う~ん、歌謡曲!2010年09月16日 23時32分57秒

いずみホールの歌謡曲企画。私の仕切ったコンサートの中でも有数の、熱い盛り上がりになりました。昭和初期から昭和25年までという古いプログラムのためお客様の年齢層がひじょうに高かったことを考えると、これほどストレートな高揚感があったのは、不思議なくらいです。

私も、大感激でした。でも、どうしてこんなに感激するんでしょう。青春の思い出?若き日の感傷?それだけでは、ないようなのです。やっぱり、音楽がいいのではないか。花岡千春さんがオリジナルに徹底してこだわり、和声も前奏・間奏・後奏も当時のままに復元した楽譜を使ってみると、素朴な中にいろいろな工夫や凝った表現のあることがよくわかり、クラシック畑の人たちが積極的に関与して作られていた初期歌謡曲のステイタスの高さを、実感する結果になりました。大熱演の出演者の方々、ありがとうございました。

終了後は、私が客席に入っていって、アンコールのリクエスト募集。小泉惠子さんには《蘇州夜曲》が、内之倉勝哉君には《赤城の子守歌》が、田中純さんには《イヨマンテの夜》がリクエストされたと言えば、雰囲気がわかっていただけるでしょうか。あ、若い人はご存じない曲ばかりですね・・・。最後は、トリの曲目だった《長崎の鐘》を、お客様といっしょに歌いました。客席からも、ずいぶん声が出ていましたね。

東京方面の方は、バリトン歌手の田中純さんを、あまりご存じないのではないでしょうか。すばらしい芸術家です。リハーサルでその声に触れてからどの曲も涙があふれてしまい、困りました。本番はステージ上なので抑制していましたが、それでも《新雪》(「紫けむる、新雪の~」)には泣いてしまいました。司会者は絶対泣いてはダメだ、と思っているんですけどね。

やわらかで味わいのある、ノーブルな美声。言葉をすみずみまで大切にした歌いぶりの中に、いつもほのかに漂う、ロマンティシズム。作品のために、音楽のために歌う芸術家に、またひとり出会いました。

歌謡曲、やります!2010年09月01日 10時22分01秒

中学2年生でクラシック音楽と出会うまで、歌謡曲をたくさん聴いていました。ラジオから歌謡曲が流れ、大ヒット曲はすなわち国民全体の財産であった時代です。自分の音楽性の基礎を作った、なつかしい曲がたくさんあります。

そこで、私がいずみホールでプロデュースしている「日本のうた」のシリーズで、歌謡曲(広義)の系譜をたどりたい、と思い立ちました。きっかけは、ピアニストの花岡千春さんが最近それに取り組んでおられることです。

企画をするにつれて再認識したのは、昭和初期の歌謡曲草創期においては、芸大卒・在学中の人など、クラシック畑の音楽家が大幅に関与している、ということでした。いずみホールの企画である以上、そこをしっかりとらえて、格調のあるコンサートにしたいと思います。オリジナルに極力忠実な、花岡千春さん復元の楽譜を用いて演奏します。

昭和初期から戦後まもなくまでを、「風土と心を歌う」「異国とモダンを歌う」「戦時に求められた歌」「復興期を支えた歌」の4ステージに構成しました。出演は小泉惠子さん(ソプラノ)、田中純さん(バリトン)の芸術性高いお二人ですが、若い人にも加わっていただかないと先につながらないという思いから、内之倉勝哉さん(テノール)にご参加いただきます。内之倉さんは国立音大後期博士課程のホープで、ウィーン留学から戻ったばかり。たいへんな美声の持ち主なので、ご期待ください。

9月15日(水)の14:00(!)から、3,000円均一です。この時間でもお出でいただける方、お待ちしています。

甲府でモーツァルト2010年08月29日 07時06分08秒

28日(土)は、甲府で演奏会でした。ちょうど40周年を迎えた山梨県同調会(卒業生組織)と大学の共催で、モーツァルトのクラリネット五重奏曲と《魔笛》第2幕抜粋を演奏したのです。私の役割は企画、解説。内容を理解しつつ楽しく聴いていただくために、演奏者へのインタビューを織り込むのを最近のやり方としています。当初はアドリブでやっていたのですが、最近は台本を書くようになり、事実上、寸劇のようになってきました。ところが、記憶がたいへん(笑)。昨日も趣向をこらしすぎて手違いがあちこち生まれ、薄氷を踏む思いでした。

