対照的な2冊2013年01月16日 22時43分18秒

篠田節子体験をずっと綴る形になっていた、このコーナー。主要作の中でなかなか読む機会を得られなかった『ゴサインタン』(←山の名)の文庫本(文春)を発見して購入、むさぼるように読了しました。

業者を介してネパールから花嫁をもらい、旧家の日本式生活を教え込もうとするところから始まるこの小説。ストーリーは、まさに奇想天外な発展を遂げてゆきます。怒濤のように力のある文章、壮大な構想、たえず神と宗教に向かう問題意識、多元的な価値観。篠田さんの美点が結集していて、いつもながら多大の共感を覚えます。エンディングの感動は、いままでで一番大きかったでしょうか。

『聖域』『ゴサインタン』『弥勒』の順序で、三部作が書かれたそうです。強いて言えば、私の好みもこの順序です。

続いて、黒井千次さんの『高く手を振る日』(新潮文庫)を手に取りました。これもいいですね。かつての同級生に恋をする年配者の心境が繊細を極めた筆致で綴られていて、奥ゆかしい香りを放っています。まさに人徳の産物。まだこの境地には至れませんが、よくわかります。

芥川賞、直木賞の発表日に、これを書きました。