですが、奥様がすごく美化されていて、もっとも美しい存在になっている。文学の世界で、両極端の類型があるわけです。皆さんは、どちらが自然だと思われるでしょうか。

私の感覚では、家族を卑下するのが日本人の伝統的な価値観だと思うのです。奥様を鬼か蛇のようにしてしまっては極端かもしれませんが、奥様を美化する、あるいは讃美する書き方には、私自身、とても抵抗があります。私個人としては、研究書の枕に「妻誰それへ」と書くのも、恥ずかしくてダメです。外国ではそれが普通だ、というのは知っていますが。

書かれた本人がどう思うか、というのは、また違いますよね。それは、よく書かれた方が嬉しく、家族円満でしょう。読み手には、いまどういう形が自然に受け入れられるのでしょうか。

楽しい《魔笛》作り2010年04月04日 04時46分04秒

4ばかりが並ぶ作成日時です。あと2分早く始めれば良かった。4は、私の好きな数字の1つです。

復活祭の朝の、超早起き。1980年前の朝に思いを馳せないわけではないですが、因果関係はありません。昨夜、さる筋から食事にご招待いただき、楽しくやっていたのですが、気分が悪くなって退席してしまったのです(たいへん失礼しました)。そのまま少し寝ました。しかし今度は夜中に目が覚めて、眠れません。あれこれ考えて、起きてしまったというのが実情です。この先しばらくのスケジュールを考えると暗澹とする、というのが正直なところです。

その中に、充実もあり。昨日から、「基礎ゼミ」レクチャーコンサートのリハーサルが始まりました。ここしばらく《フィガロの結婚》を幕ごとにやってきましたが、今年は、《魔笛》の第1幕。新入生諸君に、「音楽の力」について伝えたい、という趣旨です。私は、有名なアリアを並べるような構成はしません。テーマにふさわしい部分を厳選し、第5曲の五重唱(魔笛がタミーノに渡される部分)と第7曲の二重唱(パミーナ+パパゲーノ)、そしてフィナーレ全曲を選びました。通して聴くフィナーレはさすがにすばらしく、私の大好きな場面も、ここに含まれています。それは、タミーノと弁者のレチタティーヴォです。

今回、何人かの先生と初めてご一緒することができ、世界が広がりました。キャスト一覧は次のようなものですが、見る人が見れば、相当だとわかってくださるでしょう。スペシャリストが何人もいて、相談しながら、また学生を指導しながら、どんどんステージができていきます。

タミーノ:経種康彦、パミーナ:松原有奈、パパゲーノ:山下浩司、ザラストロ:若林勉、弁者:田辺とおる、モノスタトス:青柳素晴、3人の侍女:悦田比呂子・加納悦子・与田朝子、3人の童子:山崎法子・川辺茜・高橋幸恵。

コンサートは6日の14時半からで、他にクラリネット協奏曲(ソリスト:武田忠善、指揮:栗田博文)が演奏されます。残念ながら、学内向け。去年までは2回公演で外部向けがあったのですが、今月は3月に《コシ・ファン・トゥッテ》を上演した結果、こちらがカットされてしまいました。でも財産になりますから、別の形で聴いていただけるようにできればと思っています。

ありがたすぎて2010年04月05日 23時45分35秒

今朝の毎日新聞が、「ひと」の欄に、「音楽学者がホールプロデューサー20年」という記事を書いてくれましたhttp://mainichi.jp/select/opinion/hito/news/20100405k0000m070103000c.html。写真もさすがプロというアングルで、ありがたいかぎりです。ありがたすぎて、自分の人生も来るところまできたかな、という感慨が浮かんできました。これ以上欲張っては、バチが当たります。皆さんの支えに感謝しながら、続けられることを続けていきたいと思います。

基礎ゼミが始まり、今年は声楽Aというクラスになりました。今日は、楽しい自己紹介。男子6名、女子22名ですが、どちらかが肉食、どちらかが草食と2分されています。どちらがどちらかは、ご想像におまかせします(笑)。そうそう、大学のホームページがリニューアルされました。湯川亜也子さんの表彰画像などがありますので、ご覧ください。

