世の光2009年01月08日 23時38分48秒

メニューまさお君からご推奨いただいた『村上式シンプル英語勉強法』、さっそく買って読んでみました。これがまた、全然違う(笑)。「読む」「単語を覚える」「聴く」「書く」「話す」の五位一体が推奨されています。「単語を覚える」には否定的な考えも多いので珍しいように思いますが、なんと1万語を、毎日「眺める」という壮大な方法論です。いろいろなやり方があるものですね。

徹底的な多読の勧めは、メニューまさお君が指摘する通りです。そのさい、絶対に逆方向をとらず、語順のまま日本語に置き換えずに読み続ける、というのは、おそらく王道でしょう。語学にはそれぞれの経済原則があり、語順は、情報伝達の有効な回路になっている。後ろから訳したのではダメ、というのは確かにそうだと思います。私の場合はまだまだ不徹底で、通訳も可能なドイツ語でさえ、急速度でドイツ語と日本語を往復しているように思うのですが・・。

英語が自由自在に使えれば、世の中どれほど明るいだろうなあ、と思うことしきりです。

野口方式に挑戦2009年01月07日 23時42分57秒

野口悠紀雄さんの「超」シリーズ、流行ということもあり、ついつい手にとってしまいます。今回は、『超英語法』(講談社文庫)。今年はアメリカの演奏家たちをお招きしている手前、交流できなくては話にならないので、英語という積年の苦手を克服するべく、読んでみました。

すると、私が自分なりに形成していた外国語勉強法とは、逆のことが書いてあります。すなわち、徹底してヒアリングを訓練せよ、聞けるようになればしゃべれるようになる、と。私はすべて暗記するという主義で、暗記によりいい文章をたくさん覚え、話す能力を向上させれば、それが聞く力の向上につながる、と考えていました。こういう方法、野口さんはまったくお認めにならないでしょうね。

そこで野口方式を試してみることにし、オリンパスのICレコーダーを買ってきました。ネットから音源を録音し、移動中に聞いて勉強しよう、というのです。まだ始めたばかりですが、わかったことがあります。それは、東京の環境はじつにうるさいなあ、ということ。駅に近づいたり、商店街に入ったりするときの雑音の高まりは、急角度です。眼で見ていると自然に感じますが、耳だけで聞くとすごいです。当然、ヒアリングの絶望度も増してゆきます(笑)。

進まない整理2009年01月03日 23時38分57秒

多くの方々がそうでしょうが、部屋の片付けが、悩みの種です。お正月はもちろん、整理のチャンス。そこで抜本的に片付けようと思い、始めてみました。

本、楽譜、CD/LD/DVDの置き場は、中心が、私の部屋。一部が玄関や寝室にも進出しており、副次的なものは、階下の物置に入れてあります。私の部屋に置かれるものが着々と増え、混乱が刻々と増し、ついに整理に立つ、というサイクルを、ずっと繰り返しているわけです。

整理の絶対的な目的は、自分の部屋に置いてあるものを減らし、効率的な活用を図ることにある。ひんぱんに使うものもありますが、長期間一度も使われていない本や楽譜もたくさんあります。そうしたものは空間を占拠して運用の邪魔をしているわけですから、取り除かなくてはならない。そこを思い切って断行するのが、整理のコツです。

と、頭ではわかるのですが、やってみるとむずかしい。使っていない洋書や研究書を追放せんとして手にとってみると、使われていないのは本が悪いのではなく、私が不勉強で使ってあげていないだけだ、ということがわかるのです。何かの折りに眼を通すべき本がたくさんあり、そうした本は、そばに置いておかなくてはならない。この一点でまず、立ち往生(←好きな言葉)が起こります。

もうひとつ思うのは、読んで面白い本と、取っておくべき本、参照するためにそばに置いておくべき本は違うなあ、ということです。軽い娯楽的な本は、たとえむさぼるように読んでも捨ててしまいます。しかし、通読するほど面白くはなくとも、信頼のおける情報がたくさん入っている本は、手放せない。長い目で見れば、こうした本を書かなくてはいけないのだと思います。

初版とは2008年12月28日 23時48分08秒

「ジュンク堂」という本屋さん、有名なのでしょうが、私は行ったことがありませんでした。ところが、福岡店を訪れて驚嘆。圧倒的な品揃え、合理的な売り場構成、これはたいしたものです。