とはいえ、名花澤畑恵美さん以下、出演者のがんばりで雰囲気のいいコンサートとなりました。終了後、記念パーティへ。これがまた、同調会の方々の完璧なまでの心づくしで、打ち解けた、楽しい会でした。天才少女の演奏というのもありましたが、びっくりしましたね。

国立音大の特徴として皆さんがおっしゃるのは、温かさとか、和とかいうことです。それは本当にそうだなあと、最近実感しています。大事なのは演奏者ではなくて作品であるとか、音楽の神様を喜ばせることが目的だとか私は最近主張しているわけですが、それは国立音大に籍を置いて仕事をしているからこそ、育ってきた考えであるのかもしれません。次の土曜日には、岐阜に行きます。

互恵の楽しみ2010年08月08日 13時02分33秒

「たのくら」の8月例会。「ミニミニコンサート」と講義を半々、という計画だったのですが、結局時間のほとんどを、コンサートに費やす結果になりました。ソプラノの川辺茜さん、メゾソプラノの高橋幸恵さん、ピアノの三好優美子さん、精魂込めてのご出演、ありがとうございました。

24年もやっている会ですから、会員の皆さんが1つになって、きわめて好意的に、演奏に向かってくれます。このため若い人たちも、安心して演奏に集中できる。つまり、出演者は「たのくら」の恩恵を受け、会員の側は、私の弟子たちの力量や魅力に、いい形で接することができるわけです。コンサート自体は超のつくほどささやかなものですが、こうした「互恵」に良さがあり、楽しみがあります。

オペラの部は私が解説しましたが、歌曲の部はそれぞれ専攻の曲を取り上げましたので、解説を歌い手に委ねました。簡単にやるのかと思ったら、2人とも詳細に掘り下げられた、後期博士課程在籍者ならではの解説。結果として--興味深いことに--シェーンベルクの初期歌曲に皆さんの関心が集まりました。今までは敬遠していたがこういう面白いものだったのか、という感想をおっしゃった方が何人もおられたのは、川辺さんの明晰な歌唱と解説のたまもの。なにしろ私自身が、同じことを思っているのです(笑)。ワーグナーの《エルザの夢》を歌われるほど声のある方なので、これからが本当に楽しみです。

パーセルの《ディドとエネアス》では、川辺さんがベリンダにまわり、高橋さんが、ディドの2つのアリアを歌いました。品格の中に憂いというか陰影をたたえた高橋さんは、ディドにぴったりのキャラクター。完成度の高い、情感豊かな歌唱だったと思います。「天使のピアノ」で知られる三好優美子さんがいつも的確なピアノで伴奏してくれるのも、会の自慢です。

年に1回のメインのコンサートには、渡邊順生さんがフォルテピアノで出演され、チェロの花崎薫さんと、ベートーヴェンのチェロ・ソナタを演奏してくださることになりました。来年、2月2日の水曜日。またご案内します。

〔付記〕最初「相互互恵」とタイトルしましたが、屋上屋を架す日本語ですので「互恵」に改めました。悪しからず。

神に感謝?!2010年07月21日 08時22分28秒

音楽研究所バッハ演奏研究部門の前期小発表会、無事終わりました。ご来場の方々、ありがとうございました。

バッハの名曲ばかり、14曲(!)。今年の新人6名を含む若い人たちが精根尽くして演奏するさまは私にとってたいへん嬉しいものでした。こういう場をもてることはありがたいことだなあ、という思いが募り、最後には、「神に感謝するというのはこういうことではないか」とさえ思った次第です。本番のコンサートは、12月14日。どうぞ、今からご予定ください。

