8月のCD ― 2012年08月30日 23時23分50秒
毎日新聞・今月のCD選は、3人の評者がかなり重なりあった先月とは対照的に、全員別々、計9種のCD/DVDが推薦されました。このほうがいろいろな演奏を拾えるのでいいにちがいないのですが、重なり合ったときの、自分の選考がオーソライズされたような嬉しさはありません。コンクールの審査と、同じ心理ですね。
私は昔、カラヤン指揮、ウィーン・フィルというレコードで、《カルメン》を聴き始めました。ゲルマン風のシンフォニックな演奏で、ギロー版の管弦楽伴奏付きレチタティーヴォを使っている。そういう壮大路線だと今はちょっと、と思いつつラトル指揮、ベルリン・フィルの新録音(EMI)を聞きましたが、さすがにそれはなく、オペラ・コミック風の軽妙かつ躍動的な演奏になっています。作品の魅力がやはり一等で、ドン・ホセを演ずるカウフマンの表現力がすごいです。2枚組の全曲CDに抜粋のDVDがついて4,800円というのは、売れ筋の強みですね。
2位に推したのは、「ドラマ」と題する、バッハの世俗カンタータBWV201、207、213のセット。これも、BWV213(岐路に立つヘラクレス)はDVDです。L.G.アラルコン(アルゼンチン人)指揮 ナミュール室内合唱団(ベルギー)、レ・ザグレマンという輸入盤をタワーレコードで見つけたときには、知らないアーチストだし、ともあれ買っておこう、という程度の気持ちでした。しかし聴いてみて、はつらつとした見事な演奏にびっくり。新世代の台頭を、まざまざと感じます。7月の渡邊順生さんの《ヴェスプロ》に出演したシェーン(ソプラノ)が、テノールの櫻田さんとともに出演しています。
林光指揮・ピアノ・編曲 東京混声合唱団による「日本抒情歌曲集」 (フォンテック)を、もう1席に含めました。なつかしい歌の数々が収められ、節度ある高貴な編曲によって、曲の良さが心に染みわたります。林先生のよき遺産だと思います。
私は昔、カラヤン指揮、ウィーン・フィルというレコードで、《カルメン》を聴き始めました。ゲルマン風のシンフォニックな演奏で、ギロー版の管弦楽伴奏付きレチタティーヴォを使っている。そういう壮大路線だと今はちょっと、と思いつつラトル指揮、ベルリン・フィルの新録音(EMI)を聞きましたが、さすがにそれはなく、オペラ・コミック風の軽妙かつ躍動的な演奏になっています。作品の魅力がやはり一等で、ドン・ホセを演ずるカウフマンの表現力がすごいです。2枚組の全曲CDに抜粋のDVDがついて4,800円というのは、売れ筋の強みですね。
2位に推したのは、「ドラマ」と題する、バッハの世俗カンタータBWV201、207、213のセット。これも、BWV213(岐路に立つヘラクレス)はDVDです。L.G.アラルコン(アルゼンチン人)指揮 ナミュール室内合唱団(ベルギー)、レ・ザグレマンという輸入盤をタワーレコードで見つけたときには、知らないアーチストだし、ともあれ買っておこう、という程度の気持ちでした。しかし聴いてみて、はつらつとした見事な演奏にびっくり。新世代の台頭を、まざまざと感じます。7月の渡邊順生さんの《ヴェスプロ》に出演したシェーン(ソプラノ)が、テノールの櫻田さんとともに出演しています。
林光指揮・ピアノ・編曲 東京混声合唱団による「日本抒情歌曲集」 (フォンテック)を、もう1席に含めました。なつかしい歌の数々が収められ、節度ある高貴な編曲によって、曲の良さが心に染みわたります。林先生のよき遺産だと思います。
今月のCD選 ― 2012年07月19日 23時54分37秒
6月のCD選はドイツ旅行が入ったため事前に少ない候補から選定せざるを得ず、ここでも採り上げないままになりました。7月はボーナス期の新譜が来て、選択肢は豊富です。それでも3選ですから、少ない月は有利、ということですね。