文庫も、じつによく揃っている。丹念に見ていくと、だいたい読んだつもりの松本清張に、『遠い接近』という未読書があるのを見つけました。これを帰路に読みましたが、無駄のない辛口の展開は、やはり面白い。この小説には、戦争中の軍隊や戦後の闇物資時代の生活のリアルな記述が、満載されています。それを読みながら、戦争を生き、戦後の混乱の中で私を育ててくれた両親のありがたさを、あらためてしみじみと思いました。今の人生、なんと楽なんでしょう。

併せて買ったのが、夏樹静子の『茉莉子』。私が夏樹ファンであることはすでに書きましたが、最近はどういうものか本屋さんの棚で見かけることが希になり、寂しく思っていました。さすがジュンク堂で、新しい文庫を見つけたわけです。

この小説は女子大生舞妓を主人公に、人工授精の問題を扱いつつ母の探索という謎解きをからめてあるのですが、「命」への愛にあふれていてすばらしく、車内で涙ぐんでしまうこともしばしばでした。そこで奥付を見ると、2001年出版の、初版なのです。丁寧に美しく綴られた良書なのにどうして読む人が少ないのか、考えてしまいました。飛ぶように売れているが中味はない、という本も多いだけに、不思議であり、残念でもあります。もちろん、個人的な感想ですが。

生命と音楽のかかわり2008年12月21日 23時35分24秒

理系の頭がないものですから、科学の本を手に取るのはいつもはばかられます。それでもこの本を買って新幹線に乗ったのは、「新書大賞、サントリー学芸賞ダブル受賞!」という謳い文句に惹きつけられたから。読んで納得。ダブル受賞は伊達じゃありません。すばらしい本で、生命科学の基本とその発見史が、わかりやすく、味わい深く、感動豊かに綴られています。文章といいその構想といい、傑出した書き手です。

読み進めるうちに、電子顕微鏡の突き詰める生命とは、音楽に酷似している、と思うようになりました。音楽が人間の時間的生命を充実させるものだとの趣旨を、私は音楽美学概論でつねに述べているのですが、その趣旨と響き合う記述が、随所に見られるのです。たとえば最後にある文章。この主語を、「生命」から「音楽」に入れ替えても、大筋で通るのではないでしょうか。

「生命という名の動的な平衡は、それ自体、いずれの瞬間でも危ういまでのバランスをとりつつ、同時に時間軸の上を一方向にたどりながら折りたたまれている。それが動的な平衡の謂いである。それは決して逆戻りのできない営みであり、同時に、どの瞬間でもすでに完成された仕組みなのである」(福岡伸一『生物と無生物の間』より)。

この本が、講談社の雑誌『本』に連載されたものに基づいているというのも驚きでした。私もときどき書かせていただく媒体ですが、こんなにすごい連載があったことを見過ごしていたからです。

明日は6時前に出て、福岡に向かいます。

第一級の知性2008年12月05日 23時03分31秒

昔はほとんど読んだことのなかった政界の裏話や国際関係の本を、ときおり読むようになりました。そこで手に取ったのが、佐藤優『自壊する帝国』(新潮文庫)。帝国とは、ソ連のことです。

読んで、度肝を抜かれました。すばらしい文章、たいへんな博識、情報獲得のための、最新にして大胆な行動。著者が第一級の知性の人であることは明らかです。しかもキリスト教神学が専門だと言うではありませんか。

佐藤優さんという方は、鈴木宗男関連でマスコミに採り上げられた方ですよね。そういう人が最近よくものを書いている、という程度の認識だったのですが、これほど優秀な人だとは知りませんでした。いろいろな章も取っていますから、お前今頃わかったの、ということのようです(汗)。さっそく、大宅賞受賞の『国家の罠』も買ってきました。

『自壊する帝国』には、要人との会話がものすごく克明に再現されています。全部記憶しているとも思えないので、ある程度創作しているのでしょうか、あるいは詳細なメモがあるのでしょうか。また、こんなに書いてしまっていいものでしょうか。疑問も生まれますが、ぐんぐん読ませる力は凄いです。

譜例2008年11月24日 22時36分29秒

東京は、ひどい雨でしたね。今日私は、2つの面談をこなしてからボストリッジのコンサートに行く、という予定を組んでいました。最初の面談に合わせて支度をし、出がけに(4時)チケットを見たら、なんと5時からではありませんか。

そうか、休日ね。7時だとばかり思い、5時と6時に面談を入れてしまっていました。もうコンサートには間に合わない時間でしたので、ボストリッジはあきらめ。きっとすばらしかったことでしょう。彼は、楽譜をじつに正確に、深く読む人です。

その楽譜なのですが、皆さんは、音楽書にはどの程度譜例があっていいと思いますか。昔よく言われたのは、楽譜を入れると本が売れないから、楽譜はなるべく使わないで欲しい、ということでした。斯界の通説、と受け止めています。私がそれでも結構使ってきたのは、専門性の上でどうしても必要な場合が多かったからです。

