前代未聞の激戦 ― 2010年08月30日 08時58分08秒
「前代未聞」という言葉を使うのには理由があります。審査結果が、完全に割れたからなのです。5人の審査員の1位が全部別、2位も全部別で、1位と2位の合計が、10校(重複なし!)。3位まで広げても、計12校。これほどばらばらになったのは、私の知るかぎり、初めてです。
結果発表には、全合唱団が3階席までをぎっしり埋め、かたずを飲む状況になりました。高校生は正直ですから、歓喜爆発のところ、下を向いてタオルに顔を埋めてしまうところ、明暗がくっきり分かれます。長い時間号泣していた生徒がいたのには驚きましたが、強豪校のまさかの落選、というケースだそうです。
33もの出場校が甲乙付けがたい状況で午前から夕方まで演奏し続けますと、同一の基準で聴き通し、きれいに順位を振り分けることは、至難の業です。私は今回、前回の反省をもとに、2つの基準を守ろうと努めました。それは、聴いた直後につけた点数をあとからの記憶で修正しないこと、互角だと思われたらかならず先に演奏した方を上位にすることです(時間差の影響はきわめて大きいので)。
それでもかなり、反省が残りました。審査員の心理として、自分の採点に同調してくれる人がいるか、いないかというのは、精神的な健康に影響します。ひとりでは、不安になるわけです。私はよくそれを経験しますが、今回は、第一級の顔ぶれの先生方が皆さんそれを経験されたようにお見受けしました。結局そのような形で一定のバランスを取るのが、審査というものだと思います。評価の観点はさまざまですからね。
いずれにしろ、高校の合唱活動がさかんなさまに接し、勇気づけられました。
「ぼきゅ」ですって? ― 2009年09月20日 22時23分32秒
いま最終の新幹線で、広島から東京に向かっています。広島で買った「あなご寿司」を初めて食べました。売り子のおばさんに「いま作ったばかり。おいしいですよ」と言われ、「じゃ、楽しみに」と応じたのですが、確かに悪くないですね。
合唱コンクールは無事終わり、ほっと安堵しました。合唱王国と呼ばれる島根県は突出した強さで、次々と金賞を取り、2日間のトップである理事長賞も、出雲第一中学が受賞しました。これなんか、すごかったですよ。
講評では言葉を生かすことの大切さについて話したのですが、そこで触れなかった、小さな例をひとつ。女声合唱の歌詞が「ぼく」を主語にしたもの の場合、男の子なり、男の人なりへの気持ちの同化が必要ですよね。でも、単に言葉だけ「ぼく」になる場合が多い。使い慣れていない言葉なので、不自然なのです。しかも、発音が「ぼきゅ」と聞こえます。
若い人の発音で「う」が「ゆ」に近づく傾向は、つねに年長者から嘆かれていることです。しかしあまりにも一般化しているので、これは日本語が変わったと受け止めるべきではないか、と考え始めているのですが、それでも、「ぼきゅ」という人はいませんよね。そのうちに、木下さんの作品も「ロマンチストのビュタがいた」と歌われるようになるのではないでしょうか。
ところで、「ぼく」のアクセントはどうでしょう。私は「ぼ」にアクセントを置きますが、「く」に置く人も、同じぐらいたくさんいます。これほど多用される言葉のアクセントが標準語においてさえ真っ二つというのは、おもしろい現象ですね。
広島から ― 2009年09月19日 23時33分53秒
広島からです。
金曜日、全日本合唱連盟中国支部心づくしの懇親会を終えて、同僚審査員の堀俊輔さんとホテルのバーで飲み、お勘定しようとしたおりのこと。先にお勘定している人の姿に、どうも見覚えがあります。不吉な予感にとらわれ、確認すると、私の大学の庄野学長と、演奏部課長の安藤さん。大学のイベントで広島に来られたそうで、ソプラノの大倉さん、ピアノの花岡さんも一緒、とのことでした。偶然と言うにしても、出来過ぎの話です。(クラリネットの武田さんも滞在中と判明。今夜二次会でご一緒しました。)
コンクールの話題というと苦労話ばかりですが、今回は初めて、自分なりに納得のいく採点が出来つつあります。これが一位、というのが自分の中ではっきりしていて、人と違う部分も、説明ができると感じるからです。勉強をさせていただき、失敗も積み重ねたことで、ようやく、少し自信がもてるようになってきました。
中国の方々は、とても手厚いもてなしの気持ちをお持ちで(ドイツ語でgastfreundlichと言います)、前夜から、とてもリラックスできました。このことが大きいようです。合唱については、おしなべてハーモニーが重んじられている、と感じます。すっかり打ち解けた中で仕事をさせていただき、うれしい限りです。
