感動的な《マタイ受難曲》2012年07月05日 23時49分02秒

1日の日曜日、三澤洋史指揮、東京バロック・スコラーズ(TBS)による「21世紀のバッハ」シリーズの一環として演奏された《マタイ受難曲》を、すみだトリフォニーで聴きました。作品のすばらしさがひたひたと迫ってくる趣の演奏で、ここしばらく聴いた《マタイ》では最高のものであったというのが、私の実感です。

というのも、合唱のテキスト理解が断然深く、それが豊かな共感として、合唱曲を、コラールを包んでいたから。TBSはアマチュア合唱団としては高いレベルの力量をもっていますが、それと同時に、作品に対する研究の姿勢が行き届いているのです。私の講演会シリーズを熱心に受講したと言うとなあんだと言われてしまいそうですが、そこで培った本質への理解は、力量の高さと結びついたとき、演奏の質を高めずにはおきません。何しろ、佐藤研さんのような第一線の聖書学者の講演も設定され、受難とは、イエスとはという事柄に、鮮明なイメージを形成して演奏に臨んだのです。果たせるかな演奏に反映された成果のみごとさに、佐藤さんと、思わず顔を見合わせてしまいました。

このように内側からの高まりを演奏に結びつけるのが、三澤さんのやり方です。TBSの一部をなすオーケストラがこうした合唱とまったく違和感なくまとまっていたのも、なかなかないこと。三澤さんは「ロマンティックな解釈だとお叱りを受けるのではないかと思っていた」とおっしゃいましたが、これだけバッハの作品世界が掘り下げられ、最後の合唱が感動を込めて歌われれば、まったく文句はありません。本来声楽家である三澤さんがチェンバロを弾いて指揮され、全体の大きな流れを仕切られたことにも驚きました。

畑儀文さんの福音書記者の貫禄もたいしたものでしたが、《マタイ》は初体験とおっしゃった國光ともこさん(ソプラノ)の新鮮な感動にあふれた歌唱には心を射抜かれました。終了後、打ち上げ。その場で心からの賛辞を述べられるほど、嬉しいことはありません。リップサービスはしない、私ですので。

コメント

_ マッキー ― 2012年07月07日 15時33分47秒

大雨の中参加した6月9日のカップリング講座で、先生のビデオ出演(三澤さんがDVDにして座右に置いておきたいと、見た直後に聴講者の前で述べていました)と、佐藤研先生のコンパクトで解りやすい資料に基づいた、とても興味深いお話を伺い、このマタイに臨みました。きっと先生もいらしていると思い、3階の最前席から見下ろしたのですが・・・。

舞台左側の字幕を見ながら、マタイの世界を堪能しました。特に合唱が素晴らしいなぁ、と思えました。冒頭合唱でマタイの世界にずんずん引き込まれ、長大な音楽物語の節々で歌われる合唱やコラールに、快い気分のままにドラマ性を感じ、そして終曲ではいつものように深い感動に包みこまれたのでした。

拍手が鳴りやまぬ中、最初に心に浮かんだのは、思ったよりロマンティックだったと言うことでした。この先生のブログに、三澤さん自身の言葉「ロマンティックな解釈だと・・・」を読み、安心しました。帰りの電車の中で、後ろ姿の指揮ぶりが目に浮かび、止めが少し流れる感じがあるのと関係もあるのかなぁと自問したことを思い出します。

3階席であったことを悔みました。独唱の声が十分に耳に響いて来なかったことです。特に、バスとアルトに最後まで深みが感じられず、ソプラノとの対比、テノール・エヴァンゲリストとの対比が楽しめませんでした。休憩後の第二部冒頭のアルトのアリアの出だしは、この音楽世界に引き戻させる効果があると考えているのですが、その世界を十分に成し得ていないように感じました。開曲、ホ短調の冒頭和音には、何度となく体験している聴き手にとっては、このマタイの深い美しさを湛えた世界に誘われるのでしょうから。。。

もう一つ満足できなかったと言うか、えぇっとなってしまったことがありました。何曲かの、特にダカーポアリアの繰り返しで、アンサンブルに集中力が緩んだような印象があり、そのためか声楽ソロとの間で僅かな乱れがあったように記憶しています。

五年ぶりに聴いて、何回聞いてもマタイいなぁ、と心底思いました。バッハは凄い!、演奏される方々もすごいなぁ、と・・・半世紀余り、クラシック音楽から離れられない音楽愛好家の思いです。こう書いていて涙が溢れそうになります。ありがとうございました。

マタイ受難曲(の楽譜)も、ユネスコの世界記憶遺産に登録されたらいいのになぁー・・・と仏教国の人間の独り言なのですが、キリスト教を敬虔に保ち続ける人々には違和感があるかもしれないのかなぁと、ふと、そんな感じがしてきました。

_ I招聘教授 ― 2012年07月09日 00時10分34秒

マッキーさん、ご感想、よくわかります。バッハを愛する方に聴いていただいて、合唱団のメンバーも本望でしょう。

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