楽譜を読める人にとっては、言葉であれこれ説明するより、譜例を出せば一目瞭然、ということが多い。この文章をお読みの方も、多くはそういう方ではないでしょうか。一定の予備知識を必要とする本を書く場合には、むしろ譜例をたくさん入れた方が読みやすく、面白いと思うのですがいかがでしょう。あるいは、それはまだ時期尚早で、そうすると多くの読者を置いていってしまうことになるのでしょうか。このあたりが見極められれば、これからの音楽出版が変わってくるように思います。

悪用する動物2008年11月17日 23時51分51秒

たくさんの貴重な書き込み、ありがとうございます。なるほと、司令塔をつぶして迷惑メール激減ですか。皆さんも、迷惑メールから解放されて快適でいらっしゃることでしょう。最近は、ネットの問題が、ニュースでもひんぱんに採り上げられますね。種を売っているとか、人を轢いたら逃げた方が得だと書いてあるとか。本当に人間は、悪用する動物です。

美学の入門書というと、佐々木健一さんの『美学への招待』(中公新書)、今道友信先生の『美について』(講談社現代新書)を挙げてきました。ところが最近、超入門書というべき本が出版されました。『爆笑問題のニッポンの教養』というシリーズに、佐々木健一さんの『人類の希望は美美美』という本が加わったのです。

インタビュー形式の本文にコラムを配したような形で書かれていますが、軽い外見の中に、深い内容が含まれています。「人間にとって『美』とは何でしょうか。私は、人間の精神には限界があるのだと教えてくれる現象が、美しさではないかと考えています」と始まる講義の格調の高さは、さすがに佐々木さん。この命題に、私はまったく同感です。

しかし、それなら美を生活の、また社会の原理として確立すればよいかというと、それもまたむずかしい問題ですよね。先日話題にしたトロイア戦争が物語るのは、美がいかに人間に災いをもたらすかということです。美もまた、悪用できるというか、人間の対し方ひとつで、災いの源泉になる。明日の音楽美学概論では、そのあたりの関係について考えてみようと思います。

トロイア戦争2008年11月13日 22時51分25秒

ちょっと緊張を要するスケジュールになっており、何人かの方にご迷惑をおかけしています。

そんな中ですが、松田治著『トロイア戦争全史』を読みました。私もお世話になっている講談社学術文庫です。面白さもさることながら、じつに勉強になりました。なにしろトロイア戦争は、芸術素材の宝庫。オペラにもカンタータにも採り入れられ、絵画にも豊富に描かれています。でもそれらの結びつきやつながりがどうなっていたのかは、昔少しは読んだのですが、すっかり忘れていました。

種々の伝承は、複雑に入り組んでいるに違いありません。それがこの本には、うまくまとめられています。なるほどそういうことか、と膝を打つこともしばしばでした。必須の教養書のように思います。

膨大な人物の血筋に関する情報が神話の中に形成されていることには、驚かされます。男は剛勇、女は優美の徹底した価値観や、神々が人間にたえず干渉し、戦争では二手に分かれて介入を繰り返すさまも印象的。ゲーテは《ファウスト》の第2部でヘレネーを登場させ、シュリーマンは、実在が疑われた都の発掘に取り組んだわけですよね。ワーグナーの北欧神話と通じる部分も多く、ロマンが広がります。

ものを大切にする心2008年09月22日 23時38分31秒

白蝶さん、お久しぶりです(→コメント)。『春の数えかた』、さっそく読みますね!

というわけで、読書の話題続き。成毛さんの並行読書術をなお実践中なので、松本旅行には4冊買って、道中読んでいきました。中でも面白かった、というよりほとんど感動したのは、武田邦彦『偽善エコロジー~「環境生活」が地球を破壊する」(幻冬舎新書)という本です。

エコロジーにしろ、地球温暖化にしろ、原理主義的に声高な打ち出しに何となく違和感があったものですから、異説を知ろうと思って買ってみました。そうしたら、実証データと大局観に裏付けられた、とてもいい本。諄々とした語り口で、資源保護、温暖化、リサイクルなどをめぐる、思い込みの誤りを正してくれます。最後は、本当に大切なのはリサイクルより昔ながらの「ものを大切にする心」だ、という結論になり、共感をもって読了しました。

今日研究室でその話をしましたら、すでに読んでいる方がおられ、同感の由。まとまった異論もきっとあるのでしょうが、この本を踏まえて議論したい、と思います。もちろん私は、ものを大切にすることは、大賛成です。