今日は、高校、大学、職場部門。明日は、中学と一般です。気持ちよく終われるといいな、と思っています。がんばります。
お手上げの審査 ― 2009年08月23日 22時01分15秒
いやあ、今日はきつかったです。午前中に、中学混声の部14団体、小学校の部2団体を審査。午後は1時半から、一般の部22団体の審査になりました。
自由曲が8分プラス課題曲というルールなので、1団体が10分を超えます。1時間5団体弱ぐらいのペースで、途中10分の休憩をはさみ、6時過ぎまで、審査が行われました。この22団体に、順位をつけるのです。
アドバイス用コメントを書きながら順位を考えてゆくのは、結構な重労働。しかし玉石混淆であればまだいいのです。埼玉県というのは合唱団が多い上に一般のレベルが高く、実力伯仲の団体がたくさんある。上位に集中というのがいちばんやりにくい形ですから、正直に言いますと、あまりうまくない団体が出てくると、ほっと一息です。逆に、すばらしいハーモニーで歌い出されたりすると、さあ困った、と、頭を抱えてしまいます。
だんだん疲れて頭が働かなくなり、収拾がつかない状況で終了。困りました。コンクールではいつも困りますが、今回の困り方は深刻。もうこんな仕事は金輪際辞めよう、と決心しました(笑)。
1位の候補は、私見によれば前半のA、中程のB、後半のCの3つで、伯仲しているように感じれられました。終わった段階ではC、B、Aという順が心に浮かんだのですが、しばらく考え、A、B、Cの順に修正して提出。その理由は、時間差でたくさんの演奏を聴き、順位をつける場合には、どうしても新しい方が印象が強いので有利になる、という体験(客観的にも立証されている)から、「同等に感じた場合には前の方を上位にする」という原則を、自分なりに立てているからです。とはいえ、この原則を発動するか否かにも、微妙な判断を強いられます。
提出し、いや~な気持ちで、集計を待ちました。集計紙が配られてこわごわ見ると、右隣の審査員(二期会の重鎮S先生)の1位が、やはりAではないですか。思わず、全身の力が抜けるほど安堵しました(笑)。2位は左隣の審査員と同じ、3位の団体には、委員長が1位をつけています。全体としてみれば私の採点は異色なのですが、違うところも自分なりに説明できる違い方なので、まずまずこれで良かったと胸をなで下ろしつつ、講評に出かけました。
というわけで、審査、またやることになりそうです(笑)。辛かったですが、いい音楽をたくさん聴くことができました。ちなみに私の1位は、scatola di voceという合唱団です。
平謝り ― 2009年07月26日 23時09分48秒
ここ数日徐行運転させていただいていたので、今日は久しぶりに気力が出て、部屋の積み重なりを一掃しました。その結果として、たちの悪いダブルブッキングを2つ発見。「最近ダブルブッキングないですね」と残念そうに言っておられたあなた、お喜びください。必然的に、平謝りのメール2通。どちらもまだ、返事が来ていません(汗)。
今日まで大阪でJSG国際歌曲コンクールが開かれており、私の周囲からも何人か参加していました。いましがた連絡があり、博士課程在学中の山崎法子さんがシニアの部で優勝されたそうです。1つ前の土曜日に「たのくら」に出演され、たいへん好調とお見受けしましたので、もともと内容的には折り紙付きの方ですから、あるいはと思っていました。おめでとうございます。
明日は、私の大学始まって以来の、博士論文の予備審査。声楽なので私の指導ですが、当該の学生は今年度に入ってから急上昇しているので、とても楽しみです。(普通は心配するものでしょうが、今回は自信ありです。)
カウントダウン6--祝・辻井さん優勝 ― 2009年06月08日 23時15分00秒
今日は、アメリカ・グループと日本グループの、声楽合同練習が行われました。私は大学でしたので聴いていませんが、信頼すべき筋からとてもうまくいって先生もご満足、という情報が入りました。本当だといいのですが・・・。
辻井伸行さん、クライバーン・コンクールに優勝されましたね。おめでとうございます。かつてCDの演奏にたいへん感心し、新聞に推薦した記憶がありましたので調べてみましたら、2007年の11月(1位)。対象は「debut」と題するCDでした。私はこんな風に書いています。
「ピアニスト辻井伸行は19歳、目が不自由だという。だがこの音楽の輝き、確信にあふれた表情の豊かさはどうだろう。ショパン、リスト、ラヴェルも大したものだが、カップリングされた詩的な自作品にも、盛り上がる力が秘められている。目を離せない才能だ。」
これから、ますます楽しみですね。
