3月のイベント2014年03月01日 23時16分16秒

3月に入り、今日はさっそく横浜の朝日カルチャーで、「バッハの《小フーガ》~わかれば簡単、フーガ形式」と題する講座をやってきました。割にうまくいったと思うので、ご案内しておくべきでした。ともあれ、今月のイベント、講座篇です。

5日(水)と19日(水)が、朝日カルチャーセンター新宿校の「徹底研究」講座。10:00~12:00のワーグナー《リング》枠は、《ワルキューレ》第3幕第3場、おいしいところにさしかかっています。2回かけて、〈ヴォータンの告別〉の比較をやってみたいと思います。13:00~15:00の《ヨハネ受難曲》講座は、思ったより進行が速く、すでに第2部に入っています。第19曲のバス・アリオーソ、第20曲の長大なテノール・アリア、その稿による変遷などをお話しします。

8日(土)の10:00~12:00は「楽しいクラシックの会」例会で、2回使うつもりだった《神々の黄昏》第3幕を1回で済ませることにしました(2月が雪で中止になったため)。すでにご案内したように、午後14:00から同じ立川市錦町学習館で、岩森美里さんのコンサートがあります。

15日(土)の13:00~15:00は、朝日カルチャーセンター横浜校の超入門講座最終回。モーツァルトの《アイネ・クライネ》を素材に、「知るほどに深いソナタ形式」という話をします。横浜校では22日(土)の13:00~15:00に、エヴァンゲリスト講座の今期最終回もあります。先月、バッハの死と《フーガの技法》、とご案内したのは間違いで、先月は《ヨハネ受難曲》第4稿、今月が《フーガの技法》の話でした。申し訳ありません。以上、よろしくお願いします。

男性もまたよし2014年03月03日 22時16分39秒

冷たい雨がそぼ降る日曜日(2日)、「キラリ☆ふじみ」というホールを訪れました。ご存じですか?富士見市市民文化会館というところで、いかにも遠そう。しかし武蔵野線北朝霞→東上線朝霞台と乗り換えると、下車駅、鶴瀬はすぐ近くでした。

ただそこからホールまでが、歩くと遠かった。すっかりお腹が空いたところにちょうどおいしいラーメン屋さんがあり、ラッキーでした。「やまむろラーメン」というお店です。ニラそばを食べました。

この日のコンサートは、「日本の俊英」と題する西巻正史さんの企画で、若い男性アーチスト3人が出演したのです。金子三勇士さん対、山根一仁+北村朋幹さんの競演、という打ち出しです。後のお二人は初めて聴きましたが、山根さんには驚きましたね。

バッハの無伴奏ソナタ第1番を、飄々と、力みなく弾く。自分を見張る目がいつも頭上にあり、それが音楽の全体を、また自分の向かう先を、クールな客観性をもって見晴らしている。この批評眼、この大局観を、18歳にして備えているとは!ラヴェルの《ツィガーヌ》になると、抑制をめぐらせたバッハとは一転して、扇情的な優雅さえほのめく。硬軟両様、融通無碍なのです。

北村朋幹さんのピアノがまた、第一級の硬軟両様。ヴァイオリンとピアノが惜しみなく音楽をやりとりするうちに響きが融合するという、すばらしいデュオになりました(プロコフィエフのニ長調ソナタ)。山根さん、北村さんを知ったのは大収穫。男性ならではの音楽がそこにありました。西巻さんの企画、すごいです。

今月のイベント(大阪篇)2014年03月05日 22時32分57秒

いずみホールのバッハオルガン作品全曲演奏会、変則的ですが、2ヶ月連続で開催となります。3月21日(金)、19:00から。出演はアメリカのオルガニスト、デイヴィット・ヒッグスです。

ト長調作品を中心としたブリュンドルフさんのコンサートが先日ありましたが、ヒッグスさんのコンサートは、ヘ長調を中心としています。それが「降誕の神秘」と題されているのは、クリスマスにちなむ曲が集められているから。年2回のコンサートの1つが夏、1つが3月ですので、若干の季節外れが生まれてしまいます。ちょうとバッハの誕生日なので、バッハの降誕ということでお願いします(笑)。

プログラムの骨格をなすのは、ヘ短調のプレリュードとフーガBWV534と、クリスマスにちなむヘ長調のパストラーレ、壮大きわまりないヘ長調のトッカータとフーガBWV540。パストラーレをめぐって、14曲のコラールが演奏されます。