庄司紗矢香さんがウラル・フィルとの共演で弾いたショスタコーヴィチ のヴァイオリン協奏曲第1番、第2番(MIRARE)を、1位にしました。この演奏、たいへんな密度で進められますが、ショスタコーヴィチにふつう連想する冷たい触感とか、シニカルなユーモアとかとはかけ離れています。それをどう評価するべきかかなり考えたのですが、「熱を帯びつつも慰めに満ちた」ソロに耳を傾けるうち、これは閉鎖的な風土で呻吟するショスタコーヴィチを救済する天からの音楽ではないか、と思うに至りました。たいしたものです。
2位にしたのは、この時期恒例の「アルゲリッチ&フレンズ ルガーノ・フェスティヴァル・ライヴ2011」です(EMI)。今年はアルゲリッチの出番が多く、ラヴェルのコンチェルトのソロのみならず、ザレンプスキの五重奏のような知られざる佳作にも力量を発揮しています。後光のようなオーラがだんだん出てきましたね。これは3人全員の推薦でした。
デノンが出しているOpusArte系のオペラのDVDを、数点見ました。良かったのが、パッパーノが英国ロイヤル・オペラを指揮したヴェルディ《マクベス》 の2011年ライヴ。パパゲーノで有名なキーンリーサイドがヴェルディの主役を立派に、内面を掘り下げつつ歌うことにも感心しましたが、対峙するマクベス夫人に扮したウクライナの新進ソプラノ、モナスティルスカの美声と表現力には驚嘆。大器の出現です。
庄司紗矢香さんがウラル・フィルとの共演で弾いたショスタコーヴィチ のヴァイオリン協奏曲第1番、第2番(MIRARE)を、1位にしました。この演奏、たいへんな密度で進められますが、ショスタコーヴィチにふつう連想する冷たい触感とか、シニカルなユーモアとかとはかけ離れています。それをどう評価するべきかかなり考えたのですが、「熱を帯びつつも慰めに満ちた」ソロに耳を傾けるうち、これは閉鎖的な風土で呻吟するショスタコーヴィチを救済する天からの音楽ではないか、と思うに至りました。たいしたものです。
2位にしたのは、この時期恒例の「アルゲリッチ&フレンズ ルガーノ・フェスティヴァル・ライヴ2011」です(EMI)。今年はアルゲリッチの出番が多く、ラヴェルのコンチェルトのソロのみならず、ザレンプスキの五重奏のような知られざる佳作にも力量を発揮しています。後光のようなオーラがだんだん出てきましたね。これは3人全員の推薦でした。
デノンが出しているOpusArte系のオペラのDVDを、数点見ました。良かったのが、パッパーノが英国ロイヤル・オペラを指揮したヴェルディ《マクベス》 の2011年ライヴ。パパゲーノで有名なキーンリーサイドがヴェルディの主役を立派に、内面を掘り下げつつ歌うことにも感心しましたが、対峙するマクベス夫人に扮したウクライナの新進ソプラノ、モナスティルスカの美声と表現力には驚嘆。大器の出現です。
今月のCD選 ― 2012年05月29日 23時34分34秒
今月は、図らずもラテン系オンリーになりました。
安川加寿子先生のドビュッシー、これが断然の1位です。ドビュッシー生誕150年を記念してまとめられた、1966~71年録音の4枚組(ビクター)。息を呑むような演奏ばかりで、当時聴く機会を得なかった私は、こんなに偉い先生だったのかと本当に驚きました。音楽・技術の諸要素と世界の多彩なイメージが、ドビュッシーの意図そのままに、完璧に融合しているのです。これから、聴き継がれていってほしいものです。
2位は、ルネ・フレミングの歌うラヴェル、メシアン、デュティユーの管弦楽伴奏付き歌曲集(デッカ)。あのとろけるようにやわらかい声で歌われる《シェエラザード》のエキゾティシズムには、魅力が一杯。メシアンもいいですよ。
3位には、グラナドスのピアノ組曲《ゴイェスカス》を、松村未央さんが演奏したもの(ALM)を選びました。曲は、画家ゴヤの恋を描く、ロマンと民族色にあふれるもの。その意外に大きな世界を、スペイン在住の松村さんが骨太にとらえています。
安川加寿子先生のドビュッシー、これが断然の1位です。ドビュッシー生誕150年を記念してまとめられた、1966~71年録音の4枚組(ビクター)。息を呑むような演奏ばかりで、当時聴く機会を得なかった私は、こんなに偉い先生だったのかと本当に驚きました。音楽・技術の諸要素と世界の多彩なイメージが、ドビュッシーの意図そのままに、完璧に融合しているのです。これから、聴き継がれていってほしいものです。
