ヨーロッパ通信2014(6)/暗転・・・その後2014年04月15日 13時18分45秒

13日(日)、すなわち枝の主日は、今回の旅行にとって、もっとも大切な日でした。受難曲ツアーの締めくくりとして、18世紀オーケストラを巨匠ブリュッヘンが指揮する《ヨハネ受難曲》公演が、ロッテルダムのドゥーレン大ホールで開かれるからです。私はこの公演の存在を強調して、参加の呼びかけをしました。皆さんも気合を入れて、コンサートへの備えをなさったようです。

開演は、14時30分。会場に着いてみると、意外にお客様の姿がまばらで、事前の雰囲気が、盛り上がっていません。これって、長老のブリュッヘン様に失礼じゃないの。それとも、もう過去の人?などと思いながら、席に着きました。

プログラムを手に取り、歌い手を確認します。「18世紀オーケストラ」・・フム。「カペラ・アムステルダム」・・合唱団ね。フムフム。「指揮 ダニエル・ロイス」・・なに---っ!!!

何のために来たのか、という思い、お客様から苦情が出るのではないかという思い、ブログに何と書いたらよいのかという思いなどが、脳裏に飛び散りました。演奏は淡々と進行して、第1部が終了。ホールのサイズが大きく、向こうの方で演奏している感じで、コンセルトヘボウのリアリティには及ぶべくもありません。

休憩にはやはり、ワインやシャンパンが、フリードリンクとして提供されていました。あるお客様が、「この演奏なら飲んでもいいでしょう」とおっしゃるので、私もワインをご相伴。ただ、この演奏にはまだ伸びしろがあるような気がする。後半見違えるようによくなることもコンサートでは少なくないから、と申し上げておきました。

で、後半。心なしか引き締まった趣で、コラールがスタート。まもなく、長大な「虹のアリア」がテノール(ヤン・コボウ)にあります。ここのヴィオラ・ダモーレとチェロのトリオがものすごく美しく、私は突然、涙があふれてきました。

その涙は、演奏が終わるまで、止むことがありませんでした。飾り気のない演奏なのですが、しっかり、受難に向かっている。無駄なく、本質がおさえられているのです。進むうちにおのずと作り出されてきた内的な盛り上がりは、私には「バッハの降臨」としか受け止められませんでした。

アンデルス・ダーリンという若いエヴァンゲリストが良かったですね。細い声なのですが語りのすみずみに情感が通り、「ガバタ」「ゴルゴタ」「マリア・マグダレーナ」といった言葉が、潤いをもって立ち上がって来ます。私がとりわけ重要と見なすソプラノ・アリア《溶けて流れよ》では、アマリリス・ディールティエンスの歌と18世紀オーケストラのフルート、オーボエ・ダ・カッチャ、チェロが完璧に溶け合った響きを聴かせて、これこそ古楽の真髄。アルト(ロザンネ・ファン・サンドヴァイク)とガンバのペアもよく、カペラ・アムステルダムの合唱が、ロイスの的確な指揮のもと、最後の2曲を見事なバランスで歌い納めました。ロイスさん、ごめんなさい!

幸福この上ない気持ちで、皆さんとハイネッケン・ビールの乾杯。どうやら私の運気は再起動に成功し、ふたたび上昇しつつあるようです(汗)。