コラールは、いずみホールのオルガンがとくに生きるジャンル。音色の彩りが美しいからです。《オルガン小曲集》からのクリスマス・コラールが、とくに聴きものだと思います。この曲集の密度の高さ、表現の緻密さは聴くほどにすばらしく、シュヴァイツァーの「音楽史上最大の出来事のひとつ」という評言も、誇張ではないと感じるようになりました。

いつものように解説とインタビューをします。いずみホールでは12日(水)にアンドラーシュ・シフのリサイタルがあり、これにも参ります。6つのバガテル、ソナタ第32番、ディアベリ変奏曲というベートーヴェン晩年のプログラム。《ディアベリ》がとくに楽しみです。

4日(火)に、ICUの補講と、打ち上げを行いました。写真を掲載します(in 吉祥寺)。音楽研究を専攻する学生さんたちのテーマは、伊福部昭、武満徹、バッハ、楽器。とても楽しく、これから授業ならいいのに、と思いました。やはり、親しみが大切です。



《ロ短調ミサ曲》公演ご案内2014年03月07日 11時40分36秒

合唱団CANTUS ANIMAE(雨森文也指揮)の《ロ短調ミサ曲》公演が、いよいよ迫ってきました。ご案内します。3月29日(土)18:30から、会場は渋谷の大和田さくらホールです。前売り4000円。いつものように、コメント欄にメールアドレス付きでお申し込みいただければ、係からご連絡申し上げます。

この公演、「礒山雅監修」と謳われています。演奏の主役はもちろんステージに上られる方々で私は脇役ですが、監修の立場から見ると、この公演には3つの売りがあると思います。

第1は、実践と研究の共同。5回にわたる公演を行い、その都度練習にも立ち会っていっしょに《ロ短調ミサ曲》を作るという、幸せな経験をさせていただきました。合唱団の方々の熱意と旺盛な吸収力に、その都度驚かされました。

第2は、器楽がピリオド楽器アンサンブルであること。アマチュア合唱団とピリオド楽器アンサンブルの共演は、まだ先例が少ないと思います。ピッチの問題、練習の問題など、ハードルがいくつもあるからです。《ロ短調ミサ曲》は、トランペットやホルンを始めとして、ピリオド楽器を使いたい曲がたくさんありますので、成果を期待しています。大西律子さんを中心に、櫻井茂さん(コントラバス)など、優秀な方がたくさん入っています。

第3は、コンチェルティスト方式を採用したことです。合唱各パートのリーダーがソロを兼ねるというのは、その長所がわかっていても、なかなかできないこと。歌い手にかかる負担が、とりわけ《ロ短調ミサ曲》において、並大抵ではないからです。テノールは、さんざん歌ったあとに〈ベネディクトゥス〉があり、アルトも、力尽きた頃、〈アニュス・デイ〉が控えています。プロの技倆が要求されることは、いうまでもありません。

そこで、くにたちiBACHの仲間だった5人の若手声楽家に、コンチェルティストを依頼しました。第1ソプラノ 安田祥子さん、第2ソプラノ 川辺茜さん、アルト 高橋幸恵さん、テノール 大野彰展さん、バス 小藤洋平さんです。須坂/立川のカンタータ公演とほぼ重なっていますが、《ロ短調ミサ曲》のために集まった顔ぶれから、カンタータもできたということです。みんな合唱にも想像以上にかかわってくれて、ありがたく思っています。

合唱団の練習がものすごく盛り上がってきているとの情報が入っています。たくさんの方が聴いてくださるとうれしいです。どうぞよろしく。

人前で踊る2014年03月10日 11時27分06秒

8日(土)は音楽三昧の一日でした。まず「楽しいクラシックの会」例会で、ワーグナー《神々の黄昏》の第3幕。ブリュンヒルデを歌うアン・エヴァンスの精根尽くした演唱に圧倒され、まず涙。この会でワーグナーをやるのは冒険かなと思い、一人去り、二人去りという情景も思い描いていたのですが、結果は逆で、月ごとに盛り上がってきました。4月からの年度は《トリスタン》《マイスタージンガー》《パルジファル》をやって、プロジェクトを完遂することになりました。

午後は同じ立川の錦学習館で、3月の「錦まつり」に会が提供するコンサート。今年は「メゾソプラノってすばらしい!」と題し、岩森美里さん、久元祐子さんにご出演をいただきました。企画として定着し、多くのお客様が楽しんでくださいます。

