えびす顔 ― 2012年08月06日 12時42分22秒
3日(金)の朝起きてみると、ノドが痛く、かすれたドラ声が出るだけ。今日は大事なトークなのに、とがっかりしました。でも私の理論からすれば、これは吉兆です。暑さでは格上の大阪に入り、ホールに到着してみると、スタッフ全員がえびす顔。今日のコンサートは全席売り切れで、大入り袋が出るというのです。
いずみホールは、821席の中規模ホールです。中規模ホールというのは、意外に満席にしにくいのですよ。小規模ホールに比べてたくさんのチケットを売らなければならず、大規模ホールに比べて、イベント性のある華やかな公演がやりにくいからです。
再説しますと、この日のコンサートはバッハ・オルガン作品全曲演奏会(全14回)の、第1回。プログラムは、ドリア調トッカータとフーガ、小フーガ、エルンスト公子のコンチェルト編曲、ニ長調のトッカータとフーガに、種々のコラールを交えたもの。出演はゲアハルト・ヴァインベルガー(64)で、ミュンヘン音大、デットモルト音大の教授を歴任し、新バッハ協会理事をつとめている重鎮です。オルガン作品全曲録音を、偽作もことごとく含めて成し遂げておいでです。
ぎっしり埋まった客席から注目のまなざしが降り注いでいることに驚いたのは、私以上に、初来日のヴァインベルガーさん。今ではドイツでもオルガンを聴く人は少ないのに、とおっしゃり、ほとんど興奮状態です。恒例のインタビューでも次第に口がなめらかになり、よく話されましたが、幸いにも私がドイツ語絶好調(笑)。6月の旅行が良かったのでしょうかね。
演奏様式は正統派で、テクニシャンではないが、構成力がしっかりしています。加うるに、ストップの選び方、音色の作り方がとてもお上手です。後半に大きくノリが出たのはtaiseiさんのコメント通りですが、中でも最後の3曲が良かったのではないでしょうか。
《イエスよ、わが喜び》BWV713の後半「ドルチェ」の部分で天上から声が降り注ぐようなやわらかい音色が用いられたことに、耳をそばだてられた方も多かったようです。次の辞世コラール《汝の御座の前にいまぞわれ進み出で》BWV668では、コラール旋律がなんとも冴え冴えとした響きでクローズアップされました(この曲は口述筆記の逸話により有名ですが、ただ弾くだけではなんとなく過ぎてしまいます)。そしてそれを受けたニ長調のプレリュードとフーガが、よみがえった青春のような活力をみなぎらせて、コンサートを締めくくりました。選曲に死から復活への流れが想定されていることを、洞察してくださっていたのだと思います。
終了後の拍手は、いつになく熱く、長いものでした。じつに晴れ晴れした表情で演奏を終えたヴァインベルガーさん、快活な奥様と、日本をじっくり旅行して帰られるそうです。
オルガン作品といういわば好事家向けの分野で全曲コンサートを企画できるということ自体、容易にはあり得ないことだと思います。それが、日本にはなじみの薄い演奏家の出演にもかかわらず満員のお客様に支えられてスタートできたということは本当にありがたく、しみじみ幸せを感じた1日でした。ライプツィヒとの提携、ヴォルフ先生の支援、過去の出演者たちの貢献、広報の努力とマスコミのご協力など、幅広い力が結集されてここまで出来上がったものではあることはもちろんですが、なにより励みになるのは、こうした本格的なコンサートを待っていてくださるお客様が大勢おられるということを実感できたことです。がんばらなくては。
土曜日は6時半の新幹線で戻り、朝日カルチャー新宿校に駆けつけて、世俗カンタータの講義。BWV201にはすばらしい新録音がありますので、あらためてご紹介します。講義の後半に風邪は歴然と悪化し、青息吐息。週末は休養を余儀なくされました。しかしこの程度の代償で済むのであれば、安いものです。
いずみホールは、821席の中規模ホールです。中規模ホールというのは、意外に満席にしにくいのですよ。小規模ホールに比べてたくさんのチケットを売らなければならず、大規模ホールに比べて、イベント性のある華やかな公演がやりにくいからです。
