カウントダウン15--学会講演のあらまし2009年05月30日 23時14分12秒

今日はまとめて時間が取れましたので、リフキン先生が学会でされる講演「バッハの苦闘、私の苦闘--《ロ短調ミサ曲》校訂記」の翻訳を作りました。その過程で、ブライトコプフの新校訂版とファクシミリ版の比較などもしてみましたが、先生のお仕事の専門性の高さと詳細さに、ほとほと感嘆しています。

講演はまず、美術評論家ロバート・ヒューズの引用から始まります。超越的な存在として畏敬の対象となっているバッハと《ロ短調ミサ曲》も、知られざる弱さを克服しての苦闘を通じて生み出された、との趣旨です。

第1章では、1733年の前半部と1748-50年の後半部の筆跡が比較され、バッハの陥っていた身体疾患について新しい見解が示されます。バッハがすでに統御能力を失いはじめていた兆候があることも、指摘されます。

第2章では、筆写や転用によって《ロ短調ミサ曲》が完成されていくプロセスが追究されます。〈サンクトゥス〉の筆写にも興味深い仮説が示され、強い意志で貫かれた記念碑が、傷跡もなまなましくできあがってゆくさまが語られます。

第3章は、エマーヌエルが父の〈ニケーア信経〉に対して行った修正や書き込みの詳論です。これはまさに、昨年10月の学会シンポジウムで議論された問題と重なり合っています。これには、校訂出版の歴史が続きます。

第4章は、自らの校訂の苦心談です。有名な1981年のレコーディングの時点ですでに新版の基礎はできており、それがその後の作業によって大きく変化していったことがわかります。

訳していて、本当に勉強になりました。ぜひ、聞きにおいでください。5日金曜日18時から、芸大です。

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