信頼する方々のご出演なので左うちわで、という目論見だったのですが、思いも寄らぬ事態に。岩森さんの歌うメドレーにバリ島の《おデブの坊や》という曲があるのですが、なんと、それに合わせて踊ってほしい、と頼まれたのです。私はそういうプレゼンテーションがまったくの苦手。死んでもいやだ、と申し上げたかったのですが、岩森さんに頼まれるとなぜか抗弁することができず、お役に立ちますっ、となってしまうのですね(汗)。

やりましたが、さぞお見苦しかったと思います。でも歌はすばらしかったですね。声がお人柄の深いところから湧き出ていて、あえて言えば、存在の悲しみに触れるようなところがあります。久元さんが学習館のくたびれたピアノを見違えるように鳴らされるのは、プロの至芸。人の出会いからこのようなコンサートを実現できて、感涙です。

終了後ただちに池袋まで移動し、カンタータ/受難曲コンサートのリハーサル。若い方々の出演ですが、実践と研究の共同を実現すべく、みっちり練習しました。今日これから、そのコンサートがあります。踊りはありません。

立川でバッハ2014年03月12日 23時51分11秒

遅くなりました。10日(月)、新装成った立川の「たましんRISURUホール」小ホールで開催した「楽しいクラシックの会コンサート」のご報告です。


年1回のコンサート、今年は、昨年12月に須坂で開催したiBACHアンサンブルによるバッハ・コンサートの東京公演という形をとらせていただきました。会場を満員にしてくださった会の皆さん、足を運んでくださったお客様、ありがとうございました。


演奏を引き締めたのは、チェロの名手、山本徹さん。インタビューの応答はユーモラスで愛すべき人柄が窺え、会場が笑いに包まれました。


女性代表は、ソプラノの安田祥子さん。よく透る美声の持ち主。


若い人たちは、1回の本番で変わります。今回成長著しかったのは、テノールの大野彰展さん。初挑戦のエヴァンゲリスト役を試行錯誤の末、本番ではすばらしい出来映えに。「ペトロは外に出て激しく泣いた」のくだりには、まれにみる感動がこもっていました。


その感動を受けてアリアを熱唱する高橋幸恵さん。ヴィオラの小林瑞葉さん、チェンバロの廣澤麻美さんとのスリー・ショット。


バスの小藤洋平さんも、格段にパワーアップしています。オーボエ・ダ・カッチャは尾崎温子さん、チェロは山本さん。この器楽があれば、力が入りますね。器楽は他に須賀麻里江さん、阿部まりこさん(ヴァイオリン)、塩嶋達美さん(トラヴェルソ)が出演されました。


ご覧のような盛況でした。もとを作ってくれたすざかバッハの会の方々に、あらためて感謝いたします。

お客様に脱帽2014年03月15日 09時59分59秒

12日(水)は、いずみホールでアンドラーシュ・シフのベートーヴェン・アーベント。大ピアニスト、シフの人気がいかに高いといっても、完売で大入り袋が回ってきたのにはびっくりしました。なぜならこの日のプログラムは《ディアベリ変奏曲》をメインに、《6つのバガテル》、ソナタ第32番という、晩年の渋い曲を並べたものだったからです。

私はシフを、必ずしもベートーヴェン弾きだとは思っていません。私の中にある精神主義的、人格主義的なベートーヴェン像とシフのアプローチはだいぶ違っていて、ソナタにはあまり馴染めないうちに、前半が終わりました。

しかし後半、《ディアベリ》の面白さはすごかった。エネルギーに溢れる奔放な演奏が最高のピアニズムで展開されて、満場を圧倒。その最後、音符的には短い音を、シフは名残を惜しむかのように長く引き延ばしたのですが(鍵盤に手を置いたまま)、お客様は静寂の中、その響きが消えるまでじっと耳を澄ましていました。盛大な拍手が湧き上がったのは、その後シフが、ゆっくり身を起こしてから。コンサートの最後はかくありたい、という願いが、理想的に実現されていたのです。

シフもそのことを嬉しく受け止めていたようで、傍目にも満足感をたたえながら、《ゴルトベルク変奏曲》のアリアを演奏。それで終わりだと思ったら再びピアノに向かって、さざ波のようなアルペッジョを弾き始めました。《月光》です!