2位は、ルネ・フレミングの歌うラヴェル、メシアン、デュティユーの管弦楽伴奏付き歌曲集(デッカ)。あのとろけるようにやわらかい声で歌われる《シェエラザード》のエキゾティシズムには、魅力が一杯。メシアンもいいですよ。
3位には、グラナドスのピアノ組曲《ゴイェスカス》を、松村未央さんが演奏したもの(ALM)を選びました。曲は、画家ゴヤの恋を描く、ロマンと民族色にあふれるもの。その意外に大きな世界を、スペイン在住の松村さんが骨太にとらえています。
今月のCD選 ― 2012年04月18日 11時59分34秒
今日ちょうど、毎日新聞に出ました。いいものが多くあり、楽しかった月です。
1位にしたのは、バッハのクラヴィーア協奏曲7曲を2枚にまとめた、コンスタンチン・リフシッツ独奏のもの(オルフェオ)。シュトゥットガルト室内管弦楽団が演奏しています。
バッハのクラヴィーア協奏曲は、もちろん曲はいいのですが、チェンバロではどうしても、演奏効果が上がりません。しかしリフシッツほどの人に演奏されると、ピアノでやりましょう、と言いたくなるのですね。バッハを知り抜いていて、自由闊達、新しい発見のたくさんある演奏です。
ベートーヴェンの交響曲全集はモダンはもちろん、ピリオド楽器でも、すでにたくさん出ています。しかし、エマニュエル・クリヴィヌ指揮 ラ・シャンブル・フィルハーモニックのもの(ナイーヴ)には感心しました。古典期のピリオド楽器をしっかり揃えていることに加え、有機性に富む合奏が細やかで情感に満ち、潤いがあるのです。このためテンポはすこぶる快適ですが速いだけに陥っておらず、鮮度も抜群。3人の評者が全員2位という珍しい結果になりました。もちろん、1位でもおかしくないと思います。
DVDをひとつ、ということで、「ビクトリア~神々の作曲家」というザ・シックスティーンの映像(コーロ)を3位に入れました。「ルネサンス期スペインを代表する作曲家の光まばゆい合唱音楽を、聖地探訪の美麗な映像と共に」楽しめます。
1位にしたのは、バッハのクラヴィーア協奏曲7曲を2枚にまとめた、コンスタンチン・リフシッツ独奏のもの(オルフェオ)。シュトゥットガルト室内管弦楽団が演奏しています。
バッハのクラヴィーア協奏曲は、もちろん曲はいいのですが、チェンバロではどうしても、演奏効果が上がりません。しかしリフシッツほどの人に演奏されると、ピアノでやりましょう、と言いたくなるのですね。バッハを知り抜いていて、自由闊達、新しい発見のたくさんある演奏です。
ベートーヴェンの交響曲全集はモダンはもちろん、ピリオド楽器でも、すでにたくさん出ています。しかし、エマニュエル・クリヴィヌ指揮 ラ・シャンブル・フィルハーモニックのもの(ナイーヴ)には感心しました。古典期のピリオド楽器をしっかり揃えていることに加え、有機性に富む合奏が細やかで情感に満ち、潤いがあるのです。このためテンポはすこぶる快適ですが速いだけに陥っておらず、鮮度も抜群。3人の評者が全員2位という珍しい結果になりました。もちろん、1位でもおかしくないと思います。
DVDをひとつ、ということで、「ビクトリア~神々の作曲家」というザ・シックスティーンの映像(コーロ)を3位に入れました。「ルネサンス期スペインを代表する作曲家の光まばゆい合唱音楽を、聖地探訪の美麗な映像と共に」楽しめます。
今月のCD ― 2012年03月30日 23時26分11秒
いつもだいたい、14日ぐらいに新聞の締め切りが来ます。その時点までに集まっている新譜の中から3枚選ぶのですが、今月は候補がたいへん少なく(締め切り以降にかなり来ました)、選択に困りました。そこで、随時手に入れた輸入盤の中から3点を紹介する形にさせていただきました。