合唱コンクールで宇都宮へ ― 2008年08月24日 23時50分27秒
今日は、合唱コンクールの審査で宇都宮へ。全日本合唱連盟栃木支部の方々の心のこもったおもてなしのもと、審査委員長を務めました。
審査の心的プロセスは、いつも同じ。最初は選考に苦しみながら、こんな専門外のことを引き受けなければよかった、と激しく後悔し、審査結果の集計が出てきたころ自信を取り戻して意欲が湧き、最後はいい勉強をさせてもらったなあ、と思いつつ帰ってくる。このパターンです。
今回思ったのは、いずれ劣らずの、ないし徹底して一長一短の諸演奏に順位をつけるという作業は、自分自身の音楽に対する価値観を丹念に再検討する機会になる、ということです。したがって、聴いた演奏について考えているのと同じぐらい、それに対して反応をする自分自身について考えています。勉強になる、というゆえんです。
これまでも何度か聴く機会のあった合唱団、ルックス・エテルナ。すばらしい様式感で歌われたバードが心に残りました。バードをこれほど美しく再現するのはたいへんなことで、連盟理事長賞という、出演全団体のトップ賞に輝いたのもむべなるかなでした。
ほめついでに ― 2008年07月11日 22時47分41秒
ブログの価値はコメントの量ではかられるのだそうです。それだとさびしい、私の家。大江麻理子さん(テレビ東京)のブログなどまことに壮観で、別世界のようです。
でも当家のコメントは、量より質。コメントまで見ない、という方もいらっしゃるでしょうから、コメントにはなるべく、本文でお答えしています。「たのもーさん尊敬」などというのがそれですが、何のことかと首をひねられた方もおられることでしょう。今日は、「四畳半のテノール」という不思議な方から、コメントをいただきました。ハイCの可聴範囲が四畳半とは理解に苦しみますが、多くの読者には、四畳半の説明から始めなくてはならないかもしれません。昔、日本の家屋には・・・(以下略)。
本当にいいものを心から推薦する、という私のポリシーに照らして、ひとつ。今日午前中の「歌曲作品研究」の授業では、ドクターコース在学中の山崎法子さんに、ヴォルフの歌曲の演奏と解説をしていただきました。山崎さんはウィーンに7年間留学し、シェーンベルク合唱団の団員として、アーノンクールの指揮で歌っておられた方です。
ドイツ語がものすごくできる方なのですが、それは7年いたからではなく、言葉への感受性のゆえだと思います。メーリケ歌曲集からの5曲が、なんとすばらしかったことか。シニカルな曲は演劇的に、多彩に歌われ、宗教的な曲は、たちのぼるような雰囲気をこめて。そのすべてに、温かい人間性がゆきわたっているのですね。授業中ですが、思わず涙してしまいました。
やはり私が論文指導しているメゾソプラノの湯川亜也子さんは、最近、日仏歌曲コンクールに優勝。周囲の若い人たちがいい結果を出してくれて、喜んでいます。あ、お二人とも、くにたちiBACHコレギウムのメンバーです。
今年の初審査 ― 2008年01月20日 21時10分53秒
昨日、今日は、合唱コンクールの審査をしてきました。モノは埼玉ヴォーカル・アンサンブル・コンテストの中学校の部(土曜)と、ジュニア・ユース・レディ・一般の部。場所は所沢ミューズでした。
いつもはたいへんに辛く、罪に罪を重ねているように思えて、もうやめにしよう、と何度も考えた審査ですが、今回はスタッフや審査仲間にも助けられ、楽しささえ感じる充実感で、仕事をすることができました。その過程で、自分の音楽の聴き方というものが、かなりわかってきた。審査に一定の客観性を与えるためには、自分の聴き方、自分の判断の傾向というものを認識することが、とても重要です。
それがどういうものか、書いてもいいのですが、今書くとこうした価値観で採点した、と宣言するのと等しくなってしまいますので、機会を改めて書くことにします。いずれにしろ、自分なりに説明のできる採点が、良かれ悪しかれやっとできるようになってきたかな、と感じています。
埼玉県は全国的にも合唱レベルの高い県で、いい演奏がいくつもありました。ここでは全体の順位とは別に、私的に印象に残った団体をひとつだけ、一般の部から挙げておきます。それは「コーロ・ピアチェーレ」というさいたま市のアンサンブル。彼らはミリケンという現代作曲家(豪)の〈キリエ〉を歌ったのですが、現代のテクスチャーからグレゴリオ聖歌の雰囲気が立ち上るように演奏されたのには驚きました。見事な洞察力。カップリングの武満徹も、心のこもった演奏でした。これは、ほんの一例です。皆様、お疲れさまでした。
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