対照的な2冊2013年01月16日 22時43分18秒

篠田節子体験をずっと綴る形になっていた、このコーナー。主要作の中でなかなか読む機会を得られなかった『ゴサインタン』(←山の名)の文庫本(文春)を発見して購入、むさぼるように読了しました。

業者を介してネパールから花嫁をもらい、旧家の日本式生活を教え込もうとするところから始まるこの小説。ストーリーは、まさに奇想天外な発展を遂げてゆきます。怒濤のように力のある文章、壮大な構想、たえず神と宗教に向かう問題意識、多元的な価値観。篠田さんの美点が結集していて、いつもながら多大の共感を覚えます。エンディングの感動は、いままでで一番大きかったでしょうか。

『聖域』『ゴサインタン』『弥勒』の順序で、三部作が書かれたそうです。強いて言えば、私の好みもこの順序です。

続いて、黒井千次さんの『高く手を振る日』(新潮文庫)を手に取りました。これもいいですね。かつての同級生に恋をする年配者の心境が繊細を極めた筆致で綴られていて、奥ゆかしい香りを放っています。まさに人徳の産物。まだこの境地には至れませんが、よくわかります。

芥川賞、直木賞の発表日に、これを書きました。

セラー購入2013年01月17日 23時46分56秒

長~い逡巡の時を経て、当家にワインセラーがやってきました。電話でワインの注文をとってくださる女性に、どのぐらい薦められたかわかりません。それでも同じ理由でお断りし、長~い時間が経ちました。

踏み切れなかった理由。私がワインを好きになったのはこの数年です。急激なシフトなので、あと何年飲めるか、わかりません。保存装置を買っても、すぐにドクターストップ、ということが十分に考えられる。だったらそのお金をワイン自体に投資し、買ったそばから飲んでしまうのが吉だ、と思うわけです。熟成を心がけても、自分が飲めなくなったら、意味がないではありませんか。

それでも買ったのは、今の1本を、少しでもおいしく飲みたい気持ちから。どうせ短期間しか飲めないのであれば、早くセラーを活用するに、越したことはありません。何より、部屋に放り出していたのでは、白ワインが飲めない。そこでビックカメラに行き、下の上ぐらいのセラーを購入して、部屋に置きました。

コメントに、ヤケ買いは成果があったか、という質問がありましたね。サンテミリオンの6本セットは、上々でしたよ。気がついたときに買っても、これからは保存しておきます。飲めなくなったら、青汁でも冷やすとしましょう。

感動した映画2013年01月19日 07時03分22秒

しばらく前、久しぶりに映画を見て感動したが、その映画の名前はまだ公開できない、と申し上げました。昨日の報道で、その映画が「第67回毎日映画コンクール」の大賞を受賞したことを確認しましたので申し上げます。周防正行監督の『終の信託』です。これから広く見られると思うと、嬉しいです。

安楽死の問題を深く掘り下げて、映画的な効果も随所に盛り込んで作られた映画ですが(主演は草刈民代さん、役所広司さん)、私が素人ながら述べたいのは一点、音楽の使い方のすばらしさです。とくに、プッチーニのアリア〈私のお父さん〉が独創的な解釈で、忘れられないエピソードとして使われていたのが印象的でした。映画への信頼性が、これでぐっと高くなりました。

コンテスト三日間2013年01月21日 08時28分04秒

18(金)、19(土)、20(日)と、埼玉ヴォーカル・アンサンブル・コンテストの審査をしました。開催地が久喜で比較的遠かったのと、参加団体が多く高校の部などは64校もあって夜遅くまでかかりましたので、完全へとへと。採点するだけでなく、各団体へのコメントを書き続けますから、相当な激務なのです。

ただ今回、細部はともかくとして大筋では、自分の採点ができたのではないかという実感を(ようやく)もつことができました。いつもは自己批判が先に立ってしまうので、自分なりに満足して帰宅することができ、嬉しく思いました。疲れ安めの夕食を大宮、浦和、さいたま新都心で摂りましたが、さいたま新都心のレストラン街はすばらしいですね。私が大宮に住んでいた頃にはなかった区域です。

提言というほどではないですが、私の意見を2つ、述べさせてください。いつは、選曲にあたっては、広い歴史からもっと名曲を取り上げて欲しいということ。1つの曲を長期間かけて仕上げるのがアマチュアであり、学校ですから、歌えば歌うほど価値のわかってくる本当の名曲を取り上げることで、合唱の喜びも増し、音楽への愛も深まると思います。合唱プロパーの演奏効果のある曲、とっかかりのいいお手軽な曲がよくあった反面、本当の名曲は稀にしか取り組まれていないように思われました。