ベルギー在住のオルガニスト国分桃代さんが、「バッハとホ短調」「バッハとハ短調」というCD出しています(メロフォン)。トリオ・ソナタ6曲を各曲に適した異なったオルガンで演奏するというだけで企画に惹きつけられますが、選ばれたトリオ・ソナタの「調性」を看板にして近親調の作品をプログラミングするという着想に、舌を巻いてしまいます。1位にしたのは「ハ短調」の方で、曲目はトリオ・ソナタの第2番、パッサカリア、ト短調のファンタジーとフーガ、変ホ長調の《装いせよ、わが魂》など。ストラスブールのトマ・オルガンを用いた、味わい深い演奏です。
第2位に入れたのは、「ウィーン流儀で~ハプルブルク宮廷の音楽」と題する1枚(CORO)。演奏はル・ジャルダン・スクレです。17世紀を中心に18世紀始めまでの当地の音楽を集めているのですが(作曲家はレオポルト1世、カヴァッリ、ドラーギ、シェンク、フローベルガー、ケルル、シュメルツァー、サルトリオ、フックスなど)、ことごとく短調で、詠嘆に満ちた作品ばかり。栄華を誇る宮廷でこういう音楽が好まれていたとは驚きで、「時代」を実感します。5月の放送に出すつもりです。
震災復興を支援するチャリティ・コンサートが、世界で行われました。「仙台のための音楽~ベルリン皇帝教会における慈善演奏会」というCDを手にいれたので、3位としてご紹介します(primTON)。 沼尻竜典さんの指揮で、樫本大進さんらベルリン在住の音楽家が大集合している、温かい支援の記録です。
ベルギー在住のオルガニスト国分桃代さんが、「バッハとホ短調」「バッハとハ短調」というCD出しています(メロフォン)。トリオ・ソナタ6曲を各曲に適した異なったオルガンで演奏するというだけで企画に惹きつけられますが、選ばれたトリオ・ソナタの「調性」を看板にして近親調の作品をプログラミングするという着想に、舌を巻いてしまいます。1位にしたのは「ハ短調」の方で、曲目はトリオ・ソナタの第2番、パッサカリア、ト短調のファンタジーとフーガ、変ホ長調の《装いせよ、わが魂》など。ストラスブールのトマ・オルガンを用いた、味わい深い演奏です。
第2位に入れたのは、「ウィーン流儀で~ハプルブルク宮廷の音楽」と題する1枚(CORO)。演奏はル・ジャルダン・スクレです。17世紀を中心に18世紀始めまでの当地の音楽を集めているのですが(作曲家はレオポルト1世、カヴァッリ、ドラーギ、シェンク、フローベルガー、ケルル、シュメルツァー、サルトリオ、フックスなど)、ことごとく短調で、詠嘆に満ちた作品ばかり。栄華を誇る宮廷でこういう音楽が好まれていたとは驚きで、「時代」を実感します。5月の放送に出すつもりです。
震災復興を支援するチャリティ・コンサートが、世界で行われました。「仙台のための音楽~ベルリン皇帝教会における慈善演奏会」というCDを手にいれたので、3位としてご紹介します(primTON)。 沼尻竜典さんの指揮で、樫本大進さんらベルリン在住の音楽家が大集合している、温かい支援の記録です。
今月のCD選 ― 2012年02月25日 23時27分09秒
このところ、送別会続きです。木曜日は、ドイツに留学した同僚で作っている「ドイツ語つながり」という会の、恒例の集まり。金曜日は、音楽学の「追いコン」。どちらでも送別会を兼ねていただきました。両日とも盛り上がりましたが、最近あまり密着していなかった音楽学の学生たちが示してくれた親愛の情は意外なほどで、感動をもって受け止めました。いずれも深夜におよび、疲れ気味です。
今月のCD、行きましょう。すばらしい1位があります。小菅優さんのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集第1巻「出発」(ソニー)。第1~3番、第16~18番の6曲が収められていますが、正攻法の、じつに堂々たるベートーヴェンです。いまどき珍しい、といいましょうか。読みの深さと表現の多様性に加えて、のびやかさがあるのです。
2位は輸入盤で、ブルックナーの第3交響曲の初稿、すなわちワーグナー引用が要所で出てくる稿を、ブロムシュテットがライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団を指揮して録音したもの(独QUERSTAND)。
ブレンドされた響きで流れよく進められ、長さを忘れます。初稿、いいですね。