再説しますと、この日のコンサートはバッハ・オルガン作品全曲演奏会(全14回)の、第1回。プログラムは、ドリア調トッカータとフーガ、小フーガ、エルンスト公子のコンチェルト編曲、ニ長調のトッカータとフーガに、種々のコラールを交えたもの。出演はゲアハルト・ヴァインベルガー(64)で、ミュンヘン音大、デットモルト音大の教授を歴任し、新バッハ協会理事をつとめている重鎮です。オルガン作品全曲録音を、偽作もことごとく含めて成し遂げておいでです。
ぎっしり埋まった客席から注目のまなざしが降り注いでいることに驚いたのは、私以上に、初来日のヴァインベルガーさん。今ではドイツでもオルガンを聴く人は少ないのに、とおっしゃり、ほとんど興奮状態です。恒例のインタビューでも次第に口がなめらかになり、よく話されましたが、幸いにも私がドイツ語絶好調(笑)。6月の旅行が良かったのでしょうかね。
演奏様式は正統派で、テクニシャンではないが、構成力がしっかりしています。加うるに、ストップの選び方、音色の作り方がとてもお上手です。後半に大きくノリが出たのはtaiseiさんのコメント通りですが、中でも最後の3曲が良かったのではないでしょうか。
《イエスよ、わが喜び》BWV713の後半「ドルチェ」の部分で天上から声が降り注ぐようなやわらかい音色が用いられたことに、耳をそばだてられた方も多かったようです。次の辞世コラール《汝の御座の前にいまぞわれ進み出で》BWV668では、コラール旋律がなんとも冴え冴えとした響きでクローズアップされました(この曲は口述筆記の逸話により有名ですが、ただ弾くだけではなんとなく過ぎてしまいます)。そしてそれを受けたニ長調のプレリュードとフーガが、よみがえった青春のような活力をみなぎらせて、コンサートを締めくくりました。選曲に死から復活への流れが想定されていることを、洞察してくださっていたのだと思います。
終了後の拍手は、いつになく熱く、長いものでした。じつに晴れ晴れした表情で演奏を終えたヴァインベルガーさん、快活な奥様と、日本をじっくり旅行して帰られるそうです。
オルガン作品といういわば好事家向けの分野で全曲コンサートを企画できるということ自体、容易にはあり得ないことだと思います。それが、日本にはなじみの薄い演奏家の出演にもかかわらず満員のお客様に支えられてスタートできたということは本当にありがたく、しみじみ幸せを感じた1日でした。ライプツィヒとの提携、ヴォルフ先生の支援、過去の出演者たちの貢献、広報の努力とマスコミのご協力など、幅広い力が結集されてここまで出来上がったものではあることはもちろんですが、なにより励みになるのは、こうした本格的なコンサートを待っていてくださるお客様が大勢おられるということを実感できたことです。がんばらなくては。
土曜日は6時半の新幹線で戻り、朝日カルチャー新宿校に駆けつけて、世俗カンタータの講義。BWV201にはすばらしい新録音がありますので、あらためてご紹介します。講義の後半に風邪は歴然と悪化し、青息吐息。週末は休養を余儀なくされました。しかしこの程度の代償で済むのであれば、安いものです。
コメント
_ 多田雅宏 ― 2012年08月06日 18時05分06秒
_ taisei ― 2012年08月06日 23時26分15秒
教授も後半の方がより良かったとお思いだったかと思うとちょっと安心しました。教授のお話で(ほんの一言でしたが)長年の疑問が解けました。パイプオルガンにはあれだけストップがあっていろんな音色が出せるのだけれど、どうやって音色を決めてるのか?(楽譜にはそんな指示があるようにおもえないし、でも、いろんな音色が出せるのに例えば、トッカータとフーガニ短調の出だしはどれもあの鋭い「タリラー!」という音色で始まるのか?)という疑問でしたが、「そこが腕の見せ所」と言う教授の一言で「やっぱりそうやったんや」と納得。(ニ短調もいろいろ試した揚句あの音色がふさわしいのでみんなあの音色を選んでいるんだ)ということがすとんと腑に落ちた次第。素人はこういうところが疑問なんですよねぇ。今更人にも聞けないし…。ありがとうございました。これから7年出来る限り通い続けて少しづつ楽しみながら勉強したいと思います。
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これからも楽しみにしています。