第1楽章で終わるのかな、終わらないのかな、と思っていたら、鍵盤から指を離さぬまま、拍手をそれとなく制するように、メヌエットへ。さらに、フィナーレへ!圧巻の演奏で、場内の興奮は最高潮に達しました。

辛口の後期作品をずっと聴いた後でしたので、若い頃の作品に残る甘さが何とも好ましく、《月光》ってこんなにいい曲だったのかと、あらためて思いました。お客様とシフがいっしょに作ってくれたコンサートだと思っております。

エッセイスト新発見2014年03月17日 09時55分16秒

週刊誌の連載は、さぞ大変でしょう。毎回感心して読むものもあれば、だんだん読まなくなってしまうものもある。逆に、少しずつ引き込まれて、いつしか愛読、というエッセイも存在します。そのようにして発見した書き手が、酒井順子さんでした。

周囲への鋭利な観察が、ですます調のやわらかい文体に乗って、リズムよく流れていく。読むうちに、直感あり。この方の文章は、三島由紀夫の影響を受けているのではないか、と。私もずっと昔熱中していましたから、ピンと来るものがありました。

そうしたら、手に取った文庫本に、三島がたくさん登場するのですね。『制服概論』、『着ればわかる!』と読みましたが、じつに面白い。着るものを素材に、あるいは着るという体験を素材に、よくこれだけのことが書けるものだと、驚いてしまいます。三島の『不道徳教育講座』を連想するところもありますが、もちろん武張ったところのない、女性の文章。いま『金閣寺の燃やし方』というのを読んでおります(笑)。

切られお富2014年03月19日 00時45分44秒

17日(月)は、国立劇場に歌舞伎を見に行きました。出し物は、《菅原伝授手習鑑》から車引の場、そして《處女翫浮名横櫛》から、2つの場面です。後の方、お読みになれますか。「むすめごのみ うきなのよこぐし」だそうです。とうてい読めませんが、すばらしい日本語ではあります。

ご紹介した酒井順子さんの本に、日本の文化はわび・さびと言われているけれど、本来は派手好みのものだと三島由紀夫が言っている、と書いてありました。たしかに、どちらの場面も舞台や衣装の色彩にしろ役者の所作にしろ、華麗そのもの。しかし、花、華、艶といったイメージの視覚に対して、三味線と長唄による音楽は、諸行無常の詠嘆を宿しています。そのミスマッチに、日本文化を解く鍵があるのではないか、と考えたりします。

私は西洋のクラシック音楽を追究してきましたが、本質的には日本文化の讃美者です。ですから、こうした公演に接するたびに、日本の伝統的な価値観が失われてはいけない、と思います。圧倒的なグローバリズムの中で、歌舞伎を見る人が減らないでほしいと思うばかりです。

中村時蔵の「切られお富」に感服。春日八郎の《お富さん》を私はカラオケのレパートリーにしているのですが、その歌詞の意味するところを、この日初めて理解しました(汗)。この歌が大ヒットした私の子供の頃には、皆さんわかっておられたのだと思います。

不ヅキの堆積2014年03月20日 16時48分52秒

水曜日の朝9時半。恐ろしい電話がかかって来ました。10時から、朝日カルチャー新宿校の授業がある、というのです。

私のカレンダーでは、その日の授業は午後1時から。午前中のワーグナーは、その日はないと思っていました。変だという気はしましたが、そんな話を担当者としたような記憶もありました。それは、過去にあったことの錯覚でした(汗)。

さあ、弱った。すぐ出ても大幅に遅れてしまうし、第一、準備がしてありません。受話器を握って、茫然自失です。しかし午後もあるのだから、休むわけにはいかない。覚悟を決め、いくつかの映像をかき集めて、家を出ました。

呼んだタクシーが来ない!大通りへの出口を工事中なのです。やっと来て、別の道から大通りに出、少し気持ちが落ち着きました。タクシーの前を走っているのは、トラック。ところがそのトラックから、荷物が落ちてきたのですね。工事現場の通せんぼに使う、円錐形の器具です。

タクシーは急ブレーキをかけて、左の車線に脱出し、事なきを得ました。でも、もし後ろからクルマが来ていたらーーこの文章は書かれていなかったかもしれません。

駅に着くと電車が遅れていて、国分寺で乗り換えるはずの特快が、先に通過。というわけでさんざんでしたが、なんとか40分遅れで教室に駆け込みました。講座の皆さん、ごめんなさい。

これだけ悪いツキが堆積すると、その後が楽しみになります。午前、午後、夜と仕事を終えた帰り道は、どうだったか。

中央線が人身事故で超満員。帰宅まで、2時間半かかってしまいました。この帳尻は、どこで合うのでしょう。理論構築のために、知りたいと思います。🙏