第3位は、ダニエル・ホープの「ロマンティック・ヴァイオリニスト」というグラモフォン盤を選びました。19世紀の名ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムの貢献を、ブルッフの協奏曲やブラームスのハンガリー舞曲など、彼のからんだ作品で追うという焦点の定まった企画で、演奏も引き締まっています。
今月のCD、行きましょう。すばらしい1位があります。小菅優さんのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集第1巻「出発」(ソニー)。第1~3番、第16~18番の6曲が収められていますが、正攻法の、じつに堂々たるベートーヴェンです。いまどき珍しい、といいましょうか。読みの深さと表現の多様性に加えて、のびやかさがあるのです。
2位は輸入盤で、ブルックナーの第3交響曲の初稿、すなわちワーグナー引用が要所で出てくる稿を、ブロムシュテットがライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団を指揮して録音したもの(独QUERSTAND)。
ブレンドされた響きで流れよく進められ、長さを忘れます。初稿、いいですね。
第3位は、ダニエル・ホープの「ロマンティック・ヴァイオリニスト」というグラモフォン盤を選びました。19世紀の名ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムの貢献を、ブルッフの協奏曲やブラームスのハンガリー舞曲など、彼のからんだ作品で追うという焦点の定まった企画で、演奏も引き締まっています。
今月のCD選 ― 2012年01月25日 00時19分15秒
年末商戦のあとだからでしょうか、今月は、分母がすごく少なかったです。というわけで、ちょっと渋い選考になりました。
1位は、ヘンゲルブロック指揮 北ドイツ放送交響楽団のシリーズ第一弾(ソニー)。曲はメンデルスゾーンの交響曲第1番とスケルツォ(弦楽八重奏曲からの編曲)、シューマンの交響曲第4番初稿。いかにも爽やかな演奏で、初期ロマン派の魅力がいっぱいです。ヘンゲルブロック、これから一番楽しみな指揮者ではないでしょうか。《ロ短調ミサ曲》があったことを思い出して聴いてみましたが、すばらしいですね。コンチェルティスト方式をとっている(従ってジャケ裏にソリスト名が出ていない)、珍しいCDです。
2位は、吉松隆さんの「夢詠み」を選びました(カメラータ)。吉村七重さんの箏が、清澄のきわみなのです。「耳を静けさへと引き込み、心を洗い清める至芸」と書きました。
3位は、有森博さんの「カバレフスキー3」(フォンテック)。日ごとに存在感の薄れつつある社会主義リアリズム時代の人気作曲家ですが、使命感をもって演奏してくれているピアニストがいることを知ったら喜ぶでしょうね。24の前奏曲など、曲ごとに個性があり、面白く聴けます。
1位は、ヘンゲルブロック指揮 北ドイツ放送交響楽団のシリーズ第一弾(ソニー)。曲はメンデルスゾーンの交響曲第1番とスケルツォ(弦楽八重奏曲からの編曲)、シューマンの交響曲第4番初稿。いかにも爽やかな演奏で、初期ロマン派の魅力がいっぱいです。ヘンゲルブロック、これから一番楽しみな指揮者ではないでしょうか。《ロ短調ミサ曲》があったことを思い出して聴いてみましたが、すばらしいですね。コンチェルティスト方式をとっている(従ってジャケ裏にソリスト名が出ていない)、珍しいCDです。
2位は、吉松隆さんの「夢詠み」を選びました(カメラータ)。吉村七重さんの箏が、清澄のきわみなのです。「耳を静けさへと引き込み、心を洗い清める至芸」と書きました。
3位は、有森博さんの「カバレフスキー3」(フォンテック)。日ごとに存在感の薄れつつある社会主義リアリズム時代の人気作曲家ですが、使命感をもって演奏してくれているピアニストがいることを知ったら喜ぶでしょうね。24の前奏曲など、曲ごとに個性があり、面白く聴けます。
