ハードル越え2013年05月20日 22時36分22秒

1年に1ぺんぐらいの割で、高いハードルがやってきます。今年のそれは、19日(日)の日本音楽理論研究会で「ワーグナーにおけるドミナントの拡大」と題する研究発表をすることでした。

友人の見上潤さんから発表を打診されたとき、とりあえずお受けしたのは、問題意識としてもっていた上記のテーマを、ちゃんと研究してみたいな、と思ったから。しかしよく考えてみると、この研究会は島岡譲先生を源流とする音楽理論プロパーの集まりで、高度な専門性をもつこと、折り紙付きなのです。そうした場で和声を論ずるなどということは僭越にもほどがある、と思えてきました。

その歳で恥をかかなくてもいいんじゃないか、とささやく内心の声あり。和声は昔それなりに勉強したのですが、最近の方法論には触れておらず、その精緻な記号体系にも不案内です。よほと辞退しようと思ったのですが、一度引き受けたことだし、自分の勉強になることなので、何とかやり遂げよう、と決心しました。

このことが、1年間、ずっと重く心にのしかかっていました。勉強を始めなければ、と思うのですが、発表が近づくのに、まとまった時間が取れません。ともあれ少しずつ準備を始め、五線紙に楽譜を書いて種々分析も行い、ほぼ2週間前に、完全原稿を完成。それから見上さん、今野哲也さんのご助言もいただいて、改訂稿を積み重ねました。やっているうちに面白くなり、何とかいけるのではないか、という気持ちにもなってきました。和声論に終始しては力及びませんので、ワーグナーの音楽論、作品論と結びつけるべく務めました。

さて本番。重鎮が居並ぶなかで行われた見上さんの発表は、完璧に記号化された譜面を配り、《トリスタン》の和声を、縦横にピアノを弾きながら説明するもの。自分は場違い、という思いが何度も頭をもたげました。でももう仕方がないので開き直り、準備してきた内容で、プレゼンテーションにベストを尽くしました。

発表が至らぬものであることは自分が一番良くわかっていますので、勘違いはしていません。しかし皆さん好意的に受け止めてくださり、アドバイスもいただけた上にディスカッションもはずんだので、本当に、やって良かったと思いました。「楽譜をよく見ている」とおっしゃってくださった方が何人もあり、分析に対して、新たな意欲が湧いてきました。

重荷を下ろして気分爽快。打ち上げでは、先生方と共にさまざまなことを、楽しく論じ合いました。尊敬する島岡先生が相変わらず聡明そのものでいらっしゃることが、嬉しい驚きでした。