最上の学生公演、《ドン・ジョヴァンニ》! ― 2009年10月17日 22時06分34秒
今日、国立音大大学院オペラ公演《ドン・ジョヴァンニ》の1日目がありました。例年モーツァルトのオペラを取り上げるのですが、《フィガロの結婚》だと満席に近く、他のオペラだと空席が増える。そこで、まあ土曜日だし、と、ゆっくりと出かけました。
すると、いつもよりホール周辺が騒がしく、引き返してくる人たちとすれ違うではありませんか。着いてみると、「もう一席もありません」とのお達し。関係者用の席にやっと座らせてもらいましたが、スタッフが座席探しに奔走する、文字通りの超満員です。どのホールも観客減に悩んでいる時節にこれは何としたことか、と、キツネにつままれたような気持ちでした。
しかし、このような熱気の中で始まった公演が、盛り上がらないはずはありません。過去に匹敵する例を思い出せないほど、充実した公演になりました。何よりオーケストラが流麗かつ的確で、同じ学生の演奏とは思えない。指揮者は高関健さんでしたが、一流の棒がこれほど音楽を変えてしまうものかと、驚くばかりです。
主力となったのは、院修士の2年生でした。今日出演したのは、村松恒矢(ジョヴァンニ)、大島嘉仁(レポレッロ)、高柳圭(オッターヴィオ)、柴田紗貴子(アンナ)、齊藤智子(エルヴィーラ)、清野友香莉/三井清夏(ツェルリーナ)の7名(+助演の先輩)。明るく積極的な、よく勉強する学年で、論文作成の授業がかつてなくうまくいったことは、すでに書いた通りです。その手応えが今日の演奏からもそのまま感じられ、学長は新カリキュラムの成果だとお喜びでした。たしかに、その影響はあるかもしれません。
平素は長所も短所もそれぞれに聴き、途中で見切りをつけてしまうこともよくある私ですが、今日は気迫にあふれた全力投球の演奏を最後まで気を入れて聴き、「鳥肌の立つ」思いを、再三味わいました。出演者の感動も、さぞ大きいことでしょう。明日の公演、私は参りませんが、狩野賢一(レポレッロ)、経塚果林(アンナ)、全詠玉(ツェルリーナ)と、力のある人が残っています。皆様ぜひ応援してあげてください。
プログラムの解説は私が書いていますが、そのあとに、「出演者より」というページがあります。「出演にあたっての思い」その他を記す欄です。みないいことを書いていますが、本日アンナを熱唱した柴田紗貴子さんの文章はとりわけ感動的で、ぜひ皆さんにも読んでいただきたいと思います。学生がどんな意気込みでオペラに取り組んでいるかを示す、これはとてもいい例です。
「本来なら、オッターヴィオと平凡で幸せな結婚生活を送るはずだったドンナ・アンナ。彼女は父の死という計り知れない悲しみと孤独を一気に背負い、『生きている者にとっての死』を味わうこととなります。それと同時に、憎むべきはずのドン・ジョヴァンニへの新たな感情に心は揺れ動き、自らオッターヴィオを拒絶することとなるのです。しかし彼女に与えられた旋律はそれとは裏腹に、天からの一筋の光りのような、格調高く崇高で、優雅で温かいものとなっています。これは苦悩する彼女に与えられた唯一の救いだと、私は信じています。」
先日学生たちが、「ドン・ジョヴァンニ・ワイン」なるものを、添え書きとともに届けてくれました。ラベルに、出演者の写真が刷り込まれています。これから空けて、気分良く飲みたいと思います。
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