会議に1つ出て、新聞批評(東京のオペラの森の《パルジファル》)を送信し、夜はサントリーホールで、小山由美さんの受賞記念コンサート。今日もフル回転の1日でした。

モーツァルトの幸せ2010年04月06日 11時10分40秒

このところ眠れない、という更新がときどきありますが、今日もそれ。興奮して眠れず、夜中に更新しています。ただし日付は、前夜にしておきます。

昨日は、過日ご案内した「基礎ゼミ」のモーツァルト・コンサート。内輪で良かった良かったと言っても仕方ないかもしれないのですが、プロデュースした人間として、眠れなくなるぐらい、良かったと思っているわけです。なにより、武田忠善さんのソロによる、クラリネット協奏曲。楽器も名人芸も演奏者もすべて消え去り、モーツァルトの音楽のみが純粋に浮かび上がるという演奏で、私が理想とする音楽の形を、眼前に見る思いで感激しました。オーケストラもその思いとひとつになった、忘れがたい演奏でした。

後半の《魔笛》第1幕も、声楽の先生たちの全力投球によって、大きく盛り上がりました。私の解説の工夫は、フィナーレへの導入として、モノスタトスとの対話を設定したこと。青桺素晴さんの芸達者に対抗するため、私もがんばりましたが、助手からは、恥ずかしかった、と言われてしまいました。助手さらに曰く、台本は誰が書いたのか、選曲は誰がやったのか、と。私に決まっているではありませんか。

打ち上げではとても疲労を感じたのですが、二次会で覚醒。まだ眠れません。「幸せ」と言えば、その一語に尽きます。

見本到着2010年04月08日 20時14分58秒



こういう本になりました。写真やオビに関する情報を得ていませんでしたので、表紙がトーマス教会であることを初めて知りました。オビの言葉は、選び抜かれていますね。ありがとうございます。定価は、1,100円+税でした。ということは1,155円ということでしょうか。「直に買えば1,000円」でいけそうです。

まだよく読んでいませんが、鈴木秀美さんの名前が索引から落ちています。ごめんなさい。無伴奏のCDとのかかわりで、お名前を出しています。

「あとがき」の1節を、ご紹介代わりに引用します。「古い革袋はなるべく残し、酒はできるだけ新しいものにする、という作業が、原著の生命力を損わなかったかどうか。その判断は、読者にお委ねするほかはない。改訂は、章によっては、ほとんど書き直しに近いものとなった。その意味で文庫版は、私の現在のバッハ観をはっきり示すものとなったと言えるのだが、それが初版時のバッハ観と重なり合う面が想像以上に多いことも、また事実である・・・」

12日発売ですので、来週、店頭に並ぶと思います。どうぞよろしくお願いします。



理解しにくい話2010年04月09日 23時55分50秒

仕組みを変えようとして、議会と全面対決になっている首長の話が、よくニュースに出ます。名古屋とか、九州のどこかとか。すべてが同じケースだとは思いませんが、私には、理解しにくい話です。1個人が多数の反対と対決して押し切るという図式に、利があるものでしょうか。

個別的には、なるほどもっともだ、ということもあることでしょう。しかし、多くの反対を個人が押し切ろうとする図式の旗印に「民主主義」が挙げられたりすることには、どうしても理解が及びません。大局的に見れば、それは個人の側の権力志向であり、ゆきつくところは独裁だと思います。そこに、例外はあるでしょうか。

そんなことを思うものですから、制度改革に燃えている、という人を見るとまず疑惑を抱いてしまう、という反応を脱出できません。たとえばそういう首長がいるとして、その人は必ず、権限の強化を求めてきます。「地方分権」の主張にも、そうした側面があります。筋道で言われていることを個人の願望に置き換えて考えてみることも、有益ではないでしょうか。まあそう考えることも、私の非政治性のあらわれだと思いますが・・・。

4月のイベント2010年04月10日 23時12分15秒

今、大阪からの帰りです。いずみホールで、創立20周年記念のガラ・コンサートがあり、終了後ホテル・ニューオータニで、祝賀パーティがありました。私は住友生命社長の次にスピーチしたのですが、ずらりと会場を埋めた金融界、実業界の方々に圧倒され、しどろもどろに。言葉に詰まる、要点は飛ばすで、60点のスピーチになってしまいました。日本語なら大丈夫と思っていましたが、甘かったですね。やっぱりきちんと準備しておくべきでした。

ご案内をしていなかったと思いますが、明日は須坂の音楽講座2回目です。「クラシック音楽理解の切り札、ソナタ形式」と題して、交響曲やソナタの主要楽章で圧倒的にシェアの高い、ソナタ形式の原理と聴き方をコーチします。14:00から。東京方面で興味のおありの方は、25日(日)の「楽しいクラシックの会」(立川市錦学習館、10:00~)でその改訂版をお話しする予定です。お尋ねはGustavさん<gustav@mtj.biglobe.ne.jp>までどうぞ。