豪華リレー2010年07月15日 11時35分38秒

いずみホール・バッハ・オルガン・チクルスの第7回、ハンス・ファギウス(スウェーデン)のコンサートが終わりました。今回もすごかったですね。作品を大づかみにとらえる構成力が抜群で、ぐんぐん、聴き手を引っ張ってゆきます。中でもイ短調BWV543、ホ短調BWV544が、まことに雄大な演奏でした。

このためお客様の拍手にも力がこもり、次回の前売りも、100枚を突破。入場者の1割売れたら大成功という前売りの世界ですが、むしろ2割に近い数で、驚きます。あ、次回というのは、2011年3月21日(バッハの誕生日)に行われる、ヴォルフガング・ツェーラーによる第8回。プログラムは、最高傑作ともいうべき《クラヴィーア練習曲集第3部》です。皆さんもいらしてくださいね。

世界のオルガン界はすごいなあ、伝統あるキリスト教国の厚みはやっぱりたいしたものだなあ、と感じつつ気づいたのは、このレベルの高さが、シリーズ音楽監督のクリストフ・ヴォルフ先生の人選に依拠している、ということです。日本でも有名というオルガニストは必ずしも多くなく、初耳という人も何人か含まれた、14人。それが、文字通り最高のバッハ弾きの人たちであることが、立証されつつあるのですね。

このシリーズが、個々の演奏家の知名度よりもシリーズへの信頼感で成り立っているように思えるのは、たいへんありがたいことです。ヴォルフ先生に感謝です。

楽しいインタビュー2010年06月13日 00時42分51秒

今日は東京都現代美術館で、藝関連のシンポジウム。「清澄白河」というところを初めて知りました。シンポジウムについて思ったことは、また別途書くことにし、今日は、かものはしさんのたいへんありがたいコメントに乗って、「レインボウ」がらみのことを若干付け加えます。

かものはしさんが言及してくださっている「私と出演者の掛け合い」について注釈します。ナビゲーター役の私は、ストーリーの解説をしなくてはなりません。しかしオペラのストーリーはこんがらかっていることが多く、時間もごく限られていますから、なかなか、行き届いた解説は望めません。抜粋となるとなおさらです。

そこでいつしか、インタビュー方式を採るようになりました。劇中の人物に私がインタビューし、その人物について、また彼・彼女がこれから歌う歌について、イメージを焼き付けてもらう、という作戦です。そうしたら、これが案外面白い。歌い手の方は芸達者が多く、しかも皆さん、いい意味で目立ちたがりですから、上手にやってくださるのです。最近は前もって台本を作り、それに沿ってやっています。

《コジ》では、第2幕初めのセレナードを終えたところに、インタビュー・コーナーを設けました。求愛が功を奏するか否か、という大詰めで、それぞれの心境を語ってもらうことにしたわけです。姉妹の性格の違いや、男二人の置かれた状況の違いを印象づけることを主眼として、台本を書きました。こうしてお客様にドラマの中に入ってきてもらい、後半の名曲を二倍楽しんでいただこう、という作戦です。

《魔笛》では逆に、音楽の始まる前に、3人にインタビューしました。パミーナに「向上する愛」への理想を語っていただき、それには応えるべくもないパパゲーノに自分なりの願いを語らせ、こわーいモノスタートスから、愛への秘められた思いを引き出すという構想です。パミーナにはパパゲーノ流の愛を否定するせりふを用意し、それをパパゲーノが立ち聞きしている、という設定だったのですが、私が引き出す質問を忘れてしまい、高橋織子さんが立ち往生される結果になりました。

〉この間,ラジオのクラシック番組でパーソナリティの歌手の方が「素晴
〉らしいという気持ちがわきあがったら拍手していいと思います」とコメントされていたのを思い出しました。

私、この考え方には絶対反対です。これははっきり言って、歌い手の言い分です。歌が終われば音楽は終わり、という考えが根底にある。作曲者が心を込めて書いた後奏、それを心を込めて演奏するオーケストラやピアノ。その全体が、音楽なのです。典型は、《魔笛》のパミーナのアリアです。後奏がまさに、音楽のエッセンスになっている。バッハのカンタータやシューマンの歌曲ならそうする人はいないでしょうが、オペラでも、事情はほとんど同じだと考えます。