今月のCD/DVD ― 2011年12月24日 23時19分50秒
OPUS ARTEのDVDを国内発売しているデノンから、ブルーレイのシリーズが始まりました。《椿姫》、《ヘンゼルとグレーテル》、《ラ・ボエーム》の3点(英ロイヤル・オペラのライヴ)がまず出ましたが、ブルーレイは快適ですねえ。映像も音も、格段によく、進化を実感します。
3つとも、正統的な演出による美しい舞台で楽しめますが、《椿姫》と《ヘンゼルとグレーテル》がとくに、甲乙付けがたい出来栄えです。新聞の1位には《椿姫》を入れましたが、それは、この耳にたこができるほど聴いている作品を、やはり名作だなあと、しみじみ思ったから。フレミング、カレヤ、ハンプソンというキャスティングは伊達ではなく、パッパーノの指揮にも熱い勢いがあります。しかし、キルヒシュラーガー、ダムラウ、トーマス・アレンと揃えたフンパーディンクも、長老デイヴィスの名指揮を得て、劣らぬ出来になっています。
第2位は、エレーヌ・グリモーのモーツァルトのピアノ協奏曲第19番と第23番(+コンサート・アリア)。クリスタルな煌きのモーツァルトですが、独創的なスピリットにあふれていて、バイエルンの室内オケとのコラボレーションも緊密。指揮者なしの演奏のよさを、ますます感じるようになりました。
もう1枠は、藤原道山さんの尺八をウィーンのシュトイデ弦楽四重奏団による、「FESTA」というCDです。バッハの管弦楽組曲第2番の抜粋が入っていますが、トラヴェルソとまったく遜色のない妙技で驚きました。音感といいフィーリングといい、西洋音楽のエッセンスが完全に踏まえられているのです。興味本位のコラボをはるかに超えた、本格的なアンサンブルです。
3つとも、正統的な演出による美しい舞台で楽しめますが、《椿姫》と《ヘンゼルとグレーテル》がとくに、甲乙付けがたい出来栄えです。新聞の1位には《椿姫》を入れましたが、それは、この耳にたこができるほど聴いている作品を、やはり名作だなあと、しみじみ思ったから。フレミング、カレヤ、ハンプソンというキャスティングは伊達ではなく、パッパーノの指揮にも熱い勢いがあります。しかし、キルヒシュラーガー、ダムラウ、トーマス・アレンと揃えたフンパーディンクも、長老デイヴィスの名指揮を得て、劣らぬ出来になっています。
第2位は、エレーヌ・グリモーのモーツァルトのピアノ協奏曲第19番と第23番(+コンサート・アリア)。クリスタルな煌きのモーツァルトですが、独創的なスピリットにあふれていて、バイエルンの室内オケとのコラボレーションも緊密。指揮者なしの演奏のよさを、ますます感じるようになりました。
もう1枠は、藤原道山さんの尺八をウィーンのシュトイデ弦楽四重奏団による、「FESTA」というCDです。バッハの管弦楽組曲第2番の抜粋が入っていますが、トラヴェルソとまったく遜色のない妙技で驚きました。音感といいフィーリングといい、西洋音楽のエッセンスが完全に踏まえられているのです。興味本位のコラボをはるかに超えた、本格的なアンサンブルです。
今月のCD ― 2011年11月21日 22時49分52秒
今月は、メジャーなレーベルにいいものが揃っていましたので、ご案内します。
なにより、ジンマン指揮、チューリヒ・トーンハレ管による、シューベルト 《未完成》その他(RCA、2,520円)。作品をまったく新しい角度から聴かせる、クリエイティブな演奏です。
帯に、「史上最速?」と書いてある。たしかに速く、3拍子が1拍子に聞こえます。しかし流れは非常によく、せわしなさは感じません。むしろ、1つ上のレベルから見渡した風景が広がり、作品全体に、新しい展望が拓かれています。「憂いを帯びた旋律に高揚感があり、激しい訴えに、手に汗を握って聴き入る。こんなシューベルトはこれまでになかった」(新聞から)。
リストのピアノ協奏曲2曲を、バレンボイムがブーレーズの指揮するドレスデン・シュターツカペレとライヴ録音しました(グラモフォン)。顔ぶれだけのことはある演奏です。表面の技術に走らず、リストの詩的なロマンティシズムが奥深く捉えられているのは当然としても、ピアノとオーケストラの交流のレベルが高く、バレンボイムの手綱を、ブーレーズがしっかりと握っている。さすが、たいしたものです。