他にもありますが追って。

続・4月のイベント2010年04月12日 22時47分33秒

須坂の講座は、音楽の基礎を学ぼうという趣旨ですから、素材を幅広く使います。ギュンター・ヴァントの《未完成》を出せたのも、そのため(なんというすばらしさ!)。終了後次々と質問の手が上がったのも、嬉しいことでした。

いつも思いますが、素朴な質問がいちばんいい質問です。こんなこと訊いたら恥ずかしい、と思うような質問が、じつは根本的な問題をはらむ、答えのむずかしい質問なのです。その意味で、素朴な質問が続出した昨日の講座は、話し手として、満足のいくものでした。

今月のお知らせ、続き。17日(土)にはいずみホールで、20周年記念シリーズのひとつ、ロッシーニ《ランスへの旅》の再演があります。詳細は、いずみホールのHP(http://www.izumihall.co.jp/)でどうぞ。24日(土)には、朝日カルチャー横浜校の新シリーズが始まります。「バロック音楽の名曲を聴く(補遺)~バッハ特集」が今回のテーマで、4月はその第1回「平均律クラヴィーア曲集~鍵盤による多彩な世界」をお送りします。13:00からです。

その夜は、東京バロック・スコラーズの主催による講演会。「ワイマールのバッハ」と題して、ワイマール時代のカンタータについてお話しします。国立オリンピック記念青少年センターで、18:30からです。詳細は会のHP(http://misawa-de-bach.com/)でどうぞ。翌日は「たのくら」、10:00からです。今月は、土日に全部仕事が入っている。休めません。

授業始まる2010年04月14日 22時09分11秒

12日の月曜日から、新学期の授業が始まりました。春休みがないまま、突入したという感じです。月曜日は、私の主宰する専攻全体のゼミが、来週から。今週は、博論2名の指導をしました。月曜日は、さまざまな会議日でもあり、この日は3種類の会議がありました。

13日火曜日は、大学院の音楽美学。これまでは、美学という名前で自由にいろいろなことをやることが多かったのですが、今年は受講生の希望もあり、正攻法で行くことにしました。指導は、博論が2名と、修論7名(オペラ専攻)。これがすばらしいクラスで、楽しみです。夜は、バッハ演奏研究プロジェクトのガイダンス。声楽(iBACHコレギウム)は新人を加えて、ますます強力な陣容となりました。器楽、すなわち《ゴルトベルク変奏曲》の実習はまだ余裕がありますので、二の足を踏んでおられる方、ぜひご受講ください。

水曜日は、久々に、聖心女子大学に出講。思い出のある広尾から坂を上り、久々に、高級感あふれる構内に入りました。学生にも、気品を感じます。美学特講の枠で、前期は聖書と音楽の関係について講義します。受講生は教室一杯でしたが、制服姿の学生も多く、迫力があります(笑)。

終了後音大に回り、博論の指導2名。そう、今年は博論の指導に、時間のほとんどを費やすのです。金曜日には、講義が3つあります。充実感はありますが、完遂できるか否か、不安なしとしません。しかし、手を抜いて思わしくない結果を得るよりも、できるだけのことをしていい結果を得るべきだと、経験が語っているのです。

1週間終わる2010年04月16日 11時10分14秒

金曜日は、授業の多い日。午前には、長年続けている「歌曲作品研究」があります。ドイツ歌曲を、詩と音楽と演奏の面からみっちり学ぼうという授業ですが、今年は約5分の2がピアノの学生でした。伴奏者の確保に四苦八苦していた一昔前からすると、隔世の感があります。ありがたいことに、高橋幸恵さんがアシスタント(TA)をしてくださいます。

午後はまず、音楽学の「専門ゼミ」。これは、研究発表会を実施するための授業です。第一回はイタリアンのKISAKIで、お昼を食べながら顔合わせをしました。しばらく、企画の議論が中心になります。またご案内させてください。

続いて、音楽学の「西洋音楽研究」。二年生のための授業で、今期は研究に自分なりの「小さな主張」を作ることを学びます。たいへん士気の高い学生さんたちなので、成長が楽しみです。

博論指導を済ませてから大学を後にし、皆川達夫先生を囲む夕食会に出席しました。変わりなくお元気な皆川先生、なんと83歳だそうです。秋に、ご一緒にコンサートをします。かくして、目の詰んだ一週間が終了しました。土曜日はいずみホール、日曜日は学会の会議という日程です。