最後に。足本君の貢献にご評価をいただき、ありがとうございました。本当に、彼あっての公演です。喜ぶと思います。

6月のイベント2010年06月11日 23時57分10秒

もう6月中旬。更新もいろいろ中途半端になっていますが、イベントのお知らせをまだしていません。今更ですが、簡単に。

今週の週末、土曜日は、藝術学関連学会連合のシンポジウムに出席します。詳細はこちらをどうぞ。http://wwwsoc.nii.ac.jp/geiren/

日曜日(13日)は、すざかバッハの会の例会です。今月は、クラシック音楽講座の第3回。「響いてくる風土-標題音楽に親しむ-」というテーマで行います。同じ企画の改訂版を、20日(日)の「楽しいクラシックの会」でもご紹介します。26日(土)の朝日カルチャー横浜校は、「成熟する世俗音楽」と題して、バッハのライプツィヒ時代におけるコンチェルト、ソナタ、カンタータをご紹介します。

たのもーさんのコメントについて、私感を少々。指揮者がいたらなあ、というご感想はよくわかることで、われわれの演奏の至らなさの的確なご指摘なのですが、指揮者のいないコンサートの経験も、もっともっと必要だと思っています。指揮者がいると「みんなが指揮者に合わせて演奏する」という形になりやすく、横の連携が希薄になることがしばしばあるからです。声楽の指導をすることが多い昨今ですが、オーケストラを聴く、ピアノを聴く、という価値観を重んじています。歌のパートのみを一生懸命歌い、あとはピアノがついてきてくれ、というスタンスの人、どうしても多いのです。

たのもーさん、安田祥子さんの声を絶賛しておられますが、私もまったく同感。のびのびとまっすぐに飛んでくる若々しい声で、最初のリハーサルのとき、鳥肌が立ちました。高橋織子さんの気品ある円熟した声とは、また別のよさです。昔はテノールやバリトンの声ばかり好きでしたが、最近は女性の美声にも、本当に惹かれるようになりました。

絶妙のロケーション2010年06月10日 23時29分39秒

「レインボウ21」の疲れからやっと立ち直りつつある状況です。たのもーさん、詳細な感想の書き込み、ありがとうございました。私自身はもちろんいろいろな感想がありますが、自分から書くよりは皆様に先に書いていただきたいという思いでいました。しかし私が書かないうちは書きにくい、と思われる方もあるようです。感想のおありの方、ご遠慮なくお願いします。いくつか書いていただけましたら、私の感想をレスポンスします。

私の実感を総合的にまとめておきますと、声楽、器楽、裏方すべての方々の献身的ながんばりで、これ以上は求められないというほどうまくいったと思っています。弟子たちとともにこういうコンサートをサントリーでやらせていただき、大きな幸福感に包まれたと、率直に申し上げます。みんな、ありがとう。最後は客席で拍手している方が謙虚な態度であると認識はしていたのですが、プリマドンナから招かれるまま、中央に出て行ってしまいました。右に《魔笛》のプリマ、高橋織子さん、左に《コジ》のプリマ、安田祥子さんという絶妙のロケーションで、手までつながせていただき、生きていて良かったという感じでした(笑)。

効率の良いトークをして時間を節約する必要があったため、昼間から、ずっと緊張していました。登場人物との対話を見せ場として、台本を配っていたのですが、ゲネプロではあちこち忘れてしまって、ミスの連発。大いに焦り、空き時間に準備を重ねました。結果として前半の《コジ》は完璧にうまくいき、一安心。でもそこで気が抜け、より確実に暗記していたはずの《魔笛》で間違えてしまったのですね。プリマを立ち往生させてしまいました。気を抜かず最後まで万全を期す、という当たり前のことの大切さを再認識した次第です。

様々な愛の形2010年06月08日 11時52分52秒

表題のコンサートに、これから出かけます。若い人たちが日に日に向上しているので、熱いコンサートになると期待しています。いらした方は、感想など書き込んでいただけるとありがたいです。では、行ってまいります。