モーツァルトの交響曲第39番と第40番をアバドがモーツァルト管弦楽団を指揮したもの(アルヒーフ)を3位としました。個人的には1位でもいいと思うほど、「滋味豊かな愛のあるモーツァルト」です。幸福感をもって聴きました。
なにより、ジンマン指揮、チューリヒ・トーンハレ管による、シューベルト 《未完成》その他(RCA、2,520円)。作品をまったく新しい角度から聴かせる、クリエイティブな演奏です。
帯に、「史上最速?」と書いてある。たしかに速く、3拍子が1拍子に聞こえます。しかし流れは非常によく、せわしなさは感じません。むしろ、1つ上のレベルから見渡した風景が広がり、作品全体に、新しい展望が拓かれています。「憂いを帯びた旋律に高揚感があり、激しい訴えに、手に汗を握って聴き入る。こんなシューベルトはこれまでになかった」(新聞から)。
リストのピアノ協奏曲2曲を、バレンボイムがブーレーズの指揮するドレスデン・シュターツカペレとライヴ録音しました(グラモフォン)。顔ぶれだけのことはある演奏です。表面の技術に走らず、リストの詩的なロマンティシズムが奥深く捉えられているのは当然としても、ピアノとオーケストラの交流のレベルが高く、バレンボイムの手綱を、ブーレーズがしっかりと握っている。さすが、たいしたものです。
モーツァルトの交響曲第39番と第40番をアバドがモーツァルト管弦楽団を指揮したもの(アルヒーフ)を3位としました。個人的には1位でもいいと思うほど、「滋味豊かな愛のあるモーツァルト」です。幸福感をもって聴きました。
10月のCD選 ― 2011年11月04日 09時18分19秒
ちょっと遅くなりましたが、先月のCDとDVDとです。
クリストファーズ指揮、ザ・シックスティーンによる「ヘンデル・セレブレーション」というDVD(M-Plus)が祝典的高揚感にあふれていてとても良かったので、1位にしました。2009年BBCプロムスのライヴ。解説やインタビューも収録されていて、にぎやかです。《戴冠式アンセム》、オルガン協奏曲などに加えて、《セメレ》のアリアが収録されていますが、これを歌うサンプソンというソプラノ歌手も見事です。
2位には、テンシュテット指揮 ロンドン・フィルのマーラー 交響曲第5番を入れました(輸入DVD、ica)。1988年のライヴで、テンシュテットが病気療養から復帰した時期のものですが、演奏は重厚かつ熱烈、真摯の極みで、大いに聴かせます。
3位は、大谷玲子さんのポーランド・ヴァイオリン作品選集(ライヴ・ノーツ)。ルトスワフスキ、シマノフスキ、ヴィエニャフスキの魅力的なヴァイオリン曲を並べるという個性的な趣向が、しっかりした方向を見据えて作られたCDであることを物語っています。とても大事なことだと思います。
クリストファーズ指揮、ザ・シックスティーンによる「ヘンデル・セレブレーション」というDVD(M-Plus)が祝典的高揚感にあふれていてとても良かったので、1位にしました。2009年BBCプロムスのライヴ。解説やインタビューも収録されていて、にぎやかです。《戴冠式アンセム》、オルガン協奏曲などに加えて、《セメレ》のアリアが収録されていますが、これを歌うサンプソンというソプラノ歌手も見事です。
2位には、テンシュテット指揮 ロンドン・フィルのマーラー 交響曲第5番を入れました(輸入DVD、ica)。1988年のライヴで、テンシュテットが病気療養から復帰した時期のものですが、演奏は重厚かつ熱烈、真摯の極みで、大いに聴かせます。
3位は、大谷玲子さんのポーランド・ヴァイオリン作品選集(ライヴ・ノーツ)。ルトスワフスキ、シマノフスキ、ヴィエニャフスキの魅力的なヴァイオリン曲を並べるという個性的な趣向が、しっかりした方向を見据えて作られたCDであることを物語っています。とても大事なことだと思います。
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