もう1つは、外国語の曲には覚悟をもって取り組んで欲しい、ということです。心のこもった演奏のためには、簡単な会話ができる、ある程度語感をもてる、という外国語の曲を選んで欲しいし、そうでないのであれば、そのぐらいまで勉強していただきたいと思う。じっさいには、むずかしい外国語の曲がずいぶん多く選ばれている反面、歌詞が死んでしまっているように思える演奏も少なからずありました。もとにある言葉を慈しんで歌えないのでは、その曲がかわいそうです。

埼玉県発信のコンテスト、関東に広がってきたようです。発展を祈ります。

探検への夢2013年01月22日 11時13分46秒

芸能人が集まってワイワイ、という番組になじめない昨今、BSをかけておくことが多くなりました。惹かれるのは、世界各地の映像を紀行風に流したり、鉄道をともに地域を歩いたりする番組。子供の頃、地理が好きだったからかもしれません。

最近すばらしいなあと思ったのは、BS朝日で20:00からやっている「BBC地球伝説」、とくにそのナイル探検でした。子供の頃は探検ものが好きで、本を読みあさり、無人島で暮らしたい、と本気で思っていたほど。そうした行動にもっとも不向きな人間が自分であることをある段階で理解しましたが、探検に対するロマン自体は、消しがたく残っているようです。

19世紀の探検家たちがナイルの源流を求めて奥地に入る日々の過酷さは、想像を絶するものなのですね。密集した熱帯雨林、種々の猛獣や害虫、なにより熱病。無理に無理を重ねた行軍の末に、大きな湖の広がる景観を発見した感激は、さぞかしでしょう。アフリカはすごい!アマゾンの源流探検も見ましたが、よほど平易に感じました(それはそれでたいへんに違いないですが)。

以後地図を調べたりするうち、アフリカの北の方の国の並びは、頭に入りました。現代ではまた別の危険があり、たいへんですね。若いうちに一度行ってみたかったな、と思います。宇宙旅行にも子供の頃はぜひ行きたかったですが、科学の発展がもたらす情報は、かつてのような夢を許してくれません。時代は変わった、と思うことの1つです。

今月の特選盤2013年01月24日 09時01分20秒

フォルテピアノが、面白くなってきましたね。楽器の修復・復元能力も進化しているのでしょうが、新世代奏者の活躍が目立ってきました。

中でもすごいなあと思うのは、南アフリカ生まれだという、クリスティアン・ベザイテンホウト。彼がフォン・デア・ゴルツ率いるフライブルク・バロック・オーケストラと組んだメンデルスゾーン少年期のピアノ協奏曲イ短調/ヴァイオリンとピアノのための協奏曲ニ短調のCD(ハルモニアムンディ)を、今月のベスト・ワンに選びました。

本来ロマンティックな持ち味のピアノに比べて、フォルテピアノはクラシック、と分類したくなります。しかしこのCDでベザイテンホウトの弾くグラーフ・モデルのフォルテピアノは感性に密着してみずみずしく、ロマン性にあふれているのです。天才少年メンデルスゾーンが才気満開で繰り広げる音たちが、変幻自在のきらめきを放っています。ここまで、できるものなのですね。

今月はいいものが結構ありました。トーマス・ヘルが詩情豊かに弾くリゲティの「ピアノのためのエチュード」(ハルモニアムンディ)、新録音と旧録音の組み合わせですが堂々たる貫禄で楽しませる、福田進一さんのピアソラ作品集(デノン)、好調を持続するロータス・カルテットのシューベルト/弦楽五重奏曲(ライヴノーツ)などなど。

これは老化なのだろうか2013年01月25日 23時55分09秒

やらなければならない仕事、というのがあります。同業者感覚でいうと、採点。その前提となる出席のカウントで、今日は一日を費やしました。

162人が登録している授業なので、点呼はできませんから、感想だの質問だのを記したリアクションペーパーを、出席票代わりにしています。その累積が、二千枚以上。それを並び替え、登録し、回数を数えるのが、今日の仕事でした。おしゃべりする学生はいても、欠席する学生はほとんどいませんので、大量にあります。

みんなよく出席していた、ということを確認し、多少の濃淡を記録して仕事を終了。相当な労働でした。でも皆さん、どうしておられるのでしょうね。この仕事をたいへんにしない方法はただひとつ。毎週、授業の後に整理を行うことです。そういう当然のことをできている先生が、どのぐらいおられるのでしょうか。

私は「自分を追い込み、焦りにより能率を上げる」という方法でやってきましたので、締め切りより1週間も早くこの作業をしていることに、われながら驚いています。そういうことをすること自体が、私の老いなのではないだろうか。

老化現象を大いに警戒している私ですが、先週、4時台に目が覚めてしまう日が、3日ありました。さしもの超夜型もいよいよこうなったか、と受け止める心境でした。でも今週は、普通の夜更かしに戻っています。かく行きつ戻りつして、老化は進行するのでしょうかね。

農民の《田園》2013年01月28日 12時17分24秒

「北海道農民管弦楽団」というアマチュア・オーケストラをご存じですか?宮沢賢治の『農民芸術概論綱要』の理想を実現せんと北海道の農業関係者によって組織され、「鋤で大地を耕し、音楽で心を耕す」をモットーに、農閑期に集まって活動しているオーケストラです。勝負曲は、もちろん《田園》交響曲です。

と紹介しておりますが、不肖私、まったく存じませんでした(汗)。認知のきっかけは、「ウィーン・フィル&サントリー音楽復興祈念賞」への応募です。無事採択となり、1月27日(日)にそのコンサートが、賢治ゆかりの都市、花巻の市文化会館で行われました。じつのところ半信半疑で視察に出かけたのですが、早朝発の旅行記については、また別の機会に。

後発の東北農民管弦楽団、金星少年少女オーケストラ(←賢治つながり)も一部参加したコンサートは、賢治にちなむ新作《星めぐりの歌による幻想曲》(当日の指揮者、牧野時夫氏作曲)を交えた、多彩なプログラム。しかし看板に偽りなしで、大地に根を生やしたゆるぎないもの、音楽と正面から向かい合う気骨が、演奏にあるのです。

最後に演奏された《田園》には、その意味で本当に驚かされ、感嘆しました。とくに第2楽章の〈小川のほとりの情景〉。木管楽器のハイレベルなアンサンブルに聴き惚れていると、そこにいつしかオーケストラ全体の響きが集まり、自然と人間のよき交流の姿が、文字通り自然に、農業にかかわる方々ならではの裏付けをもって描かれていきました。ここに至るまでの活動の困難さは想像に余りありますので、それだけ驚きも大きかった、ということです。

祈念賞がこうした活動を少しでも知らしめる役割を果たすとしたら、本当に嬉しいことです。

カメラと共に2013年01月31日 21時01分56秒

皆様からいただくコメントを拝見していると、熱心にコンサート通いをされている方が多いなあと、驚いてしまいます。私も、ラッシュ。日曜日の花巻に続いて、月曜日は上野でモルゴーア・クァルテットの定期演奏会、火曜日はサントリーで樫本大進+リフシッツ、今日(木)は静岡に足を伸ばし、大植英次指揮、大阪フィルを聴きました。このうち3つが視察で、ひとつが新聞批評(樫本)。それぞれに、興味深いコンサートでした。

日本のあちこちを見て回ることは熟年の滋養と考え、デジカメを携行することにしました。少し、ご紹介しましょう。

まず、夕暮れの三浦海岸に光を増す満月。26日(土)、風が強く寒い日に撮りました。対岸は千葉県、すぐそこに見えます。


早朝発、早めに着いた花巻でぜひ実現したかったのは、北上川を見ること。「イギリス海岸」と呼ばれる景勝地にたどりつきましたが、深い雪の中にはまりこんでしまい、車道ではクルマのはねる泥水を頭からかぶる始末。川は、予想よりずっと穏やかな流れでした。

静岡グランシップのコンサートの後の散策は、新富士駅周辺と決定。海岸の防波堤に上がり、北に富士山、南に駿河湾の大観に接しました。伊豆半島が、ゆったりと横たわっていました。

目を惹いたのは、愛鷹山の堂々たる山容。東から見ると単なる前山ですが、西から見ると貫禄十分です。展望もさぞいいでしょうが、岩がもろく、エキスパートしか登れないそうですね。

このあたりの名物は、しらす。「しらすの八幡」というお店で、生しらす定食を食べました。生しらすと釜揚げしらすがたっぷり提供されて、600円。ちょっと